1−1 まえがき

1995年1月17日の兵庫県南部地震を契機として、都市直下型地震の震源となりうる、都市域に近く且つ規模の大きい活断層の活動性の詳細な検討が、地震防災対策特別措置法第13条第3項により必要とされた。本業務は、これに基づき抽出された平井・櫛挽断層帯について調査を行なった。

平井・櫛挽断層帯(平井断層・神川断層)は、関東山地北東縁の山麓隣接部一帯にあり、群馬県南西部の高崎市,前橋市,藤岡市,伊勢崎市等の都市域近傍に位置し、西北西−東南東の走向を示す縦ずれ及び横ずれ成分をもった断層である。1931年の西埼玉地震(規模M6.9 )が、これらの断層付近で生じた顕著な被害地震である。震源は、児玉付近から熊谷西方に至る走向N74W・80S、長さ約20q,幅10qの断層面をもつ左ずれ断層であったと推定されているが、地表では地震断層は見出されなかった。この他隣接の東松山付近には1968年にM 6.1の地震が起こっている。重力測定によると、櫛挽断層沿いでブーゲー異常 )が顕著であり、同断層はさらに南方では北西−南東方向(今市−菅谷断層)へ連続していると推定されている。また、平井・櫛挽断層帯は平井付近で北西−南東方向に向きを変え、更に北上する可能性も指摘されている。

平井・神川断層は、それぞれ共に確実度T,活動度B・C級,長さ5・15q・断層崖と高度不連続と断層露頭の断層形態を有し、段丘による変位基準では、平井断層で8000年の間に藤岡T面で9.5mの変位(平均変位速度0.1m/1,000年),同10,000年の間に藤岡V面で1.5mの変位(平均変位速度0.15m/1,000 年) 、神川断層で60,000〜80,000年の間に藤岡T面で3m以上の変位(平均変位速度0.04m/1,000 年以上)を生じているとされている。

本調査の最終目的は、平井・櫛挽断層帯について、@その活動履歴とセグメント )構造を明らかにするとともに、A次に活動する時期,場所,規模等−長期的な地震発生の可能性について評価を行ない、長期的地域防災計画策定の基礎資料とすることである。このうち本業務では、平井・神川断層を直接確認するトレンチ調査を行う前に、必要な断層の位置、連続性を確定・推定するために、文献調査,空中写真判読,地表地質,現地踏査,物理探査,ボーリング調査,諸分析,総合解析を行なった。

なお、調査の実施にあたっては、「群馬県活断層調査委員会」の懇切・丁寧で熱心な技術指導を頂いた。