6−4 既存物理探査資料

 本地域の中部の南半部(南長沼・泉郷地域)には石油資源探査関係を中心に物理探査関係の既存文献・資料が存在している。それらの関連測線およびボーリング位置などについては付図に示した。それらの名称と内容の概要は以下のとおりである。

1広島−長沼地震探鉱調査報告書(石油資源開発株式会社、1971)

 1971年11〜12月に北海道からの発注により、石油資源開発株式会社が石油天然ガス鉱床探査を目的に実施資源開発株式会社が石油天然ガス鉱床探査を目的に実施した結果の報告である。特にSK測線2−2′(Line 2)の解析では、南長沼断層に相当する逆断層の存在が明らかにされている。

2文部省科研費バイブロサイス反射法地震探査「長沼85測線」報告書(淺野周三研究代表、1989;淺野ほか、1986)

 1985〜1987年度の自然災害特別研究「地震動予測精密化のための地下深部構造の研究」において、石狩低地帯を横断するように、北広島市東の里から国道274号線沿いに、馬追丘陵を横断して、由仁町三川までの間で実施されたバイブロサイス反射法地震探査の報告である。この探査では低地帯から馬追丘陵の主体を成す新生界について、西側低地帯では皿状の緩い成層構造を取るが、馬追丘陵に移行する部分で、地層は傾斜が増大し、東上がりの大きな逆断層(スラスト)に当たる。そして、逆断層の東側、すなわち馬追丘陵の中軸では複雑な地質構造を反映して反射波も複雑化している様がとらえられた(図51)。この断層は1および2の報告で明らかにされた大逆断層と同一のもので南長沼断層に相当すると判断される。

3地質調査所平成3年度・4年度馬追丘陵地域地殻変動調査資料(佃ほか、1993;下川ほか、1993)

 地質調査所が「馬追丘陵の第四紀における隆起運動・変形は馬追丘陵下に伏在する東傾斜の逆断層運動に起因するのではないか」という仮説のもとに、その逆断層の活断層としての活動性を明らかにするために、1991年度に長沼町南長沼の町道南五号の東六〜十線間1995mの測線長で浅層反射法地震探査を実施した。その詳しい報告は成されていないが、概要が地質学会で報告されており、これらはその概要報告資料(講演要旨)である。示された地震探査深度断面によれば、東八線と同九線の下に新第三系を明らかに切る東上がりの逆断層が示されているが、この逆断層は13で述べた南長沼断層そのものであることは、位置関係から明らかである。これらの資料では本断層は地表下約200mまで確認でき、地表にまで達しないものの最上部第四紀層を変形させていることから、これを馬追丘陵下に伏在する活断層(ブラインドスラスト)とし、「石狩低地帯東縁断層」と呼んでいる。本報告では、このような馬追丘陵を基本的に支配する主スラストは南から早来断層、南長沼断層、長沼断層および栗山断層のように、馬追丘陵の構造単元毎に存在し、それらは全体として右雁行状に配列していると判断しており、低地帯東縁に沿って全体を連ねるような意味を示すこの名称はあまり適切でないと考える。なお、これらの資料のうち、下川ほか(1993)ではこの測線の中間付近で1992年度に実施した掘進長180mのボーリング調査の概要を報告している。

4平成8年度基礎試錐「馬追」地質検討会資料(石油公団、1997;栗田・横井、2000)

 これらの資料は石油公団による基礎試錐「馬追」の結果を報告したものであるが、その中に石油資源開発株式会社の「馬追95 V −1時間マイグレーション断面図」という、嶮淵川下流と泉郷〜東丘方面の道々に沿う測線で実施された地震探査結果が示されている(図52)。これは同時に示されている基礎試錐「馬追」地質断面図(図53)とともに、馬追丘陵の地体構造と地質構造形成について新しい観点を示すものとなっている。すなわち、それらの図は次のようなことを明らかにした。馬追丘陵では正断層群で特徴づけられる地塁性構造の先新第三系(南長沼層)の上にスラスト(低角逆断層)性の新第三系・第四系が重なるという“二階建て構造”が基本である。活断層として明瞭な泉郷断層は上部の主体をなす東上がりのスラスト群に対して、西側前縁の西下がり急傾斜部内に発生した層面すべり断層(西上がり東落ち)で、いわば付随的な断層である。なお、これら両図(図5253)の紹介については、石油公団および石油資源開発株式会社より承認・許可を得た。

5その他

 最近になり、佐藤ほか(2001)はコムカラ峠付近から西方へ約6.4km間についてミニバイブレーターを使用した反射法地震探査を実施し(2000年度)、マイグレーション後の深度変換断面などを紹介している。

 図51 長沼85測線のバイブロサイス反射法地震探査にもとづくP波速度構造とその地質解釈(淺野周三代表、1989原図・加筆)

 図52 SK地震探査「馬追95 V −1」マイグレーション断面図(石油公団、1997;石油資源開発株式会社原図)

 図53 基礎試錐「馬追」地質断面図(石油公団、1997;石油公団原図)。図51に対応。