(1)No.1トレンチSW面の断層

写真4−6

No.1トレンチSW面では、壁面ほぼ中央のグリッド5.7〜6.3において、高角度に南東に傾斜する比較的明瞭な1枚の面を境にして、D層とE層が接しているのが確認できた。この面をD層とE層の境界としたのは、この面を挟んで両者の間に固結度、礫の含有率、基質の粘土・シルトの含有量などの差異が認められたからである。

この面は、トレンチ底付近では基盤岩の破砕帯とD層の境界をなしており、明瞭である。トレンチ底より約20cm上のこの境界上に礫径80cm以上の巨大礫がある。この巨大礫は長軸方向が立っており、縦方向の亀裂が密に入り砕けている。ややE−b層のほうがD−c層より基質が主体で基質も粘土・シルトの含有量が多いこと、色調の微妙な違いなどの特徴を用いてD層とE層を区分した結果、巨大礫の上方での境界はやや不明瞭ながら、巨大礫の北西側(スケッチ、写真では礫の右側)の上端からC−d層の最下部まで確認できた。境界に沿う礫の配列の乱れや、再配列などは認められなかった。

地層の記載の項で述べたように、D層、E層とも土石流堆積物が重なって形成されたと考えられる堆積物であるが、E層の方が若干固結が進んでおり、上部にローム質な層を載せていることから、D層に比べて有意に古いと考えられる。したがって、形成時期の異なる2層が高角度の面で接していることになる。また、境界より南東側のE層の下位には基盤岩の破砕帯がみられるが、北西側のD層の下位にはみられない。このような地質構造から、D層とE層の境界は断層と考えた。

断層はトレンチ底では基盤岩の破砕帯とD層の境界をなす。トレンチ底より約20cm上からは巨大礫を回り込むようにその北西側を通り、D層とE層の境界をなし、C−d層の最下部まで達している。南東に高角度で傾斜した断層である。この断層をF1断層とする。

また、巨大礫が立っていること、上位のC層の構造(後述)から、その南東側を通る断層が、巨大礫の下から分岐しているとみた。この断層をF2断層とする。F2断層はほぼ垂直で、壁面半ばの大礫の上端まで確認できた。それより上方のE−b層中には、何らの面や堆積構造の乱れなどは認められなかった(写真4−6)。

断層の北西側に分布するD−b層、D−c層では、F1断層の近傍の幅約40cmぐらいで礫の配列が乱れて無構造になっているのが認められた。

D層、E層の上位には、C層下部がF1断層およびF2断層付近を中心とする浅いU字状をなして分布している。その基底層であるU字状にわん曲したC−d層には明瞭な断層面は認められなかった。しかし、F1断層の位置でC−d層は下に垂れ込んだようになり、その中に材が横向きに入っていることから、C−d層はF1断層による変形を受けていると判断した。さらに上位のC−c層はC−d層のわん曲の凹部を埋めて堆積している。 写真4−6 No.1トレンチSW面 断層近傍 また、C−d層が浅いU字状にわん曲している範囲で、C−b層が下方へ階段状に屈曲しており、逆L字型に屈曲しながら途切れる不自然な端末をなすのが認められた。これらは通常の堆積では考え難く、F1断層による何らかの変形を受けている可能性は否定できない。