(2)陸域の断層

陸域に分布する甲楽城断層南端部および山中断層について文献調査、空中写真判読の後、詳細な地表地質踏査をおこなった。

また、柳ヶ瀬断層北部(栃ノ木峠以北)については、概略の文献調査、空中写真判読および予察的な踏査をおこなった。

(a) 甲楽城断層

越前町米ノ沖から河野村大谷沖にかけて沿岸部をとおる甲楽城断層は、その南東の大谷沢(大谷集落南の沢)の沢口付近から陸域をとおる断層となっている。

同地域の空中写真の判読から、北西−南東方向に伸びる大谷沢に沿う不明瞭なリニアメントが認められ、その長さは約1.5kmである。しかし北西の扇状地面上にはリニアメントは認められない。また南東の大谷沢頂部の尾根では鞍部や尾根のずれは見られない。

地表地質踏査の結果、甲楽城断層、山中断層周辺には広く美濃帯の中古生層およびそれを貫く第三紀の火成岩類が分布するが、両断層を挟んで、地質や地質構造に顕著な差異は認められなかった。

大谷沢の沢口付近には中古生層中に北西から北東走向の規模の小さな断層が認められた。このうち、北西走向を示す断層は、甲楽城断層に相当すると考えられるが、これを覆う扇状地堆積物には変位や変形は認められなかった。また、畑地等の人工改変もあるが、扇状地面上も変位地形は認められなった。この扇状地堆積物を覆う黒褐色土壌の最下部には約5万年前の大山火山起源のDKP火山灰および約2.4万年前の南九州姶良火山起源のAT火山灰が含まれており、これらの火山灰降下以降、この地点では甲楽城断層による変位はないと考えられる。一方、南東側の大谷沢上流部を横切る林道では、ほぼ堅岩が連続して露出しており、甲楽城断層はこの付近まで延びないといえる。

以上のように、大谷沢付近は甲楽城断層南東端の終息域となっており、沢口の扇状地以南においては、数万年前以降の活動はないと判断される。

(b) 山中断層

山中断層は谷の系統的な数100m規模の左ずれ屈曲と安山岩および閃緑斑岩中の幅30cmの断層破砕帯から推定されたものである。

同地域の空中写真の判読では、北西−南東方向の長さの短い直線谷からなるやや明瞭なリニアメントが判読される部分はあるが、その他の部分のリニアメントは不明瞭である。特に屈曲しているとされる谷に挟まれる尾根や斜面においてもリニアメントは認められない。

地表地質踏査の結果、記載されている断層露頭を確認した。その露頭では、断層面は湾曲し、露頭下部で断層面と破砕帯は不明瞭となることから、断層の規模は小さいと判断した。断層北西部では、中古生層や貫入岩類が大きな変位もなく連続している露頭が2箇所で、確認された。また、断層を挟んで地質や地質構造に顕著な差異は認められなかった。

以上のように、山中断層においては数100m規模の谷の屈曲を伴う大規模な活断層の存在を示唆する証拠はなく、活断層であることが疑わしい断層と判断される。

(c)柳ヶ瀬断層 

文献によれば、柳ヶ瀬断層は椿坂峠付近を境として北部地域と南部地域で活動性に差があるとされている(武藤他;1981)。南部地域では、同断層が完新世の扇状地堆積物を切っているとする報告があり(武藤他;1981)、また最新活動として西暦1325年(正中2年)の地震に対応する可能性もトレンチ調査から指摘されている(杉山;1993)。これに対し、北部地域で第四紀の地層を切っていると記述している文献はない。

空中写真の判読から、福井県側の栃ノ木峠から板取までの孫谷川上流の直線谷に沿って明瞭なリニアメントが認められる。板取以北では、リニアメントは長さも短く、不明瞭なものに変わる。

概査の結果、明瞭なリニアメント上の尾根で、第四紀の未固結の礫層と中古生層が断層で接している露頭を確認した。この露頭から板取まで柳ヶ瀬断層相当のリニアメントは、山腹の傾斜変換点や山地と谷低地との境界を通ると判断され、その位置は狭い範囲で特定できる。

以上のことから、リニアメント付近の第四紀層分布や断層露頭の確認を含む詳細な地表地質踏査および最新の活動を調べるトレンチ調査を実施することにより、同断層の活動性が把握できる見通しが得られた。