(1)トレンチ調査

向野地点,市渡南及び市渡中央の3地点においてトレンチ調査を実施した.各地点の概要を表4−1−1および図4−1−1−1図4−1−1−2図4−1−1−3に示す.

作業は以下の手順で進めた.

(1) 用地の設定

担当者の指示により,調査用地の境界を定めて杭を打ち,掘削用地及び掘削土砂置場などの作業用地を設定した.

(2) 平面図の作成

トレンチの周辺40m程度の範囲について, 平板測量により平面図(縮尺1/200)を作成した.標高は, 最寄りの基準点もしくは独立標高点を基準にして求めた.この平面図には, 用地復旧に必要な土地境界の目印・仮基準点・水田・用水路・地物・トレンチ等の位置を記録した.また,暗渠等の地下埋設物についても, 地権者に確認のうえ記録した.

着工以前の地物の状況については,写真撮影も行った.

(3) トレンチ掘削

指定された掘削用地内に, 重機を用いてトレンチを掘削した.掘削に使用した機材一覧を表4−1−2に示す.掘削規模・深さについては,地質状況などを鑑みて担当者と協議の上決定した.掘削用地が水田,畑などの農耕地の場合は, まず耕作土だけを薄く剥ぎ取り,下位の土層・地層と混じり合わないように別々に保管し,降雨によって流出・崩壊することのないように, また,トレンチ埋戻しの支障にならないように, ビニールシートを掛けるなどして適切に保管した.また, 法面の傾斜は, トレンチ孔内における作業の安全性を考慮し, 担当員と協議のうえ60°程度とした.掘削・整形および観察期間中の雨水・湧水は, トレンチ底に釜場を設け, ポンプを用いて排水した.排水にあたっては, 集中溝や水田へ砂泥が流入しないようにした.なお,掘削地は畑であり,樹木など特に配慮するものはなかった.

(4) トレンチ法面整形

掘削したトレンチ法面は, 出入口として使用する法面を除いて, 詳細な地層観察ができるように, 人力で余分な土石を除去し,手作業により平滑に整形した.

(5) グリッドの設置: 整形したトレンチ法面に観察およびスケッチの座標として1mメッシュのグリッドを設けた.グリッドは以下の手順で設置した.

@トレンチ法面の上端付近に杭と板を用いて柵をつくる.

A基準となる水平線をレベルを用いて柵の板上に設定した.

B基準水平線において距離1m毎に釘を打った.

Cこの釘に結んだ水糸を基準水平線と直交するように法面に沿って下ろし,法面基部にも1m毎に杭を打ってこの水糸と結ぶ.Dこの法面に張った水糸に直交するように1m毎に横糸を張った.

E5m毎の杭・水糸は,他とは異なった色のものを用いた.

(6) 法面観察及びスケッチ:法面の地質を正確にスケッチし, その特徴を記載した.法面の観察およびスケッチは以下の点に留意して実施した.

@観察する範囲は整形した全ての法面とした.スケッチの範囲も原則として同様とした.

Aスケッチの縮尺は原則として1/20とした.また,原則として5グリッド分のスケッチが終了した時点で担当員に呈示し,その承認を得てから次のグリッドに進んだ.

B肉眼で識別でき,かつ所定の縮尺でスケッチに表現できる精度の単層毎に地層を区分し,単層毎の層相・堆積構造・地層境界の形状・変形構造・層位関係・断層・亀裂・液状化跡・動植物遺体,および考古遺物などについて詳細に観察・記載した.

C単層間の不整合,単層と断層の切った・覆ったの関係,層準による変形の違いなどを総合的に判断し,その根拠を明確にした上で断層活動の痕跡及びその層準(イベント層準)を認定した.

(7) 法面の写真撮影

グリッドの設定後, 試料採取前に法面の写真撮影を行った.

(8) 試料採取及び分析

地層の観察・スケッチ・記載・写真撮影が完了後,担当員の指示により法面に現れた地質年代測定試料および火山灰分析試料などを採取し, これらの試料のうち, 指示された個数の試料を分析に供した.採取した試料はトレンチ名, 採取位置, 採取番号などを明記したビニール袋に収納し,スケッチに試料採取位置と試料番号を記入した.

採取した腐植土などの年代測定試料は炭素同位体年代測定に供した.

また,火山灰分析試料は前処理を施したのち, 顕微鏡観察によりガラスおよび鉱物組成を明らかにし,重要なものについてガラス・鉱物の屈折率測定分析を行った.分析試料一覧を表4−1−3に示す.

(9) トレンチ平面図の作成

トレンチと法面について平板測量を行い, その位置を平面図(縮尺1/200)に記入した.トレンチの周囲5m以内の地形については,0.5 m毎の等高線コンターを表示した.

(10)トレンチ埋め戻し:埋め戻しに際しては,降雪のため,雪が溶けて土砂の含水比が掘削前の状態程度になるのを待って,埋め戻しを開始した.また,埋め戻し後の地盤沈下を防ぐために,掘削土砂に石灰を混ぜて転圧し,十分に突き固めながら慎重に行った.地盤が十分に固まったことを確認し,担当員の承認を得た後に耕作土の復旧を行った.その後, 土地所有者から復旧完了の承認を得た.復旧終了後は, 直ちに仮設物・工事機器などを撤去した.