4−15 第四紀末の火山灰鍵層

 本地域には中・南部(千歳市・早来町管内)を主体としてテフラ(火山灰)が多数存在しており、地形面(段丘面)とその構成物の年代決定・対比および活断層の活動時期を決定するために鍵層として重要な役割を果たしている。そのためここでは特にそのような鍵層となるテフラの記載をまとめて行う。

 本地域に分布するテフラの多くは、肉眼的特徴(構成物の量比、色・粒度・発泡様式など)にもとづき、野外において識別が容易である。さらに、記載岩石学的性質(鉱物組成・火山ガラスの形態・屈折率など)の解析・測定を併用すれば、ほとんどのテフラの識別が可能となる(表2図1213)。このため、野外において特徴的なテフラ(Ssfa、Toya、Kt−1、Spfa−1、Ta−d、Ta−c)の存在を基準にそれらとの層位関係および個々のテフラの岩相から各テフラの識別を行い、露頭毎に柱状図を作成した。さらに、必要に応じて実験室内で上記の性質を解明し(巻末資料6)、肉眼的識別が困難なテフラの認定を行った。これらの結果にもとづく主要露頭間の対比は図13のようになる。以下に、重要なテフラについて述べるが、図12で示しいる事柄については極力省略する。なお、ここで言う“テフラ”とは、観察において時間間隙が認められず、一回の噴火サイクルにともなって空中ないし陸上を運搬され堆積した噴出物を指す。またそれぞれのテフラ中で色調・岩質・粒度組成などで大きく異なる部分が認められる場合は、それをユニットと呼ぶ。

[Aafa 4(厚真降下火山灰堆積物:春日井ほか、1980)]

 噴出源不明の石狩低地帯南部に分布する白色降下火山灰.本調査において泉郷のc−1地点および協和付近の露頭(付図地質図の範囲外で岡、1998のC69地点付近)などで認められ、既存文献による分布域(鵡川〜厚真)と合わせると馬追丘陵中・南部に広く分布することが明らかになった。段丘3堆積物上部の本郷層相当部にはさまれ、Toya・Kc−Hbの直下の粘土・泥炭中に認められ、その噴出年代は最終間氷期〜その直後。

[Toya(洞爺火山灰:町田ほか、1987)]

 洞爺カルデラから噴出し、北海道全域・東北日本北部に分布する広域テフラで、大規模火砕流噴出にともない形成された“灰かぐら”から降下したcoignimbrite ashであるとされる(町田ほか、1987)。h−19地点(早来町源武)、c−1地点、安平自衛隊分屯地北側のh−22地点において、火山ガラス・細粒軽石に富む白色火山灰として認められる。岩見沢市街緑が丘のボーリング調査でも検出され、本調査地域全体に分布する。最大層厚は30cm±で、多くの場合、本郷層相当層中の泥炭質泥や粘土層にはさまれる。記載岩石学的には軽石型・バブルウォール型の火山ガラスに富み斑晶鉱物に乏しい、ユーライト質の斜方輝石(En=30〜12)および緑褐色の角閃石を斑晶として含む、火山ガラスの屈折率が1.494〜1.498と低い(町田・新井、1992)。0.103〜0.134Ma(TL)および0.13±0.03Ma(FT)の年代値が得られ(高島ほか、1992;奥村・寒川、1984)、噴出年代は最終間氷期〜その直後。

[Ssfa(支笏降下スコリア堆積物:勝井、1959)]

 支笏カルデラから噴出し、石狩低地帯南部〜十勝平野南部に分布する。h−1地点(遠浅川上流)、h−19地点および安平自衛隊分屯地北側の露頭など馬追中・南部で分布が認められる。従来Mpfa1〜4とされたクッタラ・羊蹄火山起源のテフラ・褐色火山灰土を覆う。4つのユニット(Ssfa 10、Ssfa 9、Ssfa 8、Ssfa 7)よりなり、有意な時間的間隙なしに連続的に堆積したテフラであるとされる(山縣、1994)。

 Ssfa 10:軽石は細粒で平均粒径数cm〜1cm程度で、最下部にしばしば厚さ数cmの粗粒火山灰層およびアズキ色火山灰層が認められる。

 Ssfa 9:Ssfa 10の火山灰土をはさまずに重なるした細粒な降下火山灰、色調の異なる数ユニットに区分できる。

 Ssfa 8:色調・粒度の異なる数ユニットから構成される降下火山灰・軽石層で、最下部が軽石層。

 Ssfa 7:スコリアの平均粒径は数mm、軽石の平均粒径は数mm〜1cm.粒度・色調・構成物の割合の異なる10数枚のユニットが確認でき、下部には細粒火山灰を特徴的にはさむ.単斜輝石・斜方輝石を斑晶にもち、火山ガラスの屈折率は1.713−1.718(町田・新井、1992)。

[Kt−3(クッタラ第3:山縣、1994)]

 クッタラ火山群を給源とし、石狩低地帯南部〜日高〜十勝平野南部に分布する。h−19および22地点で認められる(図1013)。Spfa 5とは有色鉱物に乏しく、軽石が黄白色〜淡桃色を呈し発泡も良いことで区別できる。軽石の粒径は最大4cm、平均1cm±である。下部の軽石は黄白色だが、上部のものはより発泡が良く淡桃色を呈する。斑晶として単斜輝石・斜方輝石を含み、火山ガラスの屈折率は1.509−1.513前後(山縣、1994)。十勝団体研究会(1972)のOp−1に対比される。

[Kt−1(クッタラ第1:山縣、1994)]

 Kt−3と同様な給源をもち、分布は同様な地域から斜里平野方面に広がる。調査地域内ではh−19およびc−1地点など本地域の中・南部地域に広くみとめられる(図1013)。Kt−3およびその直上の降下スコリア層(Kt−Tk)を厚い褐色火山灰土(h−22で70cm)をはさんで覆う。軽石は1〜10mm前後のものが多く、上部はより細粒になる傾向がある(一部の軽石は灰色〜青灰色)。単斜輝石・斜方輝石・石英・角閃石を含み、上下のテフラに比較して石英斑晶が非常に多く認められる点が大きな特徴.火山ガラスの屈折率は1.502−1.504前後(町田・新井、1992;山縣、1994)。

[Spfa 1(支笏第1:佐藤、1969b)]

 支笏カルデラから噴出し、石狩低地南部から道北・道東までのほぼ全域を覆う大規模な降下軽石層.本調査地域では、h−20地点265cm、h−22地点200cm、c−1地点130cmと非常に厚い(図1013)。最大径4cm、平均2cm±の著しく発泡し絹糸状の光沢をもつ白色〜桃色の軽石と、石英・角閃石の結晶片をともなう軽石質基質からなる。粒径などの岩相の異なる10数枚のユニットから構成される。特に基底部にはピンク色を呈し、粒径1mm以下の比較的淘汰の良い粗粒降下火山灰およびその上の同色細粒火山灰が特徴的にともなわれる。斑晶鉱物として斜方輝石・角閃石をともない、軽石タイプ(一部バブルウォールタイプ)の火山ガラスが多く、ガラスの屈折率は1.500〜1.505前後である。従来、25,000〜35,000年前前後とされた年代は、近年のAMS法による14C年代測定により4万年前後とされるに至った。

[Spfl(支笏火砕流堆積物:山縣、1994)]

 Spfa 1と時間間隙無しに噴出した大規模珪長質火砕流堆積物で、給源の支笏カルデラから最長60km遠方まで達している。調査地域内では自衛隊東千歳駐屯地および早来町富岡などで発達し、フモンケ川では厚さ約10mに達する。繊維状に良く発泡した白色〜桃色の軽石(平均粒径数cm前後)をともない、淘汰の悪い細粒な基質に富んだ桃色〜淡桃色の火砕流堆積物のの産状を示す。基底部には比較的岩片に富んだ層がしばしば認められる。記載岩石学的にはSpfa 1とほぼ同様の性質を示す。本堆積物の上位にはSpfa 1およびSpflの二次堆積物が厚く発達し(h−6地点で3m+)、本地域における各段丘面の重要な構成要素となっているが、特に段丘4面(t4)は、Spflの流走面が削られ、この二次堆積物が堆積した面である。

[En−a(恵庭a:春日井ほか、1968)]

 恵庭火山を給源とする降下軽石堆積物でSpfa 1およびSpflの上位に厚い褐色火山灰土(平均層厚30〜40cm、最大85cm)をはさんで堆積する。本調査地域ではh−19地点で60cm、h−12地点で110cm、h−1地点で240cmである。下部の粗粒なユニットと上部の比較的細粒なユニットに大別できる。単斜輝石・斜方輝石斑晶に富み、火山ガラスの屈折率は1.503−1.510前後を示す。

[Ta−d(樽前d:佐藤、1969b)]

 樽前火山を給源とし、石狩低地帯南部〜日高から十勝平野に分布する降下スコリヤである。h−19地点で170cm、h−12地点で110cmと本調査地域南部で厚いが、自衛隊東千歳駐屯地および泉郷ではスコリアまじりの黒色火山灰土となっている(図13)。En−aの上位に、En−aまじりのローム、薄い腐植層(黒ボク)をはさんで重なる。下部は黄橙色の良く発泡した風化スコリア、上部は赤橙〜オレンジ色で良く発泡し下部に比べやや細粒の風化スコリアから構成される。斜方輝石・単斜輝石・まれにかんらん石斑晶をもち、火山ガラスの屈折率1.553−1.537と非常に高い。

[Ta−c(樽前c:佐藤、1969b)]

 樽前火山給源とし、石狩低地南部〜日高〜十勝平野〜斜里・根釧原野に分布する降下火山灰・スコリア層である。下位より、岩片と赤褐色〜青灰色スコリアに富むTa−c1、淡黄色軽石からなるTa−c2の2ユニットに区分される。Ta−c1はh−1・h−2地点で20cmであるが、それらの南方のh−19地点では全く認めらないが、Ta−c2はh−19地点で20cm、h−1地点40cmとより広い範囲で分布を確認できる(図13)。斑晶鉱物として単斜輝石・斜方輝石を含む。

[Ta−b(樽前b:佐藤、1969b)]

 樽前火山を給源とし、広域的にはTa−dと同様に分布する降下軽石層である。本調査地域では、h−19地点で40cm±だが、その北のh−12地点では全く認められない(図13)。h−19地点ではTa−c2の上位に厚さ30cmの腐植層(黒ボク)をはさんで重なる。軽石は平均粒径1cm±で、輝石斑晶(単斜輝石・斜方輝石)に富み発泡が良い。噴出年代は1667年。

[Ta−a(樽前a:佐藤、1969b)]

 樽前火山を給源とし、石狩低地南部〜日高〜十勝平野・大雪山地域〜根釧原野に分布する降下軽石層である。Ta−bとの間に厚さ5cm以下の黒色火山灰土が認められる。h−19地点で厚さ7cm、h−12地点で15cm、h−2地点で25cmと北に向かって良く発達する(図13)。h−2地点などでは8枚のユニットに区分が可能である。粒径数cm以下、発泡の良い軽石からなる。噴出年代は1739年。

 写真6 富岡トレンチ箇所北側露頭(h−10地点)西端部に見られるテフラ群

 図12 石狩低地帯南部の第四紀後期テフラ模式柱状図

 表2 石狩低地帯南部の主要テフラ諸元一覧

 図13  調査地域南半部(千歳市泉郷〜早来町源武)の火山灰層序対比図