4 総合解析

本年度の調査は予察的なものであり,総合解析は限定的なものにならざるを得ないが,文献調査では太平洋プレートの斜め沈み込みにともない生じた千島弧内帯の右雁行火山隆起帯に関連して標津断層帯が形成されたことが明らかになった.すなわち,その隆起帯の一つである摩周−知床隆起帯は周囲の沈降盆との間に断層・撓曲帯を形成ししつつ,隆起を進展させたものと思われる.本断層帯付近で鮮新世前半の幾品層が急傾斜〜逆転現象を示すことおよび鮮新世後半の陸志別層に知床半島が陸域・山地化したことを示す礫質岩相の発達が認められることなどから,鮮新世後半に本断層帯の形成が急激に進んだことが明らかとなった.しかし,第四紀前半においてどのように標津断層帯が活動したのかということについては,文献調査では断層帯付近では山地内火山岩類は別として,断層帯の平野側前面に前期更新世の地層(堆積)が明確に存在するという証拠がないことから,明確にならなかった.さらに,第四紀後半の本断層帯の活動の解明は,空中写真判読・現地予察では不十分であり,次年度以降の調査(地形地質調査・物理探査・ボーリング・トレンチ調査)に全てを託すことになった.

標津断層帯は北から丸山西方断層,古多糠断層,開陽断層および荒川−パウシュベツ川間断層より構成するとされるが,これらのうち,丸山西方断層および古多糠断層は右雁行状の隆起・沈降帯(堆積盆)である摩周−知床隆起帯と知床南東沖堆積盆の境界部に形成されたもので,火山弧である千島弧内帯内に形成されている.一方,開陽断層と荒川−パウシュベツ川間断層は千島弧外帯に属する外帯内帯境界堆積盆列の一つである根釧堆積盆と同内帯の火山隆起帯との境界に形成されたものである.その意味ではこれらの断層帯を一つで扱かうのが適当かどうかという問題もある.図3−13の調査地域付近の重力図で明らかなように,開陽断層付近では平野(根釧原野)に突出するように高重力域があり,それを切るように開陽断層が存在していることになる.この部分を横断して基礎物理探査「根釧」(測線X−B)が実施されており,その探査結果(地震探査断面)を詳細に吟味して高重力の実態を解明することも今後の課題である.なお,平野側へのこのような重力的高まりの突出はNW−SE方向でその他にも存在しており,摩周−知床隆起帯を横断するような構造変換線と標津断層の関係も今後検討する必要がある.