2−1−5 地形面の区分・対比・分布

調査地域周辺の地形面区分と年代をしめす(表1−2).また,各地形面および構成堆積物については図1−1に示した.段丘面および段丘堆積物の区分については,活断層研究会(1980),宮内ほか(1984),活断層研究会(1991),太田陽子ほか(1994),貞方ほか(1995)がある.本報告では,基本的第に太田ほか(1994)の名称を踏襲するが,各面の定義・分布を変更している.

1面および1面堆積物

平野西縁の函館湾沿岸(富川以南)に分布する海岸段丘である.函館湾西岸の1面は,富川以南に分布する旧汀線高度が90〜100mの解析が進んだ海成面で,宮内・八木(1984)のH2面に相当する.また,これは平野東縁の赤川面(貞方ほか,1995)にあたる.段丘構成層は淘汰のよい中粒砂が主体で,円磨された中礫をふくむ砂礫層からなり,その上に褐色ロームがのる(太田ほか,1994).

太田ほか(1994)は,大野川南方の観音山(高度144m)付近の面(河成面?)を1面に対比している.地形面はドーム状に湾曲しており,既存調査(太田ほか,1994;貞方ほか,1995)においても溶岩礫を含む角礫(斜面堆積物)とローム層は確認されているが,円礫層などは確認していない.本報告では,地形面そのものが失われていることから1面そのものが存在していないと判断した.

2面および2面堆積物

宮内ほか(1984)のM1面,貞方ほか(1995)の日吉町T面の堆積物に相当する.富川以南の沿岸に旧汀線高度が60mの比較的広い平坦面をなし,内陸では上磯町の添山,桜岱(標高80m)に,大野町の観音山北東(標高100m〜110m)に分布する.貞方ほか(1995)は,この面上にボーリング調査をおこないToyaを確認している.

茂辺地の海岸地域のM1面堆積物は,下位よりマッシブな塊状の中礫層,平行層の発達した砂礫層,軽石を含むマッシブな中粒砂層,黄褐色細粒火山灰(これは洞爺火山灰:Toyaに対比されている),褐色ローム層,ピンクローム層,褐色ローム層を経て黒色腐植土層に漸移する.このことからToya降灰直前に離水した地形であることが明らかである.下末吉面に対比され(瀬川,1954;中川,1961;瀬川,1974;宮内,1988),最終間氷期(125ka)に形成された面および堆積物と考えられている.

太田ほか(1994)では,大野の八郎沼周辺のやや平坦な丘陵地に2面を認定している.しかし,本調査において地表において「段丘礫層」は確認されず,文月層の上位に直接ローム層を覆う関係しか見られない.したがって,太田ほか(1994)の2面の多くは,存在しないと考える.

 富川付近では2面は上下2面に細分され,上位を2面,下位を2'面としている(太田ほか,1994).宮内ほか(1984)のM2面,貞方ほか(1995)の日吉町U面に相当する.

3面および3面堆積物

太田ほか(1994)で5面または沖積面に対比されていた地形面の一部である.現在,分析・検討中であるが,含まれる火山灰がToyaとなる可能性がでてきた.従って,大野地域の太田ほか(1994)の5面とは形成年代が全く異なることから,今回あらたに3面および3面堆積物を定義する.

地形面は添山周辺の標高15m〜50mに比較的広い面が発達している.大工川周辺では渡島大野断層によって撓曲し,標高10mにまで高度を下げている.地表では層厚5m以上で基底は見られない.堆積物は,良く円磨された大礫を主体とし,植物根を含んだ細粒砂〜シルト層をはさむ.礫層はインブリケーションが発達し,少なくとも2m〜3m厚の2つ以上のユニットに分けられる.面の形状は,富川断層に近い添山周辺ではやや凹凸にとむ.この起伏地形は下位の富川層の地質構造(背斜・向斜構造)と調和的である.

Toya火山灰の認定が正しければ,およそ9万年前前後の河成段丘堆積物であると考えられる.

4面および4面堆積物

大野町の向野〜文月にかけて標高70m〜80mに比較的平坦な河成面が分布する.太田ほか(1994)の3面,4面にほぼ相当する.堆積物は,渡島大野断層周辺で典型的に観察される.露頭状況が悪く基盤との関係は明らかには出来なかった.渡島大野断層の撓曲崖付近の畑地では,段丘礫層が斜面なりに撓曲しているのが観察された.下位の部分は,被覆層におおわれて見えないが,少なくとも上位に露出している部分では,下位よりマッシブな中礫層(30cm++:channel fill deposits?),粗粒砂混じりの細〜中粒砂のフォアセット層(40cm:point bar deposits),礫支持でインブリケーションが顕著な大礫層(140cm:longitudinal bar deposits)からなり,それらが25°東に傾いている.斜面の傾斜はおよそ15°程度である.この斜面下部には,粘土混じり砂礫層は露出するが,先の岩相との関係は不明である.この堆積物の上位は,この露頭では観察されないが,近傍の露頭で確認でき,下位から礫混じり褐色粘土〜ピンク粘土(loess)層(1m+),クロボク混じりNg−a層(30cm),クロボク層(30〜40cm)となっている.

5面および5面堆積物

 大野川南岸および久根別川の西側に標高35m〜50mの平坦な河成面を形成している.堆積物は,渡島大野断層周辺で典型的に観察され,北海道教育大学函館校のトレンチ内の地層が相当する.トレンチの層序は,下位より4.5m厚の砂礫層(channel lag and point bar deposits)・砂質粘土・シルト・砂層(flood plain deposits),0.25m厚のピンク粘土(loess),0.10m厚の粗粒黄色火山灰(Ko−h:17kyr.B.P),0.6m厚の砂質粘土層,0.4m厚の岩片を含む灰色火山灰(Ng−a:12kyr.B.P.),0.7m厚の火山灰混じりクロボク土層・クロボク土層(B−Tm:A.D.10C;Ko−d:A.D.1640を含む)からなる(田近,1995;鴈澤・紀藤,1995).地表露頭においてトレンチでみられた砂礫層相当層の上部の泥炭から22,950±680/605yrs.B.Pの14C年代が得られている(鴈澤好博・紀藤典夫,1995).従って,層序・年代値から5面は,2万3千年前頃には離水,段丘化していたと考えられる(貞方ほか,1995).

6面および6面堆積物

 大野川北岸〜仁山にかけて標高30m〜50mでなだらかな扇状地・沖積錐をなす.特に平坦面をなす市渡地域では活断層による撓曲地形が明瞭である.堆積物は,大野町市渡地区の渡島大野活断層周辺で観察できる.基盤との関係は明らかでないが,数10cmのセット高のフォアセット砂礫層・粘土層の互層,Ng−aを含む褐色粘土層,クロボク土層(B−Tm:A.D.10C;Ko−d:A.D.1640を含む)を含む.今回,このクロボク土から3520±100yrs.B.Pの14C年代(テレダインアイソトープ社測定)がえられた.フォアセット砂礫中には泥の同時礫を含むものが多いことから,本層は約3千年以前には扇状地を形成し終わっていたと考えられる.