4−7 まとめと今後の課題

今回の調査によって,当別断層の北方のセグメントaでは,およそ4,500年から7500年の間隔で最大マグニチュード6.8の地震を起す断層運動が存在したことが明らかになった.また,最も新しい活動は約4,500〜5,500年前に起こったと推定され,断層運動が時間予測モデル的に一つ前のイベントの変位量に依存した期間でおこるとすれば,近い将来に同程度の規模の地震が発生する可能性がある.ただし,近い将来といっても,時間的な予測精度には幅がある.したがって,いたずらに不安になる必要はないが,活動間隔の年代幅の中間値を既に超えており,いざという場合の備えを忘れてはならない.そのためには,住民のひとりひとり,地域,自治体,国そして防災関係機関が一体となって,それぞれの段階での地震対策を進めてゆき,地域の全体的な防災力を高めて,被害を最小限にする努力が必要である.

まず,自分たちの住む地域の活断層の位置や,自分の住む場所の地盤条件について,よく確認し,建物や室内の安全性等について十分な配慮をしてゆきたい.活断層の上に重要な構造物をつくることは避けたい.また,年代の幅を考えるならば,このことを次の世代へ伝えてゆくことも重要である.活断層の周辺はもとより当別町・新篠津村・江別市・北広島市に住む人々は,地震との共生という観点に立ち,日頃から特に地震防災に心がけてゆく必要がある.

なお,個々の活断層に関してはまだ,いくつかの課題が残っている.活動間隔の確定に関しては,セグメントaでは段丘面の累積変位が明らかなので,段丘面の編年をより詳細に検討することがこの問題を解く鍵となると考えられる.

セグメントbについては,地形を基本とした調査では限界に近く,地表踏査で断層露頭を積極的に探す必要がある.

セグメントdについては,最新活動期を特定する必要があろう.それは,1,000〜1,400AD以前に発生したと考えられる恵庭市カリンバ遺跡の噴砂イベントが,本地域の最新活動期に相当するか否かで,要注意断層か否かが明確になるためである.

本調査では,ピット・ボーリング調査で,可能な限りの地点で調査をおこなった.その適地と見たところも,実際ピット孔をあけると,予想以上に盛土・耕作土化による擾乱が著しいことがわかった.そのほかの地点ではますます条件がわるくなるであろう.

地震イベントの特定には,別な観点からみる方法,低地では液状化現象を,丘陵地では地震性ランドスライドの認定とイベントの解明が有効と考えられる.

江別市対雁2遺跡の砂脈のイベントは重要であるが,今のところ下限年代2,000yBP以降とだけ判明し,上限年代が特定されていないことから今後の調査の進展が待たれる.

なお,撓曲〜傾動した地質から断層活動を解析するとき,イベントが判明しても,そのほかの基本的な数量(単位変位量と平均変位速度)を引き出すことが現状ではできない.これは,本地域のみならず,東北日本弧の厚い堆積盆地に形成される活断層の基本的な問題であり,解析手法の開発が望まれる.