(2)泉郷測線

@測線概況

探査測線の測量結果を表3−2−2−3に,探査測線位置図を図3−2−2−1に示す.測線はほぼ東西に延びる市道の北側の路肩部に設定した.測定点間隔は2mであるが,民家の出入口等のために受振器を置けない箇所や測線に対して直交方向にオフセットをつけて受振器を置いた箇所もあった.その詳細は巻末の観測野帳に記載している通りである.受振器は全て直接地面にスパイクで固定した.発振は未舗装の道路上で行ったが,積雪のため震源プレートは雪の上に設置した.ただし,震源プレートは雪の中にしっかりと食い込む歯形プレートを使用して,後述の早来地区(アスファルト用)とは異なる.

積雪のために,車両通行はほとんどない状況であったが,電線によるハム信号や電柱を伝わる波などのノイズが観測記録に混入した.

なお,測線および測定の状況を図3−2−2−2および図3−2−2−3(写真)に示した.

A測定仕様

本測定に先立ち,発振周波数,垂直重合数,サンプリング間隔等のパラメーターを決定するために,パラメーターテストを実施した.表3−2−2−2 に採用した測定パラメータを示す.

また,図3−2−2−4に代表的な測定記録の例を示す。測定記録上では,それほど明瞭ではないが反射波列がいくつか識別できるる.

Bデータ処理結果

データ処理で用いた各種フィルター等のパラメータを表3−2−2−4に示する.

処理結果は,マイグレーション前時間断面図,マイグレーション後時間断面図,マイグレーション前深度断面図,マイグレーション後深度断面図として解析した.

通常,反射断面のトレ−ス間隔(CDP間隔)は受振点間隔の1/2であるので,今回のトレース間隔は1.0m になる.各トレースは1mm 間隔で出力している.各トレ−スは見やすくするために,基準線から右側に振れた部分(データとしては+の値に対応する.柔らかい地層から堅い地層に地震波が入射する際に発生する反射波の極性)を黒く塗りつぶして表示してある.

時間断面図では,縦軸は往復走時(秒)で,1秒を20cmで表示している.また、断面の上には,代表的な速度解析結果および地表の標高をあわせて示し,サイドラベルには,測定仕様および処理内容を付けた.

深度断面図では,縦軸を標高(m)表示とし,縮尺を水平方向と同じ1/1,000で表示している.したがって,縦横比は1:1となっている.

C反射イベントの分布状況

図3−2−2−5にマイグレーション前後の時間断面図を示す.縦軸は時間(秒)である.

マイグレーション断面図では,時間200ms程度まではほぼフラットな反射イベントがいくつか見受けられるが,測線上の中央の200〜300m付近で不明瞭となっている.また,時間200〜500ms付近では,やや低周波の反射イベントが複数認められる.これらの反射面は,測線前半部と後半部で反射パターンの様相が異なっている.測線前半部では,反射イベントは西傾斜を示すが,後半部ではほぼフラットに近い反射イベントが多く認められる.反射イベントの様相が変化するところは,測線のほぼ中央の250〜300m区間で,この付近に構造異常があると推定される.また,この様相が変化する付近で,その上位に分布するフラットな反射イベントも不明瞭になっている.何らかの因果関係がある可能性も考えられ,興味深い.

測線の後半部では,注意深く観察すると,測線上400m付近より東側では,それまでほぼフラットな反射イベントが,緩やかに西傾斜に変わっている.当該部にも,何らかの構造異常があるのかもしれない.

時間500ms以降は,測線全般にわたって,特に識別される反射イベントは見受けられない.

D地質構造解釈

図3−2−2−6に深度断面図を示す.縦横比は1:1としている.図では,表層付近とそれ以深では,時間断面図とは様相が異なって表層付近が高周波に見えるが,これは単に重合速度に2倍以上の開きがあり,波形の延び具合が異なるためであることに注意していただきたい.

図3−2−2−7に深度断面図に地質解釈を加えた地質構造解釈図を示す.

標高15〜20m付近に,ほぼフラットな反射面が認められる.千歳地区表層地質図および報告書(1998年1月)では,恵庭・樽前・支笏火山噴出物やロームが調査地区の表層に分布している.速度解析では,表層付近は概ね200m/s程度の速度値が得られており,地表よりこの反射面(標高15〜20m)までは,これら火山噴出物層に対応すると考えられる.

測線の中央部および測線の東端部では,標高0m付近まで,それ以外では標高−20〜−30m付近までやや断続的であるが,フラットな反射面が見受けられる.それ以深では,西傾斜の反射面が複数認められる.

標高15〜20m付近以深では,速度解析により概ね400〜500m/sの速度値が得られている.千歳地区表層地質図および報告書中の地質断面図・ルート柱状図によれば,火山噴出物の下位には,中位段丘堆積物である東千歳層および新第三系の追分層が分布する.新第三系の追分層は西傾斜を示すことなどから,西傾斜の反射面は新第三系の追分層に対比されると考えられる.したがって,火山噴出物層の下面に対比される標高15〜20mから標高0〜−20,−30mの新第三紀層(追分層)の上面までの地層は,東千歳層に対比されると考えられる.

新第三紀層(追分層)に対比される西傾斜の反射面は,測線の中央部の測線上250〜300m区間で,その傾斜が急変して,測線上300〜350m区間ではほぼフラットに,また,それ以降では,緩やかではあるが西傾斜を示す。表層地質図では,測線のすぐ南側まで低角の逆断層である泉郷断層が追跡され,この反射面の傾斜が急変する区間は,まさにその延長線上に当たる.反射面の形態は低角の逆断層と調和的であり,当該部の異常構造は,泉郷断層を示唆するものと判断して,図中に推定断層を破線(赤色)で示している.

測線上200〜300m区間では,先の火山噴出物層の下面に相当する反射面が不明瞭となっている.新第三紀層(追分層)に対比される上面境界は,測線上200〜300m区は,その前後に比べて出現深度が浅くなっており,泉郷断層の活動様式を示唆するものとも推察される.しかし,これだけでは,単なる堆積環境による変化なども否定できず,ボーリング調査などを実施して,地質構造を詳細に把握する必要がある.

また,測線上400m付近では,新第三系に対比される反射面の傾斜に変化が認められているため,当該ヶ所にも泉郷断層と類似した構造異常を想定して,図中に点線(赤色)で表示している.