(5)トレンチ調査結果

トレンチ掘削は、低位扇状地面上の断層崖と見られる低崖を横断して、図3−4−1に示したA、B2地点で試みた。このうち東側のB地点についてはGL.−2m付近まで人為的に改変された可能性のある土層が出現し、断層が確認できなかったため、本格的な掘削はとりやめた。一方、西側のA地点では中期(?)扇状地堆積物と見られる地層(第6層:礫混り粘土層)を変位させた断層が確認された。

トレンチ調査結果はスケッチ図として付図1及び図3−4−1−10、図3−4−1−11に示した。また、壁面の写真を写真3−4−1−2写真3−4−1−3写真3−4−1−4写真3−4−1−5に示した。

・地 質 分 布

トレンチの主な地質構成は表3−4−1−1に示したとおりであるが、E−18〜19W−18〜19間にトレンチ内のほかの地層とは区別できる角礫層が出現した。これは性状からみて過去の山麓斜面上に形成された崖錐性の堆積物と推定される。

厚さは1〜1.2mである。断層は、この堆積物の平地側を境している。また、この層の平地側の6層と接する部分は、粘性土質の基質中に礫を含有しており、かつ側方の6層に向かって礫含有率が少なくなる変化を示している。断層運動に伴って形成された“混在部”と判断した。

この他の各地層の分布は次の通りである。

基 盤:片理の発達した黒色片岩で、E−19、W−19付近より山側に分布している。平地側では、6層以深の堆積層の下位に分布していると推定される。

6 層:上面は山側から平地に向かって10°前後で傾斜している。西側壁面の平地側では水平に近くなる。また、平地側では下部が砂質かつ礫を多量に含むようになり(6B層)、粘性土質の上部(6A層)と区分できる。トレンチ内の層厚は最大1.3m(下限未確認)である。

5 層:上面は山地側から平地に向かって10°前後で傾斜している。全体に礫質であるが、砂の薄層をしばしば挟む。層厚は0.3〜1.2mである。

4 層:5層、6層と同様の構造を示す。東側壁面では層厚0.2m以下でとびとびに分布しているが、西側壁面では0.2〜0.3mとほぼ一定の層厚で山側からW−4〜W−5間まで分布し、W−4〜W−5間の“すべり面”(後述)で下方に0.6m程度変位して平地側にレンズ状に出現する。

3 層:西側壁面では、4層と同様にほぼ一定の層厚(0.3〜0.5m)で、山側からW−4〜W−5間まで分布し、“すべり面”で下方に約0.7m変位して平地側に分布する。東側壁面ではこの下方に変位した平地側にのみみられ、山側では上位層によって削られている。

2 層:西側壁面でみると、下部の腐植質部(2B層)は、“すべり面”を挟んで西側に分布しているが、上部の礫質部(2A層)は平地側にのみ分布している。両層は一部指交関係にある。東側壁面でも同様の分布が見られるが、“すべり面”付近では、上位の1層との層序関係が逆接しているようにみえる部分もある(後述)。

1 層:東側壁面では、下位層を覆ってほぼ全面に分布しており、平地側では下位層を削り込んでいる。西側壁面の大部分では盛土に削られて分布せず、W−7〜W−3間にのみ見られる。

0 層:E−3及びW−7より平地側にのみ分布している。土器等の考古遺物を含む。

盛土及び人為的攪乱層:東側ではE−7付近から山側にE−24まで、西側ではW−1からW−20付近までの表層に分布する。考古遺物を含んでいる。

新期崖錐堆積物:W−20、E−20付近から山側に分布する。盛土を覆っており、かなり新しい斜面上の堆積物と思われる。

・地 質 構 造

E−18及びW−18付近に、山側の基盤岩及び古期崖錐堆積物と平地側の6層上の地層を境している断層が見られる。走向はほぼ東西で50°ないし80°北側へ傾斜している。

前述したようにこの断層は、古期崖錐堆積物と6層が混在した部分(厚さ0.2〜0.4m)を断層の平地側に伴っている。地質の分布状況から見て北側(平地側)に落ちた正断層と判断され、少なくとも4層より古い地層が、山地側から平地側に向かって10゜前後で傾斜しているのは、この断層の活動によるものと考えられる。断層直上は、12世紀の土器片を含む地層(シルト質砂礫層)に覆われており、この層を切断してないことから、最新活動時期は約800年BP以前と判断される。

この他にも断層より山側の基盤岩の片理面の傾斜はE−21〜E−25、W−21〜W−25付近では水平ないし30゜以下であるが、断層に近づくにつれて高角になる傾向があり、基盤岩中にもE−19のやや山側とW−20のやや山側を結んで断層(82W60N)が見られる。なお、トレンチ内のデータだけでは断層の変位量は確認できない。

また、西側壁面のW−5〜W−4間に見られる傾斜40゜〜50゜の正断層状の境界を挟んで山側の地層が平地側で下方へ0.6〜0.7m程度変位している。しかしながら、この境界はW−4付近から平地側では不連続が不明瞭になる。東側壁面では、E−3付近からE−8付近まで平地側へ15゜程度傾斜している5層の上限面がこの境界にあたると判断され、E−7〜E−8間では1層の一部がこの境界に沿って2層の下に潜り込んでいる。さらに山側ではこの面の不連続は傾斜10゜以下となり、5層ないし4層上限の堆積面に集斂していく。

以上のような性状から見ると、この境界は構造性の断層ではなく平地側へ向かう局所的な地すべりの“すべり面”と考えるのが妥当と思われる。