(1)浅層反射法地震探査

(1)共通反射点記録の処理と速度解析

 図3−1−12 の流れにしたがって処理した結果のうち,速度解析までの結果を述べる.

 以下,図面中のCDPは共通反射点を,CDP−STATは測定点番号を表し,互いの番号の関係は処理の都合上CDP番号をCDP−STAT番号の2倍にしてある.

 a)CDP記録の処理結果

 図4−1−1はB測線のCDP450( 測定点番号225の位置を反射点とする) の地震記録を例として,速度解析前までの処理過程の結果を示したものである.

 左から順に(a)は元の地震記録(ただし50Hz成分の除去および振幅補正済み),(b)はディコンボリューション処理,(c)は周波数フィルタ処理(20−180Hz),(d)は速度フィルタ処理の結果となっている.図は縦軸が時間であり,横軸がオフセット距離で示されている.

 ディコンボリューションにより反射波が整理され,表面波が減少したことがわかる.また速度フィルタにより反射波がより明瞭になった.

 b)速度解析結果

 以上の処理の結果,速度解析,NMO補正を行なった.さらに静補正で除去しきれなかった反射位相のずれについて残留静補正を行ない,再度速度解析を実施した.残留静補正後の共通反射点記録による速度解析,およびNMO補正の例を図4−1−2に示す.図の左側がNMO正された共通反射点記録,右側が速度解析の結果である.記録はB測線のCDP450(測定点番号225)の例である.

 ここに例として示した速度解析は,定速度走査法による方法である.これはある一定の重合速度で共通反射点記録を重合して1つの波形とし,その操作を仮定した重合速度のすべてについて行ない,仮定した速度の数に等しい数の波形を得る.次に時間軸に沿ってそれらの波形の振幅の最大点を抽出すれば,すなわちその経路が速度関数となる.速度解析図では横方向に重合速度が示されており,右に向かって大きくなる.

 上述した定速度走査法は,任意の共通反射点記録に適用するものであり,今回は50CDP(A,B測線では125m毎,BS測線では50m毎)に実施した.

 しかし定速度走査法は,選んだCDP点の記録がその周辺の記録を代表しているものとして扱っていることから,水平方向への地質構造の変化が激しいところでは注意を要する.したがって,今回は定速度重合法も併用して速度解析を行なった.この方法はある範囲のCDP点にわたって一定の速度で重合断面図を作成し,この操作を仮定した重合速度の数だけ繰り返す.したがってその数に相当する重合断面図が作成され,それらの中から反射面として連続性のある部分の時間と重合速度を読み取って行く.

 以上のようにして求めた重合速度は,実際の弾性波の速度とは異なり,地表からある反射面までの経路全体の平均的な速度を意味している.例えば,いま第n層目の下面からの反射波に対する重合速度をVstとすると,この反射波は第1層から第n層目までを通過したことになるので,その経路の各層の真の速度をV1,V2,V n し,さらにそれぞれの層の通過時間をt1, t2 ,t n すると,

       Vst={(V12t1+V22t2+…+Vn 2tn )/(t1+t2+ …+tn ) }1/2

となる.このように定義される重合速度は二乗平均速度(RMS速度)ともよばれる.

 したがって実際の速度を見積るためには,得られた二乗平均速度から表層より順次各層の真の速度を求めることになる.これは,最上層の平均速度と真の速度が等しいと仮定することにより計算することができる.このような考えにしたがって求めた速度を区間速度といい,媒質本来の弾性波速度(真の速度)を表している.このようにして求めた弾性波速度分布を図4−1−3図4−1−4図4−1−5に示す.ただし縦軸は深度に変換してある.

 なお重合するときには1.0秒での重合速度を,全体の重合速度の速度関数から目視によって外挿し,A測線では2500m/sec前後,B測線では2900m/sec前後,またBS測線では600m/sec前後とした.

(2)時間断面

 A,B両測線のマイグレーション断面に,反射面の傾斜の相違,反射波の強弱および連続性に着目し地層区分を行った.その結果を図4−1−6および図4−1−7に示すように上位よりA層,B層,C層およびD層に区分される.

 a)A測線

 本測線では測定点番号260以西および420より東側では,比較的連続した反射面が確認されるが,その間では反射面の連続性は乏しい.

 比較的反射面が連続する範囲で,その反射面の傾斜を基に地層区分を行うと,測線の西側では,A層は測定点番号200以西で西に傾斜した反射面が確認され,その基底の反射面は180msecから東に向かって浅くなる緩やかな起伏を持った反射面で区分される.その下位には200msecから東に緩やかに傾斜した連続性のよい反射面で区分される(C層).また320msecから360msecへと東に傾斜した連続した顕著な反射面が確認され,この反射面でC層とD層を区分した.一方測線の東側では全体に測定点番号470付近に各反射面で高まりを示す傾向がみられ,その傾斜の違いから各層を区分した.その間の連続性をみると,測定点番号250から280間および410付近に東に向かって急激に浅くなる反射面が確認され,同260から420の間ではC層以下の反射面の連続性が乏しくなる.

 b)B測線

 測定点番号480付近に向斜軸が,同280付近を中心として背斜構造が確認された.

 A層は向斜部で向斜を埋める形で反射面が連続し,背斜部では南東方向に傾斜した反射面が確認されるが連続性に乏しい.B層はこれらの構造を反映した連続した数条の平行した反射面を示す.B層とC層は非常に振幅の大きい反射面で区分され,またC層とD層は連続した反射面が確認される部分と内部反射の乏しい部分で区分される.

 測定点番号470付近の500msec以深においてC層基底の反射面に食い違いがみられ,マイグレーション前の断面ではこの付近に回折波が卓越することから深部に断層を想定した.また測定点番号420付近の背斜翼部に各反射面のずれが確認され断層と判断した.同じように測定点番号280付近の反射面もずれが確認され断層と判断される. 

 c)BS測線

 B測線の一部を精密に調査するためにS波震源を用いて調査を行った(BS測線).

 BS測線の測定点番号(断面上のCDP−STAT)とB測線のそれとの対応状況を次に示す.BS測線の測定点番号は94から213である.B測線上では欠測点を作らずに受振点間隔2mを実現することができなかったため,道路反対側にBS測線を設けた.このためB,BS両測線は一致していない.

 BS測線(測定点間隔2m) B測線(測定点間隔5m)

  95                163

  105               167

  110               169

  115               171

  131               177

  141               181

  146               183

  165               191

  170               193

  180               197

  190               201

  213               210

 本測線のマイグレーション断面を図4−1−8に示す.図をみると,300msec付近までは反射波を認めることができるが,連続性はあまりよくない.ここでみられる反射波は,P波とS波の伝播速度の違いを考慮すると,B測線では60msec以浅にみられるはずであるが,反射波の形状に類似性は認められず,断層の確認には至らなかった.