1−7−2 トレンチ調査

南東側に微高地がひろがり、その北西側は湿地となりチャネルが屈曲している地点で、湿地と微高地の境界を断層が通ると判断してトレンチ掘削調査を実施した。トレンチは断層と直交する方向に2本(No.1トレンチ、No.4トレンチ)、断層に平行な方向に2本(No.2トレンチ、No.3トレンチ)掘削した。

その結果、No.1トレンチ、No.4トレンチの各両壁面、計4壁面で断層を確認できた。

トレンチ内の地層構成は大きく分けて6層に区分できた。表土であるA層、土石流堆積物であるB層、下位のD層、E層を覆い、一部浅いU字状をなす腐植質の堆積物であるC層、断層の北西側に分布するD層、断層の南東側に分布するE層、断層帯の中の堆積物であるF層と、基盤岩ないし基盤岩の破砕帯である。各層は、礫径、礫の含有量、基質の粘土・シルトの含有量による層相の違いにより、さらに数層に区分できる。

トレンチ底において基盤岩の破砕帯を切る断層は、垂直〜南東へ高角度で傾斜している(No.1トレンチのF1断層、No.4トレンチのF4断層)。断層はD層とE層の境界をなしており、断層の北西側にはD層が、南東側にはE層と基盤岩あるいは基盤岩の破砕帯が分布する。E層はD層に比べて締まっており、上部にはローム質の堆積物が載っていることから、D層より古く、早い時期に離水したと判断した。断層の南東側にのみ基盤岩、基盤岩の破砕帯が認められることからも、断層の南東側が北西側に対して上がっていると思われる。

さらに、No.4トレンチでは、壁面の途中でF4断層から上方へ開くように分岐している断層(F5断層、F6断層)が認められた。これらの分岐する断層は緩やかに南東に傾斜しており、F4断層との間に断層帯であるF層を挟んでいた。

C層下部は、No.1トレンチのD層とE層の境界を跨ぐように浅いU字状に分布している。C層の最下部層であるC−d層は堆積後、落ち込みわん曲した可能性が高い。また、断層近傍ではD層、E層ともに断層にむかって引きずられたように撓んでいるのが両トレンチで認められた。これらの地層の形状や断層の分岐からみて、横ずれ断層に典型的なフラワーストラクチャーと判断した。

牧ヶ洞断層の最終活動時期を決定するために11試料で14C年代測定を実施した。その結果、C層は約6,800年前から堆積し始め、少なくとも1,500年前ぐらい前までは堆積が継続していたこと、D層は18,000年〜19,000年前の堆積物であることが判明した。断層帯をなすF層からは、660年〜6,400年前の年代値を得たが、地層のモザイク状の分布を考慮すると、主体は5,400〜6,400年前の堆積物と考えられる。

牧ヶ洞断層は、確実にD層、E層、F層を切っている。したがって、断層は5,400年前以降活動したことは確実である。今回の調査では、断層を確実に覆い、断層変位を受けていない地層が分布していなかったため、最終活動時期の期間を限定することはできなかった。しかし、C層内部にも不自然な形状を示す層(C−b層)が分布することや、断層帯であるF層の構造の複雑さからみて、さらに新しい活動があった可能性がある。また、F層、D層、E層の分布からみて、D層堆積後F層堆積前に少なくとも1回、E層堆積後D層堆積以前にも少なくとも1回は断層活動があったと考えられる。