5−4−3 福島市東湯野地区

東湯野地区では空中写真判読によって観察された撓曲崖について、これが断層による変位によって形成されたものであるかを確認することを目的として、5地点(各10m)のボーリングを実施した。実施箇所は図5−8に示した地点でおおむね撓曲崖を直線的に横断するものとした。

1)コア観察結果

 No.1孔では深度0.14mまでが耕作土でありこの下位深度1.20mまでにシルト〜細砂層が見られる。深度1.20〜2.29mには砂〜シルト層が見られ、風化した凝灰岩礫を多く含んでおり、この中に木片などの炭化物が含まれている。深度1.60mの腐植層から13,560 ±60y.B.P.の年代値が得られた。 深度2.29〜5.71m間には砂・シルトが見られ細礫が点在する。砂層部分は比較的淘汰が良く凝灰岩礫を含む。

 深度5.71〜8.01mには径80mmを超える円礫が優勢となる砂礫層が堆積している。この砂礫層のマトリックスは粗粒〜中粒砂で淘汰が良く葉理が発達することから、比較的流量の多い河川によって堆積したものと考えられる。この下位にはシルト・細砂優勢の堆積物が見られ、深度9.71〜9.94には腐植質シルトが見られる。

 No.2孔では深度0.16mまでが盛土・耕作土である。深度1.57mまではシルト優勢層で炭化物が点在する。深度1.57〜2.98m間は砂優勢層となっており、炭化物や凝灰岩礫が点在する。深度2.80mの炭化物から19,370±70y.B.P.の年代値が得られた。 深度2.98〜5.70間はシルト・細砂優勢層で凝灰岩礫が点在する。

 深度5.70〜9.17mの間は径80mm以上の円礫を多く含む砂礫層となっている。このうち深度7.20〜8.55m間は粗粒〜中粒砂が優勢で明瞭な葉理の発達が見られる。また、礫には角閃岩などの花崗岩類が含まれこの堆積物が広い範囲の流域をもつ河川によってもたらされたものと考えられる。この下位には礫混じりのシルト優勢層があり、深度9.90m付近には腐植質シルトが見られる。   

 No.3孔では深度0.13mまでが耕作土で、この下位1.96mまでにシルト・細粒砂優勢層が見られ細礫や木片が点在する。深度1.60mの炭化物混じりシルトから17,590±60y. B.P.の年代値が得られた。 深度1.96〜3.35mの間はシルトから下部の砂礫に変わるが、径5〜20mmの凝灰岩礫が含まれる。深度3.35〜6.08mの間はシルト優勢層となっており、部分的に腐植質シルト、砂礫層が挟まれる。

 深度6.08〜8.95m間は径100mmを超す亜角〜亜円礫を含む砂礫層で、マトリックスは粗粒〜中粒砂となっている。深度8.40m付近には花崗岩類の礫が含まれ、No.3孔同様広い流域をもった河川による堆積物であることが考えられる。これより下位にはシルト優勢層が見られ、腐植質シルト層が挟まれる。

 No.4孔では深度0.06もしくは0.14mまでが表土である。この下位深度2.33mまでは、シルト優勢層となっており炭化物や礫が点在する。また、腐植質シルトの薄層が数箇所挟まれている。深度2.20mの炭化物混じりシルトから19,030±70y.B.P.の年代値が得られた。

深度2.33〜4.07mまではシルト優勢層であり、下部は砂優勢である。全体に凝灰岩礫が多く含まれ、淘汰はあまり良くない。深度4.07〜6.29m間はシルト優勢層となっており一部に腐植質シルト層が見られる。

 深度6.29〜9.24間は径80mmを超える亜角〜亜円礫を含む砂礫層となっている。マトリックスは細〜粗粒砂である。下部の礫層中には花崗岩礫が含まれNo.2,3孔と同様な堆積条件が考えられる。この砂礫層の直下には腐植質シルト層とシルト優勢な砂礫層が見られる。

 No.5孔では0.32mまで耕作土が見られ、この下位深度2.41m付近まで炭化物を含むシルト・細砂の不規則な互層が堆積している。この下位2.41〜3.51mの間は比較的淘汰の良い細粒〜中粒砂層で径の大きい炭化物や木片が多量に含まれ、この炭化物(深度3.40 m)から18,230±130y.B.P.の年代が得られた。深度3.51〜4.59mの間は最大径40mmの凝灰岩礫を含む砂礫層となっている。深度4.59〜5.70mはシルト層、5.70〜6.20m間はシルト質砂礫および葉理の見られる砂礫層となっている。

 深度6.20m以下は最大径80mmを超える亜角〜亜円礫を含む砂礫層となっている。マトリックスは細粒〜粗粒砂で8.60m付近には花崗岩類の礫が認められる。深度8.44〜8.58mにはシルト層が挟まれるが、この孔では深度10.00mまで砂礫層が連続する。

2)考察

 各ボーリングでは深度5.70〜6.20m付近から礫径の大きな砂礫層が出現しこれより上位には木片を含むシルト層・砂層が堆積している。各ボーリング孔の堆積物は層相・分布深度がほぼ一致し、河川性の砂礫層が堆積した後、上位に比較的静穏な堆積条件でシルト ・砂層が堆積したとによって形成された一連の堆積物であると判断される。

 この細粒な堆積物から得られた年代値は深度によって幅があるものの最も新しい年代値13,560±60y.B.P.〜最も古い年代値19,370±70y.B.P.となっており、LU面の形成時期に対応するものと判断される。 

 ボーリング地点の最も離れたNo.1とNo.5では比高が約5mあるが、地層の連続および年代値からの対比はこの地形に沿った形となっている。このことからこの地域で見られるLU面の傾斜は、河川による砂礫層の堆積によってほぼ平坦であった地形が、堆積後の断層活動によって変形したものと考えられる。変位速度は、No.1とNo.5の高度差5m/地形の形成時期約15,000年から0.33m/1,000年となり、従来知られている桑折断層の平均変位量に比較するとやや小規模なものとなる。

図5−9にはコア観察から得られた地質断面図を示した。