おわりに(将来の地震活動)

 石狩低地東縁断層帯の主要構成断層は段丘1から5までのすべての面に変位を与えていることから明らかなように、過去少なくとも30万年間は本断層帯は断層活動を繰り返しながら、地表にその痕跡を残してきた。活断層の過去の活動履歴が明らかになれば、それぞれの断層について将来の活動を予測することも可能となる。予測にあたっては様々な予測モデルが考えられている。ここでは、とりあえず断層がいつも同じような間隔で、同じような規模で活動を続けているとして、将来の断層活動、すなわち、地震の発生について予測を試み、地震防災対策上の留意すべき点に言及する。

 岩見沢・栗沢断層系:活動間隔は約2万年と長いが、最新活動期を20ka頃とみなすならば、「要注意」ということになり、10ka頃とみなすならば「安心」ということになるが、現状では最新活動期の特定に困難性がある。Mは7から7弱。

 泉郷・馬追断層系:少なくとも、馬追断層単独では活動間隔が過去3.3ka頃から6.5ka頃については、1,500から1,700年間隔で地震が発生しており、最新活動が3.3kaということで、すでに過ぎているという現実がある。仮に、トレンチ内の撓曲の示す変位3.5mが一回の地震で生じたとして、3.3ka頃に最新活動があったとした場合、その前の6.5ka頃の活動との間隔3,200年の大半はすでに経過していることになり、「要注意断層」(松田,1995)であることは疑う余地がない。Mは7前後。泉郷断層と馬追断層が同時に活動することについては、同時に動いたのが5〜5.4ka頃であり、それに活動度の低い泉郷断層の場合の活動間隔1万年強を足すと、将来の連動した地震活動はおよそ5,000年先との結論になる。さらに馬追断層について、注目すべきは図66に示すように、およそ1万年前以降で活動度が強まっているという事実がある。これが何を意味するかは今後の課題である。いずれにしても、これらの断層の位置は千歳新空港や千歳市街よりやや離れており(10km±)、これらに壊滅的な被害を与える可能性は低いが、今後、千歳市を中心に地震防災対策の強化が必要である。

 石狩低地東縁断層帯はネオテクトニクス的には東北日本弧と千島弧の衝突に関わる東から西への大規模なスラスト運動ゾーン(伊藤ほか,1999;伊藤,1999;2000;図3)の一環として位置づけられ、本調査でもそのことを裏付けている。活断層として明瞭なものは岩見沢・栗沢断層系や泉郷・馬追断層系であるが、東上がりのスラスト群を主要なものとすると、これらの断層系は主スラスト群の副次的断層系ということになる。活断層の活動を東上がりのスラスト運動全体の一環ととらえるならば、震源そのものはより東方に想定すべきである。そのような考え方に立脚すると、この断層帯に直接関係する岩見沢市・栗沢町・長沼町・千歳市・早来町のみならず、より東方の地域(栗山町・由仁町・追分町・夕張市)においても、地震防災の検討が必要になる。 本断層帯については、主スラスト群の詳しい実態、特にその第四紀後半における活動性の解明は不十分であり、今後の調査研究を必要としている。おそらく主スラスト群の活動性が解明できなければ、石狩低地東縁断層帯の真の評価はできないと考えられる。その意味では本報告は中間報告的なものに過ぎない。岩見沢・栗沢断層系について、特に最新活動が不明確となっているが、今後、適当な人工露頭の出現などの際にチャンスを活かして解明すべきである。