(2)火山灰分析結果

屏風山断層大草地点(地表踏査[精査]実施地点)のBOKC2露頭とBOKC9露頭およびBOKC15露頭で火山灰分析用試料を32試料採取した(図3−2−3−3)。このうち30試料で火山ガラスの含有率を測定し,11試料で全鉱物組成分析を実施し,4試料で火山ガラスの屈折率を測定した(表3−2−3−2)。

@BOKC2露頭

BOKC2露頭は地表踏査(精査)範囲西端のF3(2)面を横切る道路法面に位置し,fdV(2)層(土石流堆積層V[2])が露出する(写真3−2−3−1)。F3面直下から層厚1.4mが露出する。下位から角礫,礫混じりシルト,腐植土からなる(図3−2−3−4)。

角礫は層厚60cmで,礫径3〜7cmの花崗岩と美濃帯堆積岩の角礫を含む。礫は一般に硬質だが,花崗岩礫の一部はやや軟質である(マサ起源)。マトリックスはオリーブ黄(5Y 6/3,5Y 6/4)の砂質シルトで,やや締まっている。礫混じりシルトは明赤褐(5YR 5/8)〜赤褐(5YR 4/8)のシルトからなり,礫径1〜5cmの花崗岩角礫をわずかに含む。腐植土は黒褐(10YR 3/1)を呈し,最上部に礫径1〜5cmの花崗岩礫を含む(図3−2−3−4)。

BOKC2露頭では10cm毎に連続サンプリングにより14試料を採取し,すべての試料で火山ガラスの含有率測定と全鉱物組成分析を実施し,BOKC2−2試料で火山ガラスの屈折率測定を実施した。試料番号は上部から順にBOKC2−1〜BOKC2−14とした。BOKC2−1およびBOKC2−2は腐植土,BOKC2−3〜BOKC2−8は礫混じりシルト,BOKC2−9〜BOKC2−14は角礫を採取した。火山ガラスの含有率は1/3000〜108/3000の範囲で,BOKC2−2試料で108/3000と最も多い。BOKC2−2試料で火山ガラスの屈折率測定を実施した。火山ガラスはBl(バブルウオール)タイプのものが多く,屈折率は1.4948−1.5093の範囲にあり,1.496−1.500と1.508−1.509にモードが認められる(図3−2−3−7)。AT火山灰およびK−Ah火山灰が含まれる可能性が高い。

以上の火山灰分析結果からBOKC2露頭上部にはATとK−Ahを含むことが明らかになった。ただし,F3(2)面の開析度合いやBOKC9露頭の火山灰分析結果を考慮すると,fdV(2)層中はATやK−Ahより古い時代の堆積物で,fdV(2)層中にATやK−Ahが含まれるとは考えにくい。BOKC2露頭の上部腐植土はfdV(2)層より新しい堆積物であると考えられる。

ABOKC9露頭

BOKC9露頭は地表踏査(精査)範囲北端のF3(2)面縁辺部に位置し,fdV(2)層(土石流堆積相V[2])が露出する(図3−2−3−5)。BOKC9露頭はF3(2)面から約3m下方に位置し,露頭の高さは1.7mである。層相はやや不均質であるが,上下方向および側方に層相変化は認められず,全体に礫混じりシルトからなる(図3−2−3−5,写真3−2−3−2)。礫径2〜5cmの美濃帯堆積岩と花崗岩の角礫を含む礫混じりシルトで,礫はやや軟質(半クサリ礫)である。マトリックスは赤褐色シルトからなる。

BOKC9露頭では10cm毎に連続サンプリングにより17試料を採取し,すべての試料で火山ガラスの含有率測定を実施し,BOKC9−5試料で火山ガラスと斜方輝石の屈折率測定を実施した。試料番号は上部から順にBOKC9−1〜BOKC9−17とした。

火山ガラスの含有率は0/10000〜208/10000の範囲で,BOKC9−4試料とBOKC9−5試料が特に高く,

表3−2−3−2 火山灰分析結果(屏風山断層大草地点)

BOKC9−5試料の208/10000が最大値である。BOKC9−5試料で火山ガラスの屈折率測定を実施した。火山ガラスはバブルウォールタイプで,屈折率は1.4967−1.5000の範囲にある(図3−2−3−7)。一方,微量含まれる斜方輝石の屈折率は1.7012−1.7332で,1.701−1.706と1.707−1.710および1.730−1.733に明瞭なモードがみられる(図3−2−3−7)。斜方輝石の形態は大山火山起源の大山生竹テフラ(以下DNPとする)あるいは大山倉吉テフラ(以下DKPとする)に類似したもの(100面発達)およびその他に分けられる。1.701−1.706にモードをもつものは,富士山麓に分布するDNPのモード(町田・新井[1992]火山灰アトラス,東京大学出版会)と一致することから,DNPであると考えられる。斜方輝石の屈折率1.730−1.733のモードはATに相当する。

以上の火山灰分析結果から,BOKC9−5試料にはDNPからATまで幅広い層準の火山灰が混在するといえる。BOKC9露頭がF3(2)面縁辺部に位置すること,火山ガラスの含有率はBOKC9−4試料とBOKC9−5試料で特に高くその前後の含有率が低いこと,fdV(2)層の層相は一般に砂礫であるのに対しBOKC9露頭の層相はシルト主体であること,などを考慮すると,F3(2)面の形成とBOKC9露頭の礫混じりシルトの堆積は以下のように進行したと考えられる。

(@)F3(2)面の形成

(A)F3(2)面への火山灰(DNP,AT)の降下・堆積

(B)火山灰層を含むfdV(2)層の移動・堆積(BOKC9露頭の礫混じりシルト)

すなわちBOKC9露頭の礫混じりシルトはfdV(2)層とそれを覆う火山灰層が移動・再堆積したものであると考えられる。間接的ではあるが,fdV(2)層もしくはそれを覆う地層にDNPやATが含まれていることを示す。DNPの噴出時期は約8.0万年前とされている(町田・新井[1992]火山灰アトラス,東京大学出版会)。fdV(2)層の形成時期は8.0万年以前である可能性がある。

BBOKC15露頭

BOKC15露頭は地表踏査(精査)範囲の南部に位置する。F4面を開析する沢沿いに露出し,fdW層(土石流堆積層W)およびTg層(瀬戸層群土岐砂礫層)が露出する(図3−2−3−6)。BOKC15露頭はF4面から約2m下方に位置し,露出する地層の層厚はfdW層が約2mで,Tg層が約3mである。

Tg層は主に砂礫層からなり層厚1m程度の礫混じり砂層を挟む。fdW層は下位から角礫層,砂層および角礫層からなる。下部の角礫層は礫径3〜20cmの花崗岩角礫主体で,チャートの亜円礫を含む。マトリックスは褐色の砂からなる。砂層はシルトを挟む粗粒〜中粒砂で,ラミナがみられる。上部の角礫層は礫径5〜50cmの花崗岩の角礫主体で,マトリックスは淡褐色を呈する粗粒砂からなる。

BOKC15露頭ではfdW層の砂層中に挟在する連続性のよいシルト薄層(写真3−2−3−3)から2試料(BOKC15−1およびBOKC15−2)採取した。火山ガラスはいずれもバブルウォールタイプで,屈折率はそれぞれ1.4980−1.5000と1.4980−1.5017でAT火山灰であると判定した。火山ガラスの含有率はBOKC15−1試料で2/10000,BOKC15−2試料で3/10000と含有率が非常に低いことから,地層形成後混入した可能性もある。