(1)越前海岸の地形−空中写真判読−

(a)使用写真

国土地理院撮影の縮尺4万分の1赤外線写真と、同縮尺1万分の1のカラー写真を利用して地形判読を行った。

(b)判読内容

判読内容は、海性段丘面の面区分、山頂小平坦面、山腹小平坦面、地すべり地形、急崖、崩土および崖錐、ガリ、扇状地堆積物、風隙、河川の遷急点、リニアメントである。

(c)結果の表示

判読結果は、25,000分の1の地形図に図示した(付図3−1−1付図3−1−2付図3−1−3付図3−2−1付図3−2−2付図3−2−3)。

(d)判読結果

海成段丘面の判読結果を中心に述べる。

越前岬から大谷まで、海成段丘が断続的に分布する。それらは分布高度、面の保存状態などから大きく分けて3面に区分される。すなわち、高位段丘(H面)、海成の中位段丘群(M面)、低位段丘(L面)である。中位段丘群(M面)は分布高度、面の保存状態から3面に区分した。区分は山本他(1996)に準拠し、高位のものよりM1面、M2面、M3面とした。以下にそれぞれの特徴を述べる。

(イ)高位段丘

高位段丘(H面)は、干飯崎より北側で断続的に分布するが、以南では分布は断片的となる。一般的に段丘面はかなり傾斜している。しばしば崖錐、扇状地堆積物、地すべり堆積物等に覆われており、面の認定が困難となっている。また、斜面崩壊やガリなどの浸食作用を受けており、面の保存は悪い。下位の中位段丘群とは、一般に20m程度の高度差を持ち、その間の段丘崖は急な斜面からなることが多い。

(ロ)中位段丘群

中位段丘群の中でM2面の発達が最もよく、全地域にわたって分布が認められる。次いでM1面が北部を中心に広くみられる。M3面はやや北部よりに断片的に分布する。

1)中位段丘M1面

M1面は全般的に崖錐、扇状地堆積物、地すべり堆積物に覆われていることが多く、これらの堆積物により、段丘面の見かけの傾斜はM2面と比べて急である。例外的に、厨〜高佐間では面の発達、保存状態がよい。越前岬〜小樟(ココノギ)間では、小さな面に分かれてはいるが、全体として連続している。

2)中位段丘M2面

分布の広いM2面は、緩やかに海に向かって傾斜している。山地側は、崖錐、扇状地堆積物、地すべり堆積物に覆われており、不明瞭である。全体としては、海成面の形状がよく残っていることが多く、面上は比較的平坦である。浅い谷が面上を刻んでいることもある。大樟(オコノギ)〜厨(クリヤ)間では保存状態のよい面が発達している。梅浦〜大樟間でも小さな面に分かれているが、一つ一つの面の保存状態はよく、全体として連続性した面を形成している。厨以南でM2面が分布するのは、米ノ周辺と甲楽城付近のみである。両地点とも、小さな面に分かれている。

3)中位段丘M3面

M3面は、M2面に伴って分布することが多く、大樟〜道口間では、小さな面に分かれてはいるが、全体として連続性が見られる。玉川〜梅浦間では、M2面を欠くが、比較的よく連続するM1面の下位に断続的に分布している。

(ハ)中位段丘の高度分布

越前岬から河野間に分布する段丘面の標高を、横軸に越前岬からの距離をとってプロットしたものを図2−2−1−1に示す。

M1面、M2面、M3面ともに、似た分布傾向を示す。すなわち、越前岬周辺で分布高度が最も高く、越前岬から南東方向に10Km付近(茂原から白浜付近)間ではかなり急にその分布高度を減じ、10Km付近以南では分布高度は緩やかに下がっていく。

山本他(1996)では、M1面、M2面、M3面はそれぞれ南関東の下末吉面小原台面、三崎面に対比されている。M1面の形成期は12.4万年前の最終間氷期の高海面期(当時の古海面高度は+6m)、M2面の形成期は10万年前の高海面期(古海面高度は−9m±3m)、M3面の形成期は8.1万年前の高海面期(古海面高度は−19m±3m)である。

これらの値を用いて、越前岬と越前岬より9~10Km地点(茂原付近)、同19~20Km地点(甲楽城付近)での隆起速度を求めた(表2−2−1−1)。M1面、M2面、M3面ともに、越前岬付近での隆起速度が最も速い。また、どの地点で見ても、M1面よりM2面、M2面よりM3面の隆起速度が速いことがわかる。

(ニ)低位段丘(L面)

低位段丘(L面)は、現在の海岸線に沿って、幅狭く分布する離水面のことで、集落の大部分はこの面上にのっている。標高は、おおむね数mである。この面の分布、標高については、現地調査を行い、詳細な検討をした。その結果については、次章(2)で述べる。

(ホ)その他

その他、空中写真判読により、次のようなことが明らかになった。

1)梅浦以北の海岸地形の特徴

梅浦より北部では、下記のような点が特徴である。

1.水系の発達が細かく樹枝状である。

2.大規模な地すべり地形がみられる。

3.小さな地すべりやガリが発達する。

4.山地頂面、尾根頂面がほとんどみられない(やせ尾根)。

5.三角末端面が発達しない。

これらは、基盤の地質構造の違いを反映していると考えられる。

2)干飯崎以南の地形の特徴

1.大谷口の沢に至るまで、山頂部に風隙が並ぶ。

2.河川はリニアメントに沿って流れており、これらは構造谷と考えられる。

3)海岸でのリニアメント

リニアメントはみられるが、いずれも連続性はよくない。基盤の構造を反映しているものと思われる。