(2)結果

14C年代試料分析

神川断層では、トレンチ壁面より得られた試料を主体とした14C年代試料分析を行った。試料は、炭化した材や腐植物が主体である。年代分析の結果、試料の年代値は大きく二つに区分される。一つは25000〜22000年前程度を示すグループ(A〜C層)であり、もう一つは2000〜3000年前程度を示すグループ(D層)である。この結果より言えることは、少なくとも、トレンチ掘削部分では、BPテフラ層の堆積以降(17000年前程度)、新しい堆積物が堆積する2000〜3000年前程度まで、時間間隙があったこともしくは、その間の堆積物が削剥されたことが推定される。また、今回得られた結果は、層位と逆転するなどといった大きな矛盾は一部を除き、認められなかった。一部誤差の含まれていると考えられるE層から得られたK5試料は、730±40yBPと、他の試料と対比して、非常に新しい年代値を示している。これは、試料が材ではなくて,一見して、植物根のようなものであり、E層に初生的に含まれていたものでなかったためであると推定される。以下に今回得られた年代値と地層との関係を示す。

表4−1−4 トレンチ壁面の岩相区分(下位(古い方)より示す)と14C年代

・テフラ分析

神川断層では、数種類のテフラが確認された。岩相区分との関係は以下のように示される。

表4−1−5 トレンチ壁面の岩相区分(下位(古い方)より示す)とテフラ分析結果

詳細は上位(新しい方)から順に以下に示す。

・As−A(浅間A)(1783年、18世紀):厚さ10〜15cm程度で、暗灰色を呈す。φ=1o程度の軽石が密集する。軽石はやや発泡しており、ややくすんだ黄白色を呈す。

・As−B(浅間B)(1108年、12世紀):厚さ10〜20cm程度である。暗褐色を呈す。φ=1o以下の岩片が主体である。軽石はほとんど認められず、一見砂状である。

・As−C(浅間C)(4世紀):厚さ15〜45cm程度である。橙褐色を呈す。φ=1〜2oの軽石主体である。軽石はやや発泡しており、ややくすんだ黄白色を呈す。

・As−YP(浅間YP)(約13000〜14000年前)

・As−Ok(浅間大窪沢)(約14000〜17000年前)

・As−BP(浅間BP)(17000〜21000年前)

AT(姶良−Tn)(約25000年前)

以上14C年代分析と、テフラ分析を組み合わせて、トレンチ壁面のA〜Gに分類した各層の年代値を決定した。A,C,E層については、14C年代とテフラ分析による年代とが大きな矛盾は認められないため、14C分析の項で推定した年代で、問題はないと思われる。B層については、両年代測定の結果からは直接の年代を得ることができない。そのため、A、C層の間に位置することより、23000年〜25000年程度であろうと想定した。また、D層は14C年代分析では、3000年〜2000年と、新しい結果を示すのに対して、テフラ分析では、As−BPが認められ、その年代は21000年前〜17000年前程度となる。よって、15000年〜19000年程度の開きがあることになる。そこで、年代値を示す試料の数量、トレンチの西面と東面の岩相による対比などを用いた結果、D層で認められるAs−BPテフラ層は、異質物を多く含んでおり、再堆積作用を受けた結果である可能性が高いと推定される。そのため、年代値は14C年代分析によって得られた3000年〜2000年というものを用いることとした。F層についてはAs−A〜Cが認められたため、1000年よりも新しい層であるとした。

以下に各年代分析の結果を用いたトレンチ壁面の年代を示す。

表4−1−6 トレンチ壁面の岩相区分(下位(古い方)より示す)と年代値