1−6 調査結果の概要

第1年次の調査として,地形地質調査,重力探査,反射法地震探査およびボーリング調査を実施した.

十勝平野断層帯は,総延長約120kmの断層である.リニアメントの分布から北セグメント,南東セグメント,南西セグメントの3つに区分し,第1年次は南東セグメント,南西セグメントについて調査を行った.

南東セグメントは音更町東部の長流枝内丘陵から幕別台地,上更別丘陵を通り,忠類村に至る.空中写真判読により,Ma−t1面〜Ma−t12面,Ma−a1,a2面の計14の地形面に区分した.リニアメントは,Ma−t1〜Ma−t5面からなる台地,丘陵上を通過し,東上がりの撓曲ないし傾動を成す.後期更新世の段丘礫層や沖積層が切られるような断層露頭は確認できなかったが,中期更新世の池田層の傾動,撓曲は,旭断層,新和断層,途別川断層で確認できた.

旭断層は,中期更新世の芽登凝灰岩に50m以上の撓曲変位を与えていることから,確実度Tの活断層と考えられる.撓曲崖を横断して行った群列ボーリングでは,旭断層の撓曲崖が池田層の急傾斜帯からわずかにずれていること,崖は河川による差別的な浸食により形成された可能性が示唆された.しかし,堆積環境の違いが断層変位により形成された可能性もあり,今後,ピット,トレンチ調査により確認すべき問題である.一方,反射法地震探査,重力調査により,旭断層は十勝川周辺の沖積低地では伏在し,幕別台地の北縁に達することが明らかとなった.茂発谷断層,新和断層(茂発谷断層南部を再定義),以平断層,弘和断層では,地形変位がMa−t1,t2,t3面といった,10万年より古い地形面に認められるため,最新活動期や最近数万年間の活動度,活動間隔の検討は困難であった.新和断層では,前期更新世の池田層に急立帯が存在するものの,より新期の地層の変位が確認できなかった.しかし新しい段丘ほど変位量が小さく累積性が確認できることから確実度Uとする.茂発谷断層,以平断層は,地形面に明瞭な変位が認められるが,活断層露頭を確認できなかったことから確実度U,弘和断層は段丘礫層に小規模なずれが認められたことから確実度Tとして扱う.途別川断層では,Kt−3〜Spfa 1を載せる地形面に東上がり変位が確認された.途別川断層では,中期更新世の芽登凝灰岩にも傾動ないし撓曲が存在し,池田層も10度前後で西傾斜することから,中期更新世以降も傾動・撓曲が継続していたことは明らかであり,確実度Tの活断層である.朝日断層では,Ma−t4,t5面に東上がりの撓曲地形が認められたものの,地質断層および段丘礫層の変位を確認することはできなかった.しかし,Ma−t4,t5面の変位量(10m,6m)から,中期〜後期更新世に累積変位が存在する可能性があるため,確実度Uとして扱う.上更別断層は,空中写真判読では明瞭なリニアメントを持つが,地質断層が確認できず,リニアメントが浸食で形成された可能性があるため,確実度Vとする.豊岡東断層,稲士別断層については,空中写真判読,地質調査のいずれでも活断層である証拠は認められず,活断層ではないと考えられる.明倫東断層は,リニアメントが以平断層と平行かつ分布がほぼ一致する,東落ちの断層崖であることから,以平断層のバックスラストであると考えられる.平均変位速度は,旭断層で0.08〜0.18m/ka(Ma−t10面の変位量5.5mの場合は0.41m / ka)(C級上位〜B級下位),茂発谷断層では0.06m / ka(C級中位),新和断層で0.02 m / ka〜0.07m / ka(C級下位〜中位),途別川断層で0.06m / ka(C級中位),以平断層で0.09 m / ka(C級上位),上更別断層で0.03m / ka以下(C級下位),弘和断層で0.03m / ka,朝日断層で0.06m / ka(C級中位)と見積もられた.旭断層を除けば,ほとんどの断層でC級の活動度を示すことになる.しかし,Ma−t5面より古い段丘については,形成年代が明らかでないため,旭断層,途別川断層,朝日断層を除くと平均変位速度の確度は低く,数十パーセント程度の誤差を有する.

南西セグメントは,更別村南西の扇状地性段丘から広尾−紋別丘陵を経て広尾町へ至る.地形面はHi−t1〜t10,Hi−a1,a2の12面が認められる.

更南断層はHi−t2面に東上がり10m前後の地形変位を与えている.Hi−t2面の年代を340kaと仮定すると平均変位速度は0.03m / kaでC級下位程度の活動度を示す.段丘礫層に西傾斜が生じていることから,確実度Tとする.

光地園断層については,少なくとも光地園付近における,活断層研究会(1980;1991),東郷(1982)によるリニアメントは活断層ではない可能性が,地形・地質調査,および浅層反射法地震探査から明らかとなった.Hi−t1面の他の箇所でも,活断層によると考えられる地形変位は認められない.一方,広尾町開進以南では,広尾断層沿いに多数のリニアメントが存在し,局所的ながら断層崖に似た逆向き低崖も存在する.また,上野塚地区のボーリング結果は,累積的な断層変位により,礫層の厚さの違いと上面高度のずれが形成された可能性を示唆する.しかし,これらの地形は,河川による浸食,組織地形の可能性も残り,今のところ活断層の存否の判定は難しい.これらの問題を明らかにするためには,上野塚地区でのピット調査,トレンチ調査により,変位地形とされた地形について,より詳細に極浅部の地下構造を検討する必要がある.