7−2−2 いずみ学園南東ピット

[調査概要]

 ピット掘削箇所は馬追丘陵中主部ブロックの北端部の台地(段丘2面)に位置している(付図)。ピット位置の選定については、7.2.1で述べたような経緯がある。既存露頭(写真23)の一部を掘り下げて、長さ18m×幅5m×深さ3mのピットを掘削し(図56写真24)、既存露頭部分を合わせてスケッチを行った(写真25図5758)。さらに、地層の年代・断層活動時期を明らかにするために14C年代測定および火山灰分析を行った(図59)。なお、便宜上、以下の説明では既存露頭部分もピット内として取り扱う。さらに、本ピットはスケッチなどの都合上、既存露頭(農地造成切土)に合わせて掘削しているため、泉郷断層に直交する方向にピットの長さ方向が設定できていないので、スケッチ・写真(展開図)を眺める際には留意が必要である。

[ピット内の層序]

 段丘2堆積物(T2)として、上位より I 〜VI層が区分できる。それらの詳細は以下のとおりである。

  I 層(Ta−aおよび腐植土層):上部のTa−aは層厚0.2〜0.5mで、その上位に植物根を含む腐植質の表土が薄く分布し、下位層との境界は多少凸凹しているが、シャープである。軽石質で軽石の粒径は2〜5mm程度で、全体に灰白色を呈し、有色鉱物や岩片を多く含み、淘汰のちがいや有色鉱物・岩片の含有の程度により、上・中・下の3つのユニットに分けられる。Ta−aの下位は層厚0.2〜0.7mの腐植土(黒ボク)により占められるが、その上部には径0.2〜1cmの淘汰が悪く発泡の程度が非常に低い軽石質の火山灰が散在〜一部レンズ状にはさまれる。これは火山灰分析(試料Iz−Pt−T2)によりTa−cに対比できた(巻末資料6)。

 II層(En−a軽石まじりローム層およびEn−a):黄灰〜明黄灰色軽石質火山灰のEn−a(層厚1〜1.5m)とその上位の軽石まじりローム層(層厚0.1〜0.5m)からなる。En−aは最下部に厚さ5cm程度の有色鉱物を多く含む火山砂をともなう。下部(厚さ0.7〜1m程度)は平均0.5〜0.8cm程度(最大5cm)の軽石からなり、軽石中には有色鉱物が多く含まれ、基質(10%程度の割合)は主として火山砂からなる。上部は径0.5〜3cm程度の下部と同様の軽石を含むが、風化してかなり粘土化している。緩斜面部に分布する軽石まじりローム層中にには不連続なすべり面が局所的に認められる。

 III層(ローム層):層厚0.2〜0.5mで褐色を呈する。中部には径0.5cm程度の赤橙色軽石、岩片、有色鉱物からなる火山灰を薄くレンズ状にはさむ.これは火山灰分析(試料Iz−Pt−T1)によりYo−1(羊蹄第一テフラ)に対比できた(巻末資料6)。上部には黒褐色の砂質火山灰が薄くレンズ状に分布し、下部には径0.1〜0.3mmの灰色の火山岩片が一部でレンズ状に濃集する。下位の砂礫層との境界は漸移的である。なお、本層中に含まれる腐植質シルトから試料(Iz−Pt−C3)を採取し14C年代を測定した結果では13、390±80y.B.P.の値が得られた(巻末資料7)。

  IV 層(砂礫層):層厚は主断層の上盤側と下盤側で大きく異なり、上盤側では1m弱であるが、下盤側ではピット内において下限が確認されず、3m+である。層相から IV a〜 IV dに細分でき、上盤側に IV a、 IV c層が、下盤側に IV a〜 IV d層が分布する。 IV a層は褐色の中〜粗粒砂からなり、上部に細粒砂をはさみ、下部に細礫層を多くはさみ、淘汰が良く、平行葉理が明瞭である。礫は径0.3〜0.5cm程度のチャート・硬質砂岩で亜円である。 IV b層は黄褐色〜赤褐色の細〜粗粒砂からなる。全体に細礫を多く含み、淘汰が良く、平行葉理が発達している。下部に径0.5〜1cmの円礫薄層をはさむ. IV c層は褐〜赤褐色の礫層からなり、礫は径0.5〜1cm程度(最大4cm)で、チャート礫が多い。基質は細粒砂からなる。 IV d層は黄褐色の淘汰良好な中〜細粒砂を主体とし、褐色の礫層をはさむ.下部に下位層起源と思われる黄灰色の粘土を偽礫状に含む。

  V 層(海成砂層):主に砂・砂質シルト・粘土の互層(1サイクル0.1〜0.5mの厚さ)からなり、層厚は5m+である。砂層は灰褐色の淘汰良好な極細〜細粒砂からなり、灰白〜黄灰色粘土の薄層をレンズまたはちぎれ状に含む.本層中には径3cm程度の管状の生痕が多い。一部には層厚10cm程度の細礫層(径0.3〜0.8cmのチャートなどの亜円礫)からなり、基質は少ない。下位のVI層との境界は削り込みにより凸凹しており、基底礫(径0.5〜5cm)をともなう。

 VI層(シルト岩):灰色の塊状シルト岩からなる。軟質で岩片サイズの剥離面が顕著であるが、堆積構造は破砕などを受けているため詳細は不明であるが、塊状〜弱層理であろうと推察される。露頭内の分布上限から0.1〜1m部分は褐色に風化している。近隣の第四系下の地質状況からとらえると、後期中新世追分層と判断される。

[ピット内の構造]

 大局的には段丘3堆積物の主体をなす V ・ IV 層は一部S字状の撓曲構造を成し、それに断層(f1〜f4)がともなわれ、それらの一部はIII〜 I 層中にも延びている。

 新第三系の上限の V 層とVI層の境界面(不整合面)はピット上位の露頭の南面の中央部で最も高い位置に分布し、その付近では水平に近いが、中央から西側では西へ緩く傾斜し(5〜10°程度)、東側ではf1断層に近づくにつれて東に急傾斜となる。 V 層は露頭南面の中央部ではほぼ水平であるが、その東側では走向N11°E15°E、さらに東側でN2°E32°E、断層近傍でN8°W82°Wと断層に近づくにつれて急傾斜となり、断層近傍では断層に引きずられて逆転している。 IV 層のうち IV d層はf1断層の下盤側にのみ分布し、層理はN−S45°Eである。 IV c層は露頭南面の中央から東側に分布し、その付近の層理はN81°E15°Sで、f2断層に近づくにつれて緩く東へ傾斜するとともに、厚さが増している。 IV c層はf2断層下盤側で層厚80cm程度になり、N24°W20°Eの層理を示す。 IV b層はf2断層の下盤側にのみ分布し、厚さは1.8m程度で、N8°W26°E程度の層理を示す。 IV a層は露頭南面 IV c層を直接覆って、その中央から東側に分布する。中央部ではほぼ水平であるが、f2断層に近づくにつれて東に緩く傾斜し、f2断層の下盤側で厚さが1.8mとなり、f4断層の下盤側では3m程度と増大する(層理N20°W18°E)。III層は IV a層を覆って露頭全域に分布するが、f2c断層の上盤側では IV a層の上部が削剥された後に堆積している。III層はf2a断層の下盤側でYo−1以降に堆積した地層の厚みがやや増している。III層を整合的に覆ってIIaおよびIIb層が分布する。II層の全層厚は露頭南面西側で小さく(0.5m程度)、南面の部分から露頭東面にかけての斜面上で厚い(1.5m程度)。IIb層はf2a断層の下盤側でやや厚くなる。さらに、f2c断層にほぼその全体が切られるII層をマントル状に覆って I 層が重なる。

 f1断層はN22°W52°Wの走向傾斜を有する西上がり東落ちの逆断層で、 V 層の引きずりによる変形をともなう。破砕の状況およびずれの規模(露頭南面とピット内南面の範囲では少なくとも V 層の全体の厚さ分のずれが生じている)から判断して、主断層そのものの可能性が高い。f2断層はピット内の観察ではN−S28°W、N15°E49°W、N48°W32°SW、N25°W44°Wの走向傾斜が測定でき、上方に向かって4〜5つに分岐しており、これら断層群の走向・傾斜としてN43°w84°SW、N20°W56°W、N20°W56°W、N87°W30°S、N32°W22°SWなどであり、東落ちの逆断層群である。f2aおよびf2bの断層はIII層内で下からの延びが止まっており、落差は1m前後以内である。f2c断層はII層まで延び落差は0.5m程度である。ピット内の観察では、その他f2断層に近接してf3断層が存在し、さらに主要なものとしてf4断層が存在している。f4断層のN50°E、14°SEN72°W12°S、N−S28°W、N15°E49°Wの走向傾斜が測定でき、 IV 層中に2m余りの東落ち落差を生じている。

[総合解析]

 ピットとその関連露頭に現れた地層についての年代について、年代が明らかに古いVII層はここでは問題としない。VI〜 IV 層についてはラグーン成と思われる IV 層の上に明らかに河川成(網状河川)の V 層が整合的に重なっていることから、これらは一つのシーケンス堆積物とみなされる。地形面の対比などから段丘2堆積物(T2)としたが、確実な年代値は今のところ存在しない。III〜 I 層については、下位よりYo−1(17ka)、En−a(15〜18ka)、Ta−c(2.5〜3ka)、Ta−a(1739A.D.)をはさむこと、III層から13、390±80y.B.P.の14C年代が得られていることなどから、ほぼ2万年前以降の堆積物であることが明白である。ただし、露頭南面西側ではYo−1をはさむローム層の下位にSpfa 1(31〜41ka)およびKt−1(39〜42ka)の存在も確認でき(図60)、所によりIII〜 I 層に準ずる地層はさらにより古いものが付加されている。

 写真23 いずみ学園南東ピット箇所の掘削前既存露頭の全景

 写真24 いずみ学園南東ピット箇所の全景(正面は東面)

 図56 千歳市泉郷いずみ学園南東ピット箇所の測量図

 写真25 千歳市泉郷いずみ学園南東ピットの法面写真展開図(既存露頭部分を含む)

 図57 いずみ学園南東ピットのスケッチ・解釈図その1(主に既存露頭部分)

 図58 いずみ学園南東ピットのスケッチ・解釈図その2(ピット部分)

 図59 いずみ学園南東ピット既存露頭部分の試料採取位置

 写真26 いずみ学園既存露頭のEn−a(II層)とその上位の腐植層( I 層)の一部を切るf2c断層

 図60 いずみ学園ピット箇所既存露頭部分(南面)西半部のスケッチ図