(1)地層記載

トレンチ内で観察される地層を上位からA層〜Q層に区分した。地層の区分は層相の変化や削り込み、あるいは明瞭な不整合関係を基準とし、地層内の層相変化が認められる場合には複数に細分した。以下に各地層の層相を示した。

A層:主にトレンチの南側に分布する水田耕作土である。

B層:斜面部分では腐植質土壌や崖錐となっている。人工的な石積みや礫混じり土砂もB層として区分した。

C層:全体に黒色を呈し、褐色のローム質土塊が介在する。上部は細礫混じり黒褐色土となっており(C1層)、下部の腐植混じり黒褐色土(C2層)に区分される。C1層の腐植土からは3,540±60y.B.P.の年代が得られ、C2層の腐植土から2,970±60y.B.P.と 2,555±65y.B.P.の年代値が得られた。

D層:砂礫混じりの黒色土でトレンチの東側法面上段のみに観察された。上位のB,C層あるいは下位のE,G,I層とは明らかに不連続となり斜面に堆積した形状となってい る。

E層:細礫混じり腐植層で「奈良・平安期」の土器片を介在する。トレンチ東側法面上段にのみ確認され、斜面に堆積したものと考えられる。この地層中の木片から2,830±50y .B.P.の年代値が得られた。

F層:上部は褐色砂層、下部は腐植質粘土層となっている。トレンチ東側法面上段にのみ確認され、葉理の発達が見られることから水流の影響を受けた堆積物であるものと考えられる。この地層の腐植土からは2,980±40y.B.P.の年代値が得られた。

G層:安山岩の円礫を伴う腐植層、安山岩円礫は斜面上方の中位段丘堆積物などから供給された可能性が考えられる。トレンチ東側法面上段にのみ確認される。この地層の腐植土から2,120±70y.B.P.の年代値が得られた。

H層:腐植混じり褐色砂礫層、礫は細〜大礫となるが砂の淘汰は比較的良く不明瞭ながら葉理の発達も認められる。トレンチ東側法面上段にのみ確認されるがC〜G層とは異なり水流の影響を受けた堆積物の可能性が考えられる。この地層に含まれる細粒の木片から950±50y.B.P(AMS)の年代値が得られている。

I層:全体に黒褐色を呈し、一部にレンズ状の礫混じり黒色腐植土層を挟む。上部のI1層は「奈良・平安期」の土器片を含む。中部のI2層は細礫混じり腐植層で「縄文期」の土器片を含んでいる。下部のI3層は腐植土となっている。トレンチ東側法面上段のみに確認され地層上面、下面とも斜面を構成する。このうちI2層では2,060±50y.B.P 3,510±80y.B.P.の年代値が得られ、I3層からは3,450±70y.B.P.の年代値が得られた。

J層:全体に黒色を呈する円礫(礫径1〜10cm)混じりの腐植土層となっている(Ja層)。部分的に砂質の黒褐色土の部分がありJb層として区分した。東側、北側、西側 法面上段に確認された。J層からは、計10個の年代測定を行ったが。、地層層序に対して異常を示す3試料を除くと約7,000年前〜約9,500年前の年代値が得られた。このうち、地層下部では9,090±70y.B.P.〜9,510±240y.B.P.の間に年代値が集中する。これに対 して、地層上部では6,960±105y.B.P.〜8,650±70y.B.P.の年代値を示し、やや幅を持っている。Jb層では4,910±150y.B.P.の年代値が得られたが、この年代値を優先的に信頼するならばJb層の一部はI層の下部に相当する可能性も考えられる。

K層:礫径5〜30cmの円礫層を主体とする砂礫層。安山岩礫が優勢であり基質は褐色のシルトである。東側、北側、西側法面上段で確認される。不淘汰な堆積物であるが層厚は約1m前後であり層厚の変化はほとんどないことから、水流の影響を受けた堆積物であると判断される。

L層:黒色から暗褐色の腐植質層。下位層から漸移する可能性も考えられるが、明瞭な腐植層であるため区分した。腐植の程度は上部ほど強く下部はシルト質腐植層となっている。東側、北側、西側法面に層厚20〜50cmで連続する。上位のK層との間にはわずかに削り込みが認められる。この地層の年代として11,340±400y.B.P.〜13,120±250y.B. P.の年代値が得られた。

M層:灰青色〜灰褐色を呈する円礫〜亜角礫(礫径1〜5cm)混じりのシルト〜砂質シルト層を主体とし、レンズ状に粗粒砂〜礫層を伴う。上部より含礫砂質シルト(M1層)、礫混じりシルト層(M2層)、含礫砂質シルト層(M3層)に区分した。M1〜M3層はお互いに指交関係にあり、層厚・層相は側方に変化するが、M層全体としての層厚はほとんど変化がなく2.5〜3.0m程度となっている。東側および西側法面下段と北側法面に確認される。

N層:径1〜10cmの亜角礫を主体とする砂礫層でレンズ状にシルト層・砂層を挟み、側方ではシルト層に移化する部分も見られる。砂礫層には流紋岩の亜角礫が含まれ、部分的にM層と指交関係を示す。

O層:暗灰色を呈する木片を含む腐植土〜腐植混じりシルト層である。下段法面に連続良く確認され、分布高度・層厚にほとんど変化がない。この地層からは、14,220±90y.B. P.,14,340±70y.B.P.の年代値が得られた。

P層:青灰色を呈するシルト層で細粒の連続の良い薄砂層を挟む。下段法面に連続し地層上面に高度差はほとんどないが基底は下位の地層のもつ凹凸を埋めるように堆積している。

Q層:褐色を呈する砂礫層、礫径3〜30cmの安山岩円礫が優勢で部分的に基質のシルトが優勢な部分も見られ、トレンチ法面の下盤に連続する礫径・基質・層厚などの層相から扇状地あるいは段丘礫層であり、比較的流量の大きな河川によって堆積したものと判断される。

図3−2−3には大笹生トレンチで観察された地層の層序を示し、付図および図3−2−4図3−2−5図3−2−6にトレンチ法面のスケッチおよび解釈図を示した。