5−2−3 最終活動時期

保美地区のトレンチと断層露頭の調査結果のうち、活動履歴を推定する基礎となる成果は、以下のようにまとめられる。

・簡易トレンチ結果より

@トレンチ壁面の観察によって得られた結果は、いずれの層も、断層等によるとみられる顕著な変形は認められなかった。しかし、基盤部については亀裂が発達していた。

・ふるさと農道の切土法面部分で認められた断層露頭

@断層部分で認められる段丘砂礫層の礫が、露頭の南東端で認められるローム層中に認められ、さらに、ローム層自体が段丘砂礫層に巻き込まれているように見受けられる。また。ローム層は、断層によって切られている。(イベントは、ローム層堆積より後)。ローム層中からは、ATテフラ層から供給されるガラスは検出されず、少なくともローム層はATテフラ層よりも古い。また、ローム層の分析結果からは、かなり不純物が多いものの、大町テフラ(30万yBP)起源の可能性のある角閃石が含まれているため、かなり古い可能性が指摘される。

・河道切替部分の断層露頭

@切替河道掘削基面付近で認められる断層は、基盤のシルト岩〜泥岩(新第三紀層)が段丘砂礫層(第四紀層)に乗り上げている(図5−3−2;断層の活動は段丘層堆積より後)。

A小段上の上部法面では、段丘砂礫層中に認められるシルト層が断層によって、上方に引きずられている。同一シルト層は、断層を境に上盤側が約2m、相対的に高い位置に水平に堆積している(図5−3−2;断層の活動は、シルト層堆積より後)。

Bさらに高位標高の小段上では、BPテフラ層及びATテフラ層が確認された。しかし、断層直上において、新しい段丘礫層がBP、ATテフラ層の認められる古い段丘面を削っているため、AT、BPテフラ層と断層との直接の関係は、不明である(断層の活動は新しい段丘層堆積より前の可能性)。

また、調査地点で認められたいくつかの炭質物や材(年代測定に有効な木片)化石について、年代分析を行った。その結果、河道切替地点で認められた変形したシルト層の年代は38620±810yBPであった。一方、簡易トレンチ壁面から得られた試料の年代値は、8050±70yBPであった。簡易トレンチ箇所と、河道切替部分の露頭は、やや離れているが、簡易トレンチを行った段丘面と、河道切替部分の露頭でみられる新しい段丘面が、同じ面に対比されるため(図5−3−2)、簡易トレンチで得られた年代値を、新しい段丘面の年代値として対比することが可能である。したがって、断層により変形しているシルト層の年代値が38000年前であり、トレンチ壁面の変形していないシルト層(断層を覆っている新しい段丘)の形成年代は8000年前、以前と判断することができる。よって、保美地区における平井断層の最終活動時期は、38000年前以降、8000年前以前であるといえる。

以上より、AT,BPテフラ層よりも下位については、確実に断層によって変位を受けているといえる。AT及びBPテフラ層を含む部分まで変位をうけているかどうかは、AT、BPテフラ層が認められる段丘砂礫層が、それよりも新しい段丘面(下記参照)によって、削られているために不明確である。しかし、断層によって変位を受けている砂礫層は、AT、BPテフラ層を含む部分の砂礫層と類似し、一連の堆積物と見なせることから、AT、BPを含む部分も変形している可能性が高いと言える。また、小段部分での断層露頭より、変形の認められるシルト層を含む古い段丘面と考えられる砂礫層と、シルト層を覆うように堆積する砂礫層の堆積相を比較すると、礫の並び方や大きさ、基質部分の固結度など、かなり異なっていることがわかる。これらもまた、シルト層よりも上位の部分が下位の部分と違う、新しい段丘面の堆積物であることを示す証拠であると考えられる。

表5−2−1平井断層の調査地区別結果一覧

また、上記に起こったイベントは、最終活動であると推定される。仮に、上記で推定された時代以降に最終活動が起こったとするならば、AT、BPテフラ層を覆う新しい段丘面も変位を受けていると考えられる。しかし、新しい段丘面の砂礫層は変位してはいない。よって、この段丘面形成以降は、活動していないと考えられる。

一方、通常、断層によって地層の食い違いが起こったとすれば、地形にはリニアメントが残されるのが普通である。ところが、平成8年度調査では、平井断層保美地区切り替え河道の断層露頭地点について、AT、BPテフラ層の挟まれる段丘面(ここでいう古い段丘面)上に断層の構造に調和的なリニアメントは認められない。しかし、断層露頭が実際に存在するため、段丘面は変位をうけていることは確実である。そこで、段丘面にリニアメントの認められない理由としては、次の点が上げられる。

・リニアメントを新しい、扇状地性の堆積物が覆ったため、認めることができなくなった。

・変位を受けている段丘部分が、河川に近いために堆積物の供給が一定でなく、その結果、段丘面の形成作用が一様でなかった為に、リニアメントが保存されなかったこと。

・断層上の砂礫層が厚い場合、変位してもリニアメントは発達せず、“地層のたわみ”として垂直変位量が側方変位と一緒になってしまい、緩やかな盛り上がりとなる。その結果直線状地形として認めにくくなる可能性がある(山崎;未公開)。

それらを考慮すると、このあたりの段丘砂礫層は15m以上の厚さがあり、基盤からの厚さはかなりのものとなる。そのため、リニアメントがたわみとなっており、不明瞭となっている可能性がある。

以上の内容を模式図にして示した(図5−2−1)。