(1)トレンチ調査のまとめ

大笹生トレンチで確認された断層面のうち、Fa断層はJ層およびこれより下位の地層を切りI3,2層を変形し不明瞭ながら切っている可能性高いが、I1層にはこの断層の延長は見られずG層は切られていない。Fb断層の末端はJ層を切ってG層に直接覆われる。ここでG層に覆われるH層は断層面との直接の関係は明らかではないが、断層に接近する部分にも、下位のJ層やL層に見られる変形は見られないため、H層は断層によって切られる地層ではないと判断した。

以上のことから、この断層の活動時期はI2層の堆積(2,060±50y.B.P.)以降,H層堆積時(950±50y.B.P.)以前もしくはI1層堆積時(奈良・平安期の土器片を含む)以前であり、これがこのトレンチで確認される最も新しい断層活動=最終活動(イベントT)であると判断した。

最終活動以前のイベントについては、トレンチ内で確認される断層による変位量はJ層以下すべての地層で4.5m程度となっているために、地層対比と断層による変位の関係からは充分な根拠が得られなかった。しかし、東側法面で観察されるK層,J層およびI層の層相、堆積状況から以下のことが検討された。

@K層は不淘汰な堆積物ではあるが、円礫主体の砂礫層であり、地層の層厚が断層を横断して変化がないことから、この地層の堆積時には断層を横断して平坦な地形が形成されていたことが推定される。

AJ層は下部で約9,000年前、上部で約7,000年前の堆積時期を示すが水流の影響を受けないで堆積し得る腐植層となっており、地層中に転石と考えられる円礫を点在させることから一部は斜面に形成された過去の表層腐植土である可能性がある。

BI2層およびI3層は、下位の地層とは異なりすでに形成された斜面に堆積したものである。また、堆積物の基底は不整合でありこの地層が堆積する以前にすでにこの地点に斜面が形成されていたことを示している。

CK層堆積時には平坦であった地点においてI3層堆積時には斜面が形成されるためには周辺地域の基準面が低下することによる侵食や、断層北側の隆起による斜面形成が考えられるが、この地点ではK層以下に侵食が及んだ痕跡は見られず、斜面を形成する要因として断層活動による北側の隆起が考えらる。

Dここで、北側が断層活動によって隆起した時期はK層堆積以降でI層堆積以前とすることができる。このトレンチで確認された断層の最終活動がI2層堆積以降、H層堆積以前であるとすれば、トレンチで観察される地層の変位量約4.5mは少なくとも2回以上の断層活動によって形成されたものであり、最終活動の1回前の断層活動(イベントU)は、K層堆積後I3層堆積以前におこった可能性が高い。

EイベントUの活動時期を特定する資料としては、I2,3層から得られた年代値の最も古いもの(3,510±80y.B.P.もしくはJb層?の4,950±150y.B.P.)より以前であり、地形の水平を支持するK層の直上を覆うJ層の年代(9,090±70y.B.P.)の間に起ったとすることができる。