(8)筑紫野市塔原−筑紫野市三本松付近〔文献Eの武蔵断層の南部〕

低位段丘面を変位させている低断層崖らしきリニアメント(比高1m以下〜3m)が、比較的連続して認められる。この地域では、文献Cの断層位置は文献Bの位置よりも低地側(北東側)にずれている。今回認定したリニアメントは、文献Cの方に近い。この区間の中の筑紫野市上古賀地区でボーリング調査、電気探査(比抵抗映像法)、浅層反射法探査を実施した。ボーリングではリニアメントを挟んでの地層のずれは明瞭には確認できなかったが、物理探査では比抵抗の変化や反射面の乱れが見られており、変位の大きくない断層が存在している可能性は残されている。

上記のように、今回の調査によって新たにいくつかの地点で断層の位置が特定できた。このうち、福岡市北・中部については、地下地質のデータが中心であり、想定された位置は文献Gとほぼ同じである。福岡市南部以南についても今回確認された断層位置は、地形解析に基づく既往文献の断層位置に近い位置ではあるが、井尻付近では、地形上のリニアメントのやや西方に位置している。また、大佐野地区のトレンチで確認された断層は、文献Eでは、北方から連続している断層(「春日断層」)とは別に、東側に認定されている水城跡を通る「大利断層」の続きとされているが、リニアメントの連続性から見て、北方の春日断層の延長と見てもよいと思われる。

既往文献で警固断層系の南端についてみると、断層の南端が示されているのは、文献B、C、Eであり、いずれにおいても筑紫野市武蔵付近を南端としている。今回の調査でも、この付近までは地形的なリニアメントが認められたが、筑紫野市むさしが丘より南東側は、明瞭な断層変位地形は認定できなかった。また、活断層基礎調査の一環として実施された、博多湾における音波探査では、警固断層系の北西延長付近の海底下には、完新世の堆積物(特にK−Ah火山灰)を変位させている断層は見出されなかった。よって、音波探査で確認できる調査精度内という条件付きではあるが、本断層系は、福岡市北西の海域には延びていないと判断される(第Y編A参照)。

以上の結果より、警固断層系は、福岡市域北部から筑紫野市武蔵付近まで長さ約18.5qの断層系と見ることができる。このうち太宰府市青葉台付近から同市大佐野にかけての地域には複数のリニアメントが平行しており、また、那珂川沿いの低地部や、太宰府市から筑紫野市にかけての地域では、断層の連続性が必ずしも明確ではない。このように警固断層系は、複数の断層からなる可能性があるが、今回の調査では活動度、活動履歴等についてセグメント区分に用いることのできる情報は得られなかった。以下の議論では一応この総延長を1つのセグメントとして扱う。なお、文献B、Cでは、一部地域で警固断層の確実度がUないしVと評価されているが、今回、大佐野地区のトレンチで断層の存在が明確になったことから、確実度の評価もTにあげてよいと考える。