(1)表層音波探査記録の解析

表層音波探査記録は、アナログ記録断面図として表現され海底地質断面図のように見えるが、その内容は音源から最短距離に分布する地層の音響的な差異を反映したもので、地質層序区分などに必ずしも一致するとは限らない。

記録断面図に表現されている濃淡模様(パターン)は、音響インピーダンスの違いによって描かれる音響的反射面のほかに、音波の性質上避けられない妨害波を含んでいる。妨害波は多重反射、散乱波、回折波などである。従って、記録断面図の解析は、音波の物理的な性質、地質的な意味を理解しつつ、記録断面図から真の地質情報のみを選び出して行う。

解析で考慮するパターンの相違、妨害波、記録断面図の性状および断層の判定は、次に述べるとおりである。

(a)パターンの相違

パターンの相違は地層の硬さ、密度、間隙率などの物理的性質によるもので、パターンの明瞭度は音響インピーダンスの差に基づくものである。すなわち、砂岩・泥岩互層の層理面および火成岩のような硬い岩盤の表面は明瞭に記録され、互層の境界面は平行線のパターンとなる。

(b)妨害波

妨害波は多重反射波、散乱波、回折波などに区別される。

多重反射波は音波が海底面、地層境界面などで2回以上反射して受波されたもので、1次反射面深度の整数倍の位置に、1次反射と同様に記録される。従って、水深が浅いほど多重反射面は海底下浅所に強く現われ、そこに現われるはずの真の情報を読み取り難くする。

散乱波は、地層中の礫、貝殻、ガス気泡などが散乱源となり、反射された音波が四方に広がって発生する。従って、記録断面図が黒っぽくなり、散乱源から下位の情報が不明瞭になる。

回折波は、起伏の激しい海底面、地層境界面などの傾斜変換点で、音波があらゆる方向に反射されるため、記録断面上に傾斜変換点を頂点とした多数の双曲線として現われる。従って、これが強く出ると真の海底面、地層境界面が不明瞭になる。

(c)記録断面図の性状

記録断面図の横軸は調査船が航行した距離を示し、記録断面図上にほぼ等間隔で描かれている縦線およびその下の番号は、マルチチャンネル音波探査の40点ごとのショット位置およびショット番号を示す。

記録断面図の縦軸は音波が発振してから海底面、地層境界面などから反射して戻ってくるまでの往復時間を示す。従って、これを深度に換算するためには、各地層中の音波伝播速度が必要で、深度と音波伝播速度との関係式は次のとおりである。

深度(D)=(音波伝播速度×反射時間)×1/2

解析調査では地層中の音波伝播速度を水中と同じ1,500m/secと仮定した。従って、海底下浅部の第四系などはほとんど深度に誤差を生じない。しかし、深部になるほど古い時代の硬い地層となり音波伝播速度が2,000〜5,000m/secになると考えられ、その深度および傾斜がそれぞれ増大するが、各層の分布、断層の位置などは変化しない。

(d)断層の判定

音波探査記録断面により断層を記載している文献は多いが、断層を検出する方法および認定基準について系統的に述べている文献は極めて少なく、米倉(1979)25)、緒方他(1981)13)、活断層研究会編(1991)9)、酒井他(1990)14)等にやや系統的に示されている。しかし、断層の認定は、音波探査記録断面図のパターンだけでは困難で、探査手法、地質構造の特徴、岩相の側方変化、急傾斜層の性状などを考慮して行われる。

解析では、主として上記の文献を参考にして断層の判定を行った。それぞれの文献に示されている断層判定基準の概要は、次に述べるとおりである。

(イ)緒方他(1981)による断層判定基準の概要

断層判定基準は種々の音源による音波探査記録断面図の内、スパーカー音波探査記録について述べている。その概要を図2−3−2−1に示す。

(ロ)活断層研究会(1991)による断層判定基準の概要

活断層研究会が主として解析に使用した音波探査記録は、20万分の1程度の地質構造を解明する目的で実施された海上保安庁水路部のシングルチャンネル・エアガン音波探査記録で、5万分の1程度の地質構造の解明には精度がやや劣ってる。米倉(1979)は、これとほぼ同様の基準を示している。

断層の判定は、個々の記録パターンよりも地形に重点をおいた巨視的な地質構造解析により行っており、海底の活断層を海底地形の崖高200m以上と以下に分類している。その概要は図2−3−2−2および以下のとおりである。

音波探査記録を判読して海底活断層を検出する方法や認定基準についてはあまり報告がない(中条、1982)。この研究では、音波探査記録の判読と海底地形により、次のような場合を海底の活断層であると認定した(米倉,1979;Yonekura,1983)。この認定基準は旧版時の認定基準とほとんど異ならない。

(1)ほぼ平坦な海底地形と海底面を作る堆積層が明らかに切断されて、くいちがいが認められる場合。

(2)海底が傾動地塊や地溝の地形を示し、相互に対応する堆積層が地形境界や急崖を境にして不連続で、急斜面に堆積層が接している場合。このような地形・地質は、断層によるブロック運動を示すと解釈し、それらの急崖とそれに接している堆積層の境界を断層面と判断した。

(3)堆積層が地形に平行している陸棚斜面に、海側の深海平坦面を作る堆積層が接しており、その堆積層の下部ほど陸棚斜面の方へ傾斜している場合に、旧版では斜面とそれに接している堆積層の境界に断層を推定した。しかし、断層というより非対称(陸側が急)な一種の向斜構造と考えた方がよいことが明らかな場合(室戸舟状海盆の内縁など)には、本書ではそれらの断層を削除した。

(4)陸棚斜面の上部では、堆積層を示す反射面が斜面と平行していて撓曲構造を示すが、斜面下部では、より急傾斜となり反射面が急斜面と明らかに交わり切断されていて、撓曲から断層に移りかわっている場合。さらに一般的には、堆積層が斜面に切られた形で露出しており、かつ斜面が浸食によってできたのではない場合。海底谷の側壁斜面は、浸食によるのか断層変位によるのか判断しがたい場合が多いが、V字形の谷形を示し、斜面の最大傾斜に沿って谷が発達している場合や屈曲の激しい谷は浸食によるものと判断した。

(5)音響基盤が高まりや凹地をなし、その上位の堆積層が背斜・向斜構造を示し、高まりから凹地に移る部分(背斜・向斜の翼の部分)で地形の傾斜が大きくなり、堆積層も不連続になっている場合。

(6)下部大陸斜面の起伏の大きい斜面では、堆積層は断片的にしか分布せず、音響的不透明層からなることが多く、音波探査記録から断層を示す直接的証拠を読みとりにくい。このような場所でも、急斜面、階段状のベンチ地形、幅がせまく細長い凹地や高まり、急斜面下での堆積層との接し方(とくにその堆積層が急斜面のふもとで変形を受けている場合)などから、地形的に断層を推定できる場合がある。

音波探査記録上で活断層を認定するに際しては、堆積層の層理面が斜面に著しい角度で斜交し、ぶつかるような状態で接している場合、斜面と堆積層の境界に断層があって、両者が切断されているか、新期の堆積物が既存の斜面を埋めて堆積しているだけなのか、その両者のちがいを判定することがむずかしい。今回の判読作業では、接している斜面の近くで堆積層が変形している場合、堆積層の層理が水平でなく斜面側へ傾斜している場合、とくに堆積層の下部ほど傾きが大きくなる場合などには、斜面と堆積層の境界に断層があると認定したことが多い。

上記文献のa)および(1)は明らかに断層と認定されるが、その他については音波探査記録の性状、地形、地質などを考慮して断層の判定をする。なお、文献断層の活動時期は、活断層研究会では第四紀に活動したとしているが、他の文献では特に限定されていないので、地質断面図または説明書により判断しなければならない。