(1)調査結果

1 地 形 調 査

図4−4−3−2に地形区分図を示す。本地区は現在では人工改変が著しいが、昭和20年代撮影の航空写真では、ほぼ低平地の所々に微高地(比高2m以下?)が見られる。当地区付近では、阿蘇−4火砕流堆積物が分布していることが文献@、D等に示されており、後述するように、今回のボーリング調査によっても分布が確認された。このことからみて、上記の微高地はこの堆積物の堆積面と考えられる。

また、この微高地の周辺の低平地表層には、今回のボーリング調査によると、阿蘇−4火砕流堆積物を覆う新しい堆積物が分布しており、文献@の中のボーリング資料からも同様の地質分布が読み取れる。

この低平地が北方の那珂川沿いから福岡市中心部まで広く延びていることや、地質状況から見て、この平地は沖積面相当と判断してよいと思われる。

しかしながら、面を構成する堆積物の年代については情報が得られておらず、面の形成時代は明確ではない。断層変位地形らしきものとしては、昭和20年代の航空写真で県道31号線の西側に道路とほぼ平行して、北北西−南南東方向の直線的な崖が見られる。崖の比高は、1m以下(?)である。文献@のボーリング資料によっても、この崖の東と西で基盤岩の条減免標高が大きく異なっていることが示されており、また、現在の河川の流下方向(南西→北東方向)とも斜交していることから、当初はこの崖を低断層崖と認定し、崖を挟んでボーリングによる地質確認を行った。

2 浅層反射法弾性波探査(S波)結果

浅層反射法弾性波探査(S波)は、春日市にあるディスカウントストアーオサダの駐車場を、ほぼ東西に横断する測線を設けて実施した。

解析結果の時間断面図を図4−4−3−3に、深度断面図を図4−4−3−4に示す。時間断面図では、時間100〜130m/s、200〜250m/sの2つの連続した明瞭な反射面が抽出された。前者は距離35〜65m間、後者は30m付近、90m付近で不明瞭となり、途切れる。両方の反射面が不明瞭になる距離30〜65m付近は、前述した地形的リニアメント位置を含んでおり、当初はこの結果をもとに、この付近に断層が通る可能性があると判断してボーリング配置を決定した。

しかしながら、実際のボーリング結果をもとに反射面の地質解釈を行ってみると、時間断面の100〜130m/sの反射(深度断面図で標高4〜7m付近)か、阿蘇−4火砕流堆積物の下面、200〜220m/sの反射(深度断面図で標高7〜10m付近)が須崎層と仲原礫層の境界※に対比され、両反射面共に多少の凹凸がみられるものの、大きな段差は見られない。

3 ボーリング調査

ボーリング位置は、上記の低崖を挟んで東西方向に配置した。

まず、bP、2孔を掘進したが、基盤岩上限、阿蘇−4火砕流堆積物下面に不陸が認められなかったため、さらに西側にbS孔を追加した。また、bQ孔で阿蘇−4火砕流堆積物のくさび状の落ち込みが見られたため、この分布・成因を確認するため、bP、2孔の間にbR孔を掘進した。ボーリング調査結果は柱状図及びコア写真として巻末資料に収めた。この結果をもとに作成した調査地付近の地質断面図を図4−4−3−5に示す。

・地 質 構 成

本地域の地質構成を表4−4−3−1に示す。

今回のボーリング調査では、基盤岩(花崗岩類)上に下山(1989)の仲原礫層と須崎層、さらにその上位に阿蘇−4火砕流堆積物、沖積低地構成層(住吉層?)の各層が確認された。堆積層中最下位の仲原礫層は、強風化(くさり)礫を含む礫層である。礫種は花崗岩及び変成岩礫で、特に最下部は緑灰色の強風化した変成岩礫が多い。

須崎層は、礫混り粘土〜砂礫及び半固結した青灰色粘土よりなる。礫種は主として花崗岩、脈石英である。須崎層は、阿蘇−4火砕流堆積物に覆われており、主部の形成時期は、最終間氷期(およそ13万年前)及びその前後と考えられている(下山、1989)。阿蘇−4火砕流堆積物は、輝石角閃石デイサイト質の軽石質火山灰からなる。径0.5〜1pの軽石を含み、鏡下では角閃石の自形結晶とバブルウォール型の火山ガラスが確認される。ボーリングコアでは、新鮮部は暗灰色を呈し、風化部は乳白色を呈し、粘土化している。沖積低地構成層は、礫混りシルト〜シルトからなり、全体に淘汰が悪い。

図4−4−3−2の地質断面図では、阿蘇−4火砕流堆積物の上位の人工埋積土除く、全ての堆積物を沖積低地構成層の堆積物としている。しかしながら、阿蘇−4火砕流堆積物直上に見られる軽石混りの細粒砂層は、阿蘇−4火砕流直後の2次堆積層の可能性もある。したがって、阿蘇−4火砕流堆積物直上の地層は、新期段丘構成層(大坪砂礫層)である可能性も否定できない。

・地 質 構 造

基盤の上面は、調査地全域で標高−22.4〜−23.2mと殆ど水平である。また、阿蘇−4火砕流堆積物の下限標高も6.1〜6.5mでほぼ水平に近い。この結果は、前述の浅層反射法探査結果とも整合しており、当初低断層崖とみなしたリニアメント位置付近には、第四系を数10p以上変化させている断層は存在しないと判断される。

なお、bQ孔の深度14.3m付近の砂礫層(須崎層)中に阿蘇−4火砕流堆積物を挟み込み(幅10p弱、傾斜80゜)が認められる。また、この挟み込みを深度方向に延長したbS孔の深度37.7m付近にも、周辺の礫層と異なる葉理(?)の発達した細粒砂の挟みが見られる。これらが同じ機構で形成された直後の証拠はないが、層状の類似性からみて、これらが横ずれ変位の卓越した断層運動に伴って挟み込まれたと見ることもできなくはない。ただし、境界にセン断変形を受けた明瞭な証拠がないことから見ると、阿蘇−4火砕流の流下時に何らかの原因で地盤に生じた割れ目を、この火砕流堆積物が充填したと考える方が妥当かもしれない可能性が高いと思われる(写真4−4−3−1写真4−4−3−2参照)。