4−2 活動間隔

福島盆地西縁断層帯のうち南部地域の活動間隔を検討するために最も重要となるのは、大笹生トレンチにおけるイベントの解析である。また、このトレンチで確認された断層面および断層崖の延長におけるピット調査によって複数回の断層活動が認識された。この複数回のイベントで限定される活動間隔は以下の検討による。

大笹生トレンチにおいて観察される地層のうち、Q層からM層までは明らかに水流の作用によって堆積した地層である。また、この上位のK層は不淘汰ながら断層(fa−fd)を横断しても層厚の変わらない砂礫層となっている。このことから、K層堆積時までこの地点では平坦な地形面が断層を横断して連続していたことになる。

この上位のJ層では、約9,000年〜7,000年前の年代値が得られている。また、I層では約3,500年前以降の年代値が得られている。J層は転石と考えられる礫も多く含んでいるが、腐植質の土壌が優勢な地層であり厚さの変化が少ない。

さらに、I層の下位の細粒砂層から、約4,900年前の年代値が得られた。この年代値を優先的に信頼するならば、I層の基底はfa−fb断層間で明らかに斜面を形成しており、断層間の地層に大きな変形がないことから、この斜面はI層堆積時にはすでに形成されていたと考えるべきであり、J層の堆積物も一部は斜面が存在することによって堆積した可能性も考えられる。

これらのことから、大笹生トレンチ地点の狭い範囲の地形発達を検討すると、K層堆積時には平坦であった地形が、J層の堆積終了時点、少なくともI層堆積時には斜面(段差・高度差)がすでに形成されていたことを示すものである。ここで、トレンチ東面に見られる部分に斜面が形成される条件として、1)侵食による下盤側の基準面低下 2)断層による上盤の上昇が考えられるが、K層が下盤側にも上盤と同じ層厚で分布することから1)の条件は考えられない。従って、この地点に斜面を形成する営力としては断層活動による上盤の上昇の可能性が最も高い。

これらの地層はI層の堆積時期が約4,900年前〜3,500年前とされることから、この地点の最終活動時期(約2,000−1,000年前)より以前に斜面が形成されていた可能性が高く、この斜面はK層堆積以降の断層活動によって形成されたものと考えられる。従って、このトレンチで観察されるK層の垂直変位量は少なくとも2回以上のイベントによって生じたと考えるべきであり、ボーリング調査によって明らかにされたL・M・N層で観察される垂直変位量4.5〜4.8mは少なくとも2回以上のイベントによって形成されたと考えることができる。

さらに、大笹生地区のトレンチにおける観察されたイベントの回数や単位変位量の検討を補足するために、このトレンチで確認された断層の延長上でピット調査を行った。このピット調査では、トレンチで観察された垂直変位量4.5〜4.8mが仮に2,000−1,000年前の断層活動ですべて形成されたものであるならば、「断層の延長上において2,000年前以前に形成された地形には5m程度の崖が連続していなければならない。しかも、この最終活動時期が比較的新しいことから、大規模な人工改変がなければこの崖が保存されいるはずであり、これが見られない地形面が存在し、地形面の形成時期が2,000年前より古い場合には断層活動による1回の垂直変位量は5mよりも小さく、この地形面の示す変位量が最終活動1回の変位量とでき、特定される年代によってトレンチで確認されたイベントの時期を限定でき得る。」との仮定を検討した。 

この結果断、層崖延長上には低位段丘U面(約15,000年前に段丘化),低位段丘V面(9,090±50y.B.P.頃にまでに段丘化),沖積段丘T面(8,250±110y.B.P.〜5,980±60y.B.P.の間に段丘化)が分布しこれらの高度差は、それぞれ低位段丘U面で約10m以上、低位段丘V面で高度差5〜6m,沖積段丘T面で2〜3mとなっており、少なくとも沖積段丘T面とした平坦面には有意な累積変位はなく、これより上位の段丘面もしくは古い地層には累積変位がある(図4−2−1)。 

このことは、低位段丘U面はトレンチで確認された累積変位および活動回数より多いイベントを経験していることを示し、低位段丘Vはトレンチ調査で確認されたイベント全てを経験している可能性が高い。また、沖積段丘T面は最終活動のみによって変位を受けていると考えられる。従って、最終活動時期が2,060±70y.B.P.−950±50y.B.P.の間であれば、それに先行するイベントは9,090±50y.B.P.−8,250±110y.B.P.の間に起った可能性が高い。最終活動の1回前のイベントが台山断層A,Bガ同時に活動したとするならばこのイベントは9,090±50y.B.P.〜8,330±60y.B.P.に起ったとすることができる。

この場合の活動間隔は最も短い場合6,270年、最も長い場合は8,140年間となる。

福島盆地西縁断層帯北部では、単一のトレンチ調査から活動間隔を特定するには至らなかったが、図4−1−2に示すように複数の地点で最終活動時期に関する資料を得た。藤田東断層で行われたトレンチ調査では、最終活動時期が1,800年前以前であることが明らかとなったが、断層に切られる最も新しい地層が充分に限定されていない。

万正寺地区で行われたピット調査、ボーリング調査では最終活動時期が7,000年前以降であることは明らかである。この場合単位変位量との関係から7,000年前以降の活動が複数回(2回?)の可能性が考えられ最終活動は約3,200年前以降に起った可能性がある。

森山地区では平成8年度実施のトレンチ調査で得られた1回の断層活動による変位量と断層を横断する段丘面および同一の地層の高度差から約9,500年前以降2ないし3回の断層活動があったことが推定される。

以上から、福島盆地西縁断層帯の活動間隔について整理すると以下のことが明らかとなった。

1)大笹生におけるトレンチ調査およびピット調査の結果から台山断層の活動間隔は最も短い場合6,270年、最も長い場合は8,140年間とされる。

2)断層北部では、睦合地区・万正寺地区・森山地区の調査結果から、少なくとも1,800以上の間隔を持ち、最も長い場合でも7,000年よりも短い。

3)森山地区のピット調査およびボーリング調査から求められた低位段丘面の変位量とトレンチAによって明らかにされた単位変位量から推定される約9,500前以降の断層活動は2ないし3回であり、断層活動が2回の場合活動間隔は最大で7,700年、3回の場合最大で3,850年の活動間隔が考えられる。