7−1−2 緑が丘ピット

[調査概要]

 ピット掘削箇所は岩見沢丘陵南西部の台地(段丘3面)上に位置している(付図)。ピット位置の選定にあたっては第1年次の浅層反射法地震探査(岩見沢測線)およびボーリング調査(緑が丘M−1〜4孔)によって推定された新第三系中の断層およびボーリング調査箇所北方の緑が丘霊園付近に確認される明瞭なリニアメントなどを考慮して検討した。検討の結果、第四系(段丘3堆積物T3およびTC)中に断層が存在するならば、ボーリングM−1孔とM−3孔の間に存在する可能性が最も高いと判断されたため、この間で、リニアメントに直交する方向に長さ20m×幅5m×深さ4mのピットを掘削し(図54)、北面のみを80mについて写真撮影・スケッチを行った(写真22図55)。さらに、地質年代を明らかにするために14C年代測定と花粉分析 を実施した(巻末資料7・8)。

[ピット内の層序]

 TCに相当する堆積物がほぼ水平に分布し、上位より I 〜VI層に区分できる。それらの詳細は以下のとおりである。

  I 層(耕作土):層厚0.2〜0.4mの暗褐色腐植質シルト(黒ボク)からなり、ときに下位のシルトを取り込む。

 II層(黄灰色〜赤褐色シルト):層厚0.5〜1m±.上からの酸化が進み、網目状の植物痕跡に灰色粘土がしみ込んでいる。下位層とは漸移的であるが、軽石含有量が異なっている。

 III層(軽石まじり砂質シルト;Spfl二次堆積物):層厚0.2〜1m±.上部は酸化が進み黄褐色、下部は緑灰色を呈す。径0.2〜0.3mm程度(最大1.5cm)の繊維状に良く発泡した軽石(Spfl)を10%程度含む極細粒の火山灰質シルトである。弱腐植質およびシルトの薄層をはさみ、葉理がある。

  IV 層(砂質シルト):層厚0.3〜1m±.緑灰色・火山灰質で塊状であるが、下部は淘汰が悪く中粒砂を多く含む.最下部には自形の有色鉱物を多く含む中〜粗粒砂の薄層、中部には火山灰質の粘土薄層をはさむ.基底より10cm上位の火山灰質砂質シルトから花粉分析試料(Mg−pt−P−1)を採取した。

  V 層(強腐植質シルト〜泥炭):層厚0.2〜1.8m±.黒褐色〜灰褐色で、数cmから最大1mまでの木片・樹幹を多く含む.下部に径1mm以下の白色軽石が層状に散在する。本層は支笏火山灰(Spfl、Spfa1)噴出直前の特徴的な泥炭層であることから14C年代測定および花粉分析を実施した。まず、中部にふくまれる木片について14C年代測定を実施し、49、500±1、700y.B.P.の値を得た。次に上面付近、上面から20cm下、同40cm下、同80cm下(基底付近)より、Mg−pt−P−2、Mg−pt−P−4、Mg−pt−P−6、Mg−pt−P−10の4試料を採取し花粉分析を実施した(アースサイエンス社五十嵐八枝子博士分析)。分析の結果、花粉帯は下位より1帯(Mg−pt−P−2〜10)と2帯(Mg−pt−P−1)に区別され、現在のサハリンの表層花粉と比較すると、1帯の示す植生は現在のサハリン中部のエゾマツ−トドマツ−グイマツ林、2帯の示す植生は北部サハリンのグイマツ−エゾマツ林に対比されることが明らかになった。

 VI層(弱腐植質粘土〜シルト):層厚0.3〜1m+.灰色〜暗灰色、塊状で、径1〜2mmの軽石を少量含む中粒砂の薄層を不規則にはさむ。

[ピット内の構造]

 地層の大局的な分布状態はほぼ水平であるが、 I 〜VI層のうち、III〜 V 層は寒冷気候下のインボリューションが著しく、最大80cm程度上下している。そのため、断層による比高1m程度の変形は検出が困難である。断層を示す、地層が明らかに切られる現象は存在しないことから、変位が存在するとすれば撓曲または傾動現象が考えられる。

[ボーリング調査の結果を合わせた総合解析]

 地層の年代は、上記の花粉分析結果により IV 層最下部(2帯)は V 層(1帯)より気候がより寒冷・乾燥化したと推定できる。激しい周氷河現象(インボリューション)がIII層堆積後に生じていることは、III・ IV 層(2帯)が V 層に比較してより厳しい気候下にあったことと調和している。石狩低地帯ではインボリューションの多くがSpfa1に生じていること、III・ IV 層は岩相からみて、支笏火山噴出物の二次堆積物の可能性が高いこと、 V 層中部の木片試料が5万年前頃の14C年代を示すことから、2帯堆積期(おそらく IV ・III層全体)は最終氷期極相期(25,000〜15,000年前)の可能性が予想される。なお、ボーリング調査結果ではM−2・M−3孔において地表下5m付近(ピット基底直下)にはさまれるシルト質火山灰がToya(90−120ka)であることが判明しており、本ピットの存在する地形面が段丘3面(中位面)に対比することの妥当性も示している。

 調査第1年次目の反射法地震探査結果およびボーリング調査結果から、新第三系上限面に大きな高度差が認められないこと、ボーリング調査結果から、Toyaに明瞭な高度差が認められないことから、調査地の断層は新第三系にのみ存在する可能性が高く、少なくともToya降灰以降に活動した可能性は低いと判断していた。しかしながら、北側の緑が丘霊園などではリニアメント(東落ちの逆向き低崖)は明瞭であることから、確認のためにピット調査を行ったが、インボリューションにより微妙な変位の有無の確認に至らなかった。