3−1−3 地質

本地域の地質は,第四紀前期更新世の富川層を基盤として,後期更新世の段丘堆積物(4面,4'面,5面,6面),完新世の扇状地堆積物(沖積錐)と沖積層(A1,A2面堆積物および氾濫原堆積物)が覆う(図3−3).

前期更新世の富川層は,調査範囲では,層厚470m以上で,主に砂礫岩を主体とした岩相をしめす.平成8年度報告によれば,本層は上部・中部・下部の3部層に区分される.本地域では,このうちの中部層と上部層が分布する.中部層は,含礫砂岩,貝殻混じり含礫泥岩,平行層理の発達した砂礫層(クラスト支持),細粒砂岩(クロスナで巣孔化石あり)からなる.上部層は,礫岩・砂岩・シルト岩・亜炭からなる.中部層の含礫泥岩の貝殻(オオノガイ?やホタテガイ)は,破片状を呈し,全体に乱雑不淘汰であることから,土石流堆積物と考えられる.また,平行層理が発達した砂礫岩中には,礫のインブリケーションがバイモーダルであったり,マッドドレイプが見られるなど前浜のような波浪・潮汐の影響のある堆積環境が示唆される.また,その上位を覆う細粒砂岩は,クロスナや巣孔化石がみられるなど,後浜の堆積環境を示唆する.一方,上部層は,中礫〜大礫からなるチャネル充填礫層と有機質シルト岩・亜炭から始まり,さらに上位にむかってインブリケーションの明瞭な大礫〜巨礫層(斜層理砂岩を挟む)を主体とした岩相となり上方に粗粒化する傾向がある.このことは,チャネルと氾濫原を備えた蛇行河川堆積システムから縦州(礫州)が形成されるような網状河川堆積システムへの変遷を示唆する.

後期更新世の段丘堆積物は,平成8年度報告によれば,1面から6面に区分されるが,調査地域では,4面,4'面,5面,6面の堆積物が分布する(図3−3).4面堆積物は,標高75m前後の地形面を形成しており,調査地域では地表露頭がない.向野の太田農園・鈴木種苗の畑地切り割りにて,2.1m以上の礫層が撓曲変形しているのが観察される.礫層は,インブリケーションの明瞭な中礫〜大礫からなり,その間には40cm厚の斜層理の発達した粗粒砂混じりの中〜細粒砂層がはさまれる.撓曲崖末端では,段丘礫層は見られず,下位より褐色ローム層(1m以上),黒色腐植土混じりのNg(30cm),黒色腐食層(30〜40cm)からなる.4'面は,標高63m前後の地形面を形成しており,調査地域にのみ分布する.地表露頭はない.5面は,標高55m前後の地形面が,撓曲変形により下盤側が標高45m前後の地形面へと垂れ下っている.地形面の変位量は,9mである.堆積物は,北海道教育大学函館校のトレンチ調査で明らかにされた.下位より4.5m厚の砂礫層・砂質粘土・シルト・砂層,0.25m厚のピンク粘土(レス起源と考えられる),0.10m厚の粗粒黄色火山灰(Ko−h:17kyr.B.P),0.6m厚の砂質粘土層,0.4m厚の岩片を含む灰色火山灰(Ng−a:12kyr.B.P.),0.7m厚の火山灰混じり黒色腐食土層(B−Tm:A.D.10C;Ko−d:A.D.1640を含む)からなる(田近,1995). 6面は,大野川左岸に標高50〜30m前後の地形面で,渡島大野駅周辺まで追跡できる.河成段丘礫層より上位には濁川テフラ(Ng−a)を含むローム層やクロボクからなる.砂礫層には,ラミナの発達するレンズ状粗粒砂層やインブリケーションがみられる.礫層の厚さは,露頭では50cm以上で下限不明であるが,付近のボーリング資料によれば,2〜3m程度の厚さを有する.断層付近のオーガボーリング(G2)では,礫層の上位に下位よりシルト〜極細粒砂(2cm),中〜粗粒砂(16cm),Ngを含む細〜中粒砂(33cm),褐色ローム(12cm),黒色腐植土(42cm:腐食土から掘ったので,実際の腐食層の厚さはこれ以上)の堆積物からなる.なお,Ko−h(17ka)は見られない.

完新世の堆積物は,扇状地堆積物(沖積錐),A2面堆積物,A1面堆積物,氾濫原堆積物からなる(図3−3).ただし,氾濫原堆積物の区分には,小規模な沢地形を形成する沢堆積物も便宜上含めている.扇状地堆積物(沖積錐)は,6面を覆い調査地北方では,6面を完全に埋没させている.今年になって,市渡北部の道々上磯峠下線沿いに砂利採取をした後ができていた(付図1).露頭は,すべて扇状地堆積物である.柱状図を図3−4−10に示す.最上部のクロボク中にはKo−dが,その数cm〜数10cm下位に白色細粒火山灰(B−Tmと思われる)がはさまれる.また,最下位のクロボク中オレンジ色を呈するテフラ(Ko−gと思われる)が含まれる.また,砂礫中には,黒色腐植土が6枚挟む.このうち,4つの黒色腐植土についての年代測定をおこなった(表3−1).黒色腐植土は,およそ1,000年毎の年代を示しており,テフラと組み合わせれば良好な鍵層となる. A2面堆積物は,既存ボーリング資料(図3−1:N−4,N−5)によれば,大礫〜巨礫を主体とした礫質堆積物で,砂層などのはさみや,氾濫原起源の砂質〜泥質堆積物は見られない.A1面堆積物は,下位より,礫層(層厚はハンドオーガが礫障害で挿入できないので不明),10cm厚の細粒砂または粗粒砂層,90cm厚の砂質シルト・シルト層(洪水ローム?)からなる(図3−4−1).氾濫原堆積物は,現河川の氾濫原と小規模沢地形を形成した堆積物をこれに含めた.