(2)千歳市泉郷地区(いずみ学園南東)

a.調査概要

千歳市泉郷地区のピット掘削位置を図3−1−3−5に示す。

南北に長く分布する馬追丘陵と東側の長沼低地との間には、数段の段丘面がNNW−SSE方向に細長く分布している。これらの段丘面は長沼低地側から最も低い低位面、中位面、高位面に区分されており、中位面及び高位面は西側に緩く傾斜している。また、これらの段丘面と東側の馬追丘陵との間は、嶮淵川が流れる沖積低地によって境されている。泉郷断層は、高位段丘面に対比されている西に緩く傾斜する段丘面の頂部のやや西側に、NNW−SSE方向にほぼ連続する逆向き断層崖からなるリニアメントとして認められている。泉郷地区から追分町に抜ける道道がこのリニアメント横切る箇所において、段丘面上の畑の造成に伴って新たな露頭が形成され、そこに第四系を切る逆断層が出現した。この断層露頭の下部において、過去の断層活動履歴を明らかにする目的でピットを掘削した(図3−1−3−6)。掘削したピットは長さ18m×幅5m×深さ3mである。ピットの位置及び形状を記入した縮尺1/200のピットとその周辺の実測平面図を図3−1−3−5右欄に添付する。

なお、ピット掘削時に地下水による湧水はほとんど認められなかった。

千歳地区表層地質図(岡,1998)およびV1.2の地表精査を参考にすると、断層の上盤、下盤ともに基盤岩としては新第三系中新統の追分層が分布し、それらの地層の上位に高位面を構成する更新統が分布している。

ピットの地質は、大きくT〜Y層の6層に区分され、上位よりT層の軽石層(Ta−a)及び黒ボク土、U層の軽石(En−a)混じりローム層及び軽石層(En−a)、V層のローム層、W層の砂礫層、X層の海成砂層、Y層のシルト岩からなる。W層については、層相によってさらにWa〜Wd層の4層に細分される。

本ピットにおける観察及びスケッチは、ピット内の入り口を除く東面、南面、西面とピットの上に位置する露頭の東面及び南面について実施した。ピット及び露頭法面の写真展開図を図3−1−3−7に、スケッチ・解釈図を図3−1−3−8および図3−1−3−9に示す。

b.地層区分

以下に千歳市泉郷地区(いずみ学園東方)ピット及び露頭に分布する各地層について記載する。

T層:軽石層(Ta−a)及び黒ボク土

本層は上部の軽石層と下部の黒ボク土からなる。上部の軽石層は層厚20〜50cmで、軽石層の上部に草木からなる未発達の表土が薄く分布する。軽石層は全体に灰白色を呈し、有色鉱物や岩片を多く含み、軽石の発泡の程度は低い。下位の黒ボク土との境界は凸凹しているが、シャープである。本軽石層は、上、中、下の3つのユニットに分けられ、上部のユニットは平均径0.5cm程度(最大1cm)の灰白色軽石からなり、自形の有色鉱物や岩片を多く含む。軽石の淘汰は悪く、発泡の程度も低い。中部のユニットは径0.3cm程度の灰白色軽石からなり、淘汰が良く、上下のユニットに比べ有色鉱物や岩片が少ない。下部のユニットは径0.2〜0.3cm程度の灰白色軽石からなり、淘汰が悪く、有色鉱物や岩片を多く含む。本軽石層はTa−aに対比される。本軽石層の下位には層厚20〜70cmの黒ボク土が分布する。黒ボク土の上部には、径0.2〜1cmの淘汰が悪く発泡の程度が非常に低い軽石が散在〜一部レンズ状に密集して挟在している。この軽石は火山灰分析によってTa−cに対比された(図3−3−4)。

U層:軽石(En−a)混じりローム層及び軽石層(En−a)

黄灰〜明黄灰色の軽石層とその上位の軽石混じりローム層からなる。軽石層は層厚1〜1.5m程度で、最下部に厚さ5cm程度の有色鉱物を多く含む火山砂を伴う。軽石層の下部の厚さ0.7〜1m程度は、平均径0.5〜0.8cm程度(最大5cm)の黄灰〜明黄灰の軽石からなり、軽石中には有色鉱物が多く含まれている。軽石層の基質は全体の10%程度を占め、主として火山砂からなり、ルーズで未固結である。上部の軽石層は径0.5〜3cm程度の下部と同様の軽石を含むが、風化して約半数が粘土化している。上部の軽石層は下部に比べ、やや締まっている。最上部の厚さ10〜50cm程度は軽石混じりのローム層となっている。緩斜面部に分布する軽石混じりローム層中には、不連続なすべり面が局所的に認められる。

V層:ローム層

層厚20〜50cmの褐色ロームからなる。ローム層の中部には径0.5cm程度の赤橙色軽石、岩片、有色鉱物からなるテフラを薄くレンズ状に挟在する。このテフラは火山灰分析によって羊蹄第一テフラに対比された(図3−3−4 )。また、ローム層の上部には黒褐色の砂質火山灰が薄くレンズ状に分布し、下部には径0.1〜0.3mmの灰色の火山岩片が一部でレンズ状に濃集して分布する。下位の砂礫層との境界は漸移的である。

W層:砂礫層

W層の層厚は断層の上盤側と下盤側で大きく異なり、主断層の上盤側では厚さ1m弱であるが、下盤側ではピット内において下限が確認されず、厚さ3m以上である。本砂礫層は層相からWa〜Wd層に細分され、主断層の上盤側にWa,Wc層が、主断層の下盤側にWa〜Wd層が分布する。

Wa層は主として褐色の中粒〜粗粒砂からなり、上部に細粒砂を挟み、下部に細礫層を多く挟む。淘汰が良く、平行葉理が明瞭である。細礫層に含まれる礫は、径0.3〜0.5cm程度のチャート、砂岩の亜円礫である。全体に赤褐色に酸化している。

Wb層は黄褐色の細粒〜粗粒砂からなる。全体に細礫を多く含み、淘汰が良く、平行葉理が発達している。細礫薄層および下部の粗粒砂部は赤褐色に酸化している。また、下部に径0.5〜1cmの円礫からなる薄層を挟む。

Wc層は褐〜赤褐色の礫層からなる。径0.5〜1cm程度(最大4cm)の円〜亜円礫を含む。礫種はチャート礫が多い。基質は細粒砂からなる。不明瞭な葉理がみられる。

Wd層は黄褐色の淘汰の良い中〜細粒砂を主体とし、褐色の礫層を挟在する。下部に下位層起源の黄灰色の粘土を偽礫状に含む。

X層:海成砂層

主に砂・砂質シルト・粘土の細互層(10〜50cm程度)からなる。砂は灰褐色の淘汰の良い細粒〜極細粒砂からなり、灰白〜黄灰色粘土の薄層をレンズ状〜偽礫密集状に含む。砂質シルト・粘土層は灰白〜淡褐色で、まれに粘土層中に細礫サイズのチャート亜円礫を含む。本層中には径3cm程度の管状の生痕がよく見られる。また、一部に層厚10cm程度の細礫層を挟む。細礫層は径0.3〜0.8cmのチャート亜円礫からなり、基質はほとんど含まれない。下位のY層との境界は削り込みによって凸凹しており、径0.5〜5cmの亜円礫からなる基底礫を伴う。

Y層:シルト岩

灰色の塊状シルト岩からなる。軟質で、岩片サイズの剥離面が顕著である。

本層の上限から10〜100cmは褐色に酸化している。堆積構造は不明である。本層は新第三系の追分層に対比される。

c.地質構造

新第三系上限のX層/Y層境界は、ピット上の露頭南法面の中央部で最も高い位置に分布し、境界面はその付近では水平に近いが、中央から西側では西に緩く(5°〜10°程度)傾斜し、東側では断層に近づくにつれて東に急傾斜となる。X層の構造は、露頭南法面の中央部ではほぼ水平であるが、その東側でN11°E15°E、さらに東側でN2°E32°E、断層近傍でN8°W82°Wと断層に近づくにつれて急傾斜となり、断層近傍では断層に引きずられて上下が逆転している。

次にW層の分布および構造をWd〜Wa層についてみると、Wd層はf1断層の下盤側にのみ分布し、層理面の構造はN−S45Eである。Wc層は、露頭南法面の中央から東側に分布し、その付近の層理はN81°E15°Sで,f2断層に近づくにつれて緩く東に傾斜するとともに、厚さが増している。Wc層はf2断層下盤側で、層厚80cm程度になり、N24°W20°Eの層理を示す。Wb層はf2断層の下盤側にのみ分布し、厚さは1.8m程度で、N8°W26°E程度の層理を示す。Wa層は、露頭南法面ではWc層を直接覆って、露頭南法面の中央から東側に分布する。露頭南法面の中央部ではほぼ水平であるが、f2断層に近づくにつれて東に緩く傾斜する。Wa層はf2断層の下盤側で層厚が増して厚さ1.8mとなり、f4断層の下盤側でさらに層厚が増して3m程度となる。Wa層は、f4断層の下盤側でN20W18E程度の層理を示す。Wa層を覆ってV層のローム層が露頭全域わたって分布する。V層はWa層をほぼ整合的に覆っているが、f2c断層の上盤側ではWa層の上部が削剥された後に堆積している。また、V層はf2a断層の下盤側でYo−1以降に堆積した地層の厚みがやや増している。なお、V層上面の層理は露頭東法面の北側でN76E10Nである。V層を整合的に覆ってUaおよびUb層のEn−a軽石層が分布する。En−a軽石層の全体の層厚は露頭南法面の中央から西側で薄く(50cm程度)、露頭南法面の中央から東側および露頭東法面にかけての斜面上で厚い(150cm程度)。また、Ub層はf2a断層の下盤側でやや厚く分布する。さらに、Ua層をマントル状に覆って黒ボク土およびTa−a軽石層が分布する。

d.地層の年代

活断層の活動に関係する地層の年代を知るために、火山灰同定と14C年代測定を行った。

[火山灰同定]

本ピットの図3−1−3−10図3−1−3−11に示す位置から採取した2試料(Iz−Pt−T1,Iz−Pt−T2)について火山ガラス形態分類、屈折率測定および鉱物組成分析を実施した結果を図V1.3●に示し、以下に記載を行う。

Iz−Pt−T1:

En−aテフラの下位に分布するローム層中の軽石層から採取した試料である。径2〜3mmのオレンジ色の軽石と灰色でほとんど発泡していないラピリを主体とする。層厚は最大5〜6cmである。

鉱物組成は、ガラスがわずかに付着した斜長石を主体とし、火山岩片を含む。重鉱物は、斜方輝石および緑色普通角閃石を多く含み、単斜輝石も含む。

ガラスの形態は、長石に付着している容積が非常に小さいため明確ではないが、パミスタイプを主体とするとみられる(細かい発泡跡が残存することが多い)。ガラスには微斑晶が多く含まれる。

ガラスの屈折率は、1.5021−1.5234の範囲にあり、1.521−1.525に集中し、1.502付近のものは1/37粒子しか含まれない。斜方輝石の屈折率は、1.7199−1.7278である。

以上の記載は「火山灰アトラス」のYo−1に類似する。本火山灰の上位には、En−aが分布する。わずかに含まれるバブルウォールタイプのガラスは、屈折率が1.502付近であることから、支笏火砕流の混在粒子と考えられる。これは、本層準が支笏火砕流の上位にある可能性を示している。したがって、Iz−Pt−T1は、Yo−1に対比可能である。ただし、Yo−2については記載がないため、対比の検討は行っていない。

Iz−Pt−T2:

Ta−aの下位に分布する軽石混じり黒ボク土に挟まれる軽石層から採取した試料である。径1〜3mmの白色軽石を主体とする。層厚は最大数cmである。

鉱物組成は、微斑晶をガラスで繋いだ火山岩片を主体とし、斜長石を多く含む。パミスタイプのガラスも含む。重鉱物は、斜方輝石および単斜輝石を多く含む。わずかにカンラン石も含む。

ガラスの屈折率は、1.5025−1.5052の範囲にあり、1.503−1.505に集中し、斜方輝石の屈折率は、1.7119−1.7143である。

以上の記載は、「火山灰アトラス」のTa−cに類似する。本軽石層はTa−aの下位に分布する軽石混じり黒ボク土中に挟まれる。下位にはEn−aが分布し、本軽石層の層準はTa−aとEn−aに挟まれる。したがって、Iz−Pt−T2はTa−cに対比可能である。

14C年代測定]

En−a火山灰直下のローム層(V層)中の腐植質シルト(試料番号Iz−Pt−C3)を採集し、14C年代測定を行った。その結果は表3−3−2に示すようである。13,390±80yBPの測定値はテフラの年代と比較するとやや新しい年代を示している。

以上の火山灰同定・14C年代測定結果はV層以上の地層の年代が、後期更新世末〜現在(2万年前以降)であることを示している。

e.断層活動

断層の変位量(垂直シフト量)]

泉郷地区(いずみ学園東方)の露頭及びピット法面には、f1〜f4の断層が分布し、f2断層は上方で主にf2a、f2b、f2cのそれぞれ活動時期が異なる3条の断層に、f4断層はf4a、f4bの活動時期の異なる2条の断層に分岐している。これらの断層の変位量(傾斜変位量)を表3−1−3−3および図3−1−3−12に示す。それぞれの断層の1回の変位量は、Wa層上部の堆積期にf4a断層を生じた活動とWa層上部堆積期〜V層堆積前にf2b断層を生じた活動の大小2回の活動を除いて、0.7〜1.0mの範囲にある。

[断層の活動時期]

断層と地層の被覆関係から断層の活動時期をまとめ、図3−1−3−12に示す。

断層の活動は新しい方から、T層/Ua層境界に認められるf2c断層の活動、Ub層/V層境界に認められるf2a断層の活動、V層/Wa層境界に認められるf2b断層の活動及びWa層堆積中に認められるf4a、f4b、f3断層の活動の少なくとも計6回の活動が推定される。V層/Wa層境界に認められる断層の活動(f2b断層の活動)については、f2b断層による地層の変位量はわずかであるが、Wa層上部の削剥がf2b断層の上盤側で顕著であることから、Wa層上部の堆積期〜V層堆積前の間にf2b断層の上盤側が変形して相対的に上昇した可能性が高いことから推定した。

T層/Ua層境界に認められるf2c断層の活動は、En−a(15〜17kyBP)の降下後からTa−c(2.5〜3kyBP)が降下する前までの間に推定されるが、En−a軽石降下後に比較的時間をかけて形成されたことが推定される軽石混じりローム層(Ua層)がf2c断層によって切られていることから、活動時期はEn−a軽石降下直後よりも、むしろTa−cの降下期に近い時期に推定される。なお、f2c断層の最新活動時期を確認する目的で、地表精査の一環で実施された14C年代測定結果によると(表3−1−2−1図3−1−3−10)、IP−4試料(6,450±50yBP)、IP−6試料(5,660±60yBP)、IP−5試料(4,200±60yBP)を含むUa層が断層によって切られ、IP−8試料(5,090±70yBP)、IP−2試料(2,370±40yBP)、IP−1試料(1,410±40yBP)を含むT層が断層を被覆している。この内IP−8試料は断層直近の下盤側でUa層を削り込む溝を埋めている黒ボク土から採取されたもので,その年代値は,Ua層の二次堆積物が混じったために、実際の年代よりもやや古くなっている可能性がある。したがって、f2c断層の最新活動時期は、IP−5試料の4,200±60yBP〜IP−2試料の2,370±40yBPの間のTa−cテフラ(2.5〜3kyBP)降下前に推定される。

Ub層/V層境界に認められるf2a断層の活動時期は、Yo−1テフラ(15〜18kyBP)の降下及びIz−Pt−C3層準(14C年代:13,390±80yBP)の堆積後〜En−a軽石(15〜17kyBP)の降下前までの間に推定される。ここでは広域テフラの降下年代から推定される年代に比べ、やや新しい14C年代が得られている。また、Yo−1テフラの降下からEn−a軽石の降下までの間には、厚さ20cm程度のローム層が堆積していることから、この間に時間の経過が推定される。したがって、ここでYo−1テフラに対比した火山灰の降下時期は、火山カタログに記載されているYo−1の年代よりも古い可能性が考えられる。一方、En−a軽石の降下時期は、多数の14C年代から推定されており、確度が高いため,ここではf2a断層の活動時期として、En−a軽石降下期直前の約16kyBPを採用する。

W層の年代については、W層中のWc層(礫層)が露頭南法面の西側でKt−1テフラ(40〜42BP)の下位に位置していること(図3−1−3−8図3−1−3−9)、W層は下位の海成層から引き続いて堆積した大河川性の堆積物と推定されること、W層は高位面を形成する主要な堆積物であることから、W層は数10万年前に堆積した地層と考えられる。一方、W層堆積時の断層活動については、Wa層堆積期にf4a、4b、3の3回の断層の活動が推定される。また、Wb層堆積期にもWb層がf2a断層の下盤側で厚くなること、W層基底面に関するf2a〜f3断層の変位量がf2a〜f3断層の個々の変位量の合計に比べて0.6mほど大きいことがらWb層の堆積期にも断層の活動が推定される。したがって、Wc層〜Wa層が堆積した時期の数10万年前から約20kyBPの間に、少なくとも4回程度の活動が推定される。さらに、Wd層はf2断層の下盤側にのみ分布することから、Wd層堆積期〜Wc層堆積前の間にf2断層が活動した可能性も推定される。