(2)IP法電気探査

調査方法

 本調査では電極配置形式としてポール・ダイポール法を採用した。ポール・ダイポール法の電極配置を下図に示す。

          図3−2−1 ポール・ダイポール法の電極配置

 ポール・ダイポール法の電極配置では、遠電極C1 と調査測線上の流電電極C2 間に電気を流すことによって生じた電位差を電位電極P1 P2 間で測定する。流電電極C2 と電位電極P1 の間隔は電位電極P1 P2 の間隔aの整数倍(以後この整数を電極隔離係数nと呼ぶ)とした。

 各測線および遠電極の位置を図4−2−1および図4−2−2に示す。また、各測線における測定の手順を表すダイアグラムを図3−2−2に示す。A、B各測線において、ポケットコンパスと間縄を用いた簡易測量により2m間隔の電極位置を設定した。また、測線から流電電極−電位電極の最大間隔の10倍(240 m)以上離れ、かつ測線とほぼ直交する方向に遠電極C1 を設置した。遠電極にはステンレス鋼製電極棒10本を用い、これらを電線で接続して打設した。各測線においては、流電電極C2 を設置し、電位電極の位置を次第に離しながら測定し、流電電極C2 と電位電極P1 の間隔が電位電極間隔の12倍の距離(24m)の測定を行ったあと、流電電極C2 を隣の電極位置に移設する手順で測定を行った。前図に示すとおり、測線Aと測線Bでは、測定の都合上流電電極C2 と電位電極P1 P2 の位置関係を東西逆にして測定を実施した。流電電極C2 にはステンレス鋼製電極棒10本を用い、これらを電線で接続して打設した。また、電位電極には銅−硫酸銅溶液の非分極電極を用いた。

            図3−2−2 各測線における測定手順

調査使用器材

本調査で使用した測定装置は次のとおりである。

  送受信機  IRIS Instruments社(フランス)製比抵抗探査装置 SYSCAL−R2

       送信部 最大出力1200W,最大出力電圧 800V,最高電流 1.5A,

  交替直流周波数 0.025〜1Hz

           流電電極(ステンレス製電極棒)

       受信部 測定レンジ最大5V,分解能1μV

           電位電極(非分極電極(CuSO4 電極))

  電  源  本田技研工業・製 EB550発電機

        IRIS Instruments社(フランス)製1200W AC/DCコンバーター

測定仕様

(1)測定仕様

本調査の各測定の仕様は次のとおりである。

  測線長            A測線 : 150m

                 B測線 : 150m

  電極間隔           2m

  隔離係数           1〜12

  電極配置形式         ポール・ダイポール法

  送信電流通電開始時刻(T_O)  送信電流遮断後 2,000ms

  送信電流通電時間(T)    2,000msec

  非抵抗測定開始時刻(V_DLY)  送信電流通電開始後 1,260msec

  非抵抗測定終了時刻    送信電流遮断時刻に同じ

 送信電流遮断時刻(T_O)    送信電流通電開始後 2,000ms

  送信電流遮断時間     送信電流通電時間に同じ

  IP測定開始時刻(M_DLY)   送信電流遮断後 160ms

  IP測定終了時刻(M_END)   送信電流遮断後 1,740ms

 図3−2−3に送信電流と測定電圧および上記測定仕様との関係を図示する。

        図3−2−3 IP法測定における送信電流と受信電圧

(2)見掛比抵抗および充電率の計算

 見掛比抵抗および充電率は次式により計算した。

 ただし、nは電極隔離係数、a は電位電極間隔、V_MNは比抵抗開始時刻から送信電流遮断時刻の間に観測された最大受信電圧値、Iは送信電流値を示す。

解析方法

解析作業は、・デ−タ整理、・2次元逆解析用デ−タセット作成、・2次元逆解析、および・解析結果の合成の4つの工程に分けられる。各工程に関する作業方法を以下に述べる。

(1)データ整理

 測定データの図化を行い、測定野帳と照合しながら測定値の誤入力等がないかどうかチェックを行った。

(2)2次元逆解析用データセット作成

 本調査では、1測線当たりの電極数が76本と多いため、データの量および逆解析で決定すべきパラメータの数が非常に多く、一度に全測線のデータに対して2次元逆解析を実施することが不可能であった。そこで各測線を4分割してデ−タセットを作成し、それぞれのデ−タセットに対して2次元逆解析を実施した後、それぞれの解析結果をつないで最終結果を作成した。隣り合うデータセットが互いに半分づつデータが重複するようにずらしながらデータセットを作成した。下表に各データセットの内容についてまとめる。

           表3−2−1 分割したデータセットの内容

(3)2次元逆解析 

 前述の分割した各データセットに対して2次元逆解析を実施した。本調査で実施した2次元逆解析は、測線下の地下を数百個のブロック状にモデル化し、実測された見掛比抵抗値および見掛充電率に近い理論計算値が得られるようなモデルの個々のブロックの比抵抗および充電率を決定するものである。本調査ではまず比抵抗分布を逆解析で求めた後に、その比抵抗分布を用いて充電率の分布をさらに逆解析で求める方式を採用した。

 見掛比抵抗の理論計算には2次元有限要素法を用いた。2次元有限要素法では、測線に直交した走行をもつ2次元比抵抗構造モデルに対する点電流源による測線上の地表における電位分布と比抵抗モデルの各ブロックの比抵抗に対する電位の偏微分係数を計算する。これらの理論計算値から、測線上の地表における見掛比抵抗とモデルの各ブロックの比抵抗に対する見掛比抵抗の偏微分係数を計算することができる。

 見掛充電率の計算にはSeigel(1959)の式

         ∂(logρa )

     ma =Σ――――――・mi

         ∂(logρi )

を用いた。ここでma は見掛充電率、mi はモデルの各ブロックの充電率、ρa は見掛比抵抗、ρi は各ブロックの比抵抗である。上式の見掛比抵抗の偏微分係数は前述の比抵抗の理論計算によるものを使用している。

 通常の最小二乗法では、データの局所的な変化に偏ってモデルの反復改良が進むことがあり、必ずしも安定した解が得られないため、逆解析のアルゴリズムには平滑化拘束条件付きの非線型最小二乗法(Contable et al.,1987 ほか) を採用した。このアルゴリズムでは隣接するブロックの比抵抗値(あるいは充電率)が滑らかに変化する拘束条件を課しておき、モデルの反復改良が進むに従って、その拘束条件を次第に緩めてゆく。

 モデルのブロックの水平方向の幅は、電極のある部分で1電極間隔(2m)とし、その両端から外側に向かって4m、20m、120 m、1,300 mと次第に広げた。また、ブロックの鉛直方向の幅は、地表下4mまで1m(4ブロック)、そこから地表下8mまで2m(2ブロック)、そこから4m、84m、360 mと次第に広げた。

 以下に本調査で実施した逆解析の仕様について下表にまとめる。

  理論計算手法     2次元有限要素法

             グリッドノード数:水平方向147 /鉛直方向44

             要素形状:グリッド内を4分割した三角形要素

  逆解析アルゴリズム  平滑化拘束条件付き非線型最小二乗法

  比抵抗モデル     ブロック数 342個(水平方向38ブロック×鉛直方向9ブロック)

  初期モデル      均質大地モデル(比抵抗 150Ωm、充電率 5mV/V)

  反復改良回数     比抵抗逆解析:5回、充電率逆解析:3回

(4)解析結果の合成

 分割した4つのデータセットに対して、前項・の2次元逆解析を適用した結果、それぞれのデータセットに対して比抵抗構造モデルが得られた。各モデルより下表に示す部分を切り出し、それぞれのモデルをつなぎ合わせて、全測線下の比抵抗構造のモデルを作成した。なお、隣合うモデルの端は互いに重複した部分をカバーしているが、その部分では比抵抗値の相乗平均値を合成後のモデルの比抵抗値とした。

 また、モデルの合成が妥当であるかを確認するために、合成後のモデルを用いて理論計算を行い、実測値との比較を行った。