(1)地質構成

沖積層は,トレンチ全面に露出しており,高角度で南に傾斜する複数の断層によって,地層は南側が隆起するように変形している。トレンチに分布する地層は,F1断層又はF2断層によって,耕作土直下まで変位・変形を受けており,南北各地層の形成順序を把握することが困難な為,これらの断層を挟んで両側は異なった地層として区別した。ここでは,沖積層を北側に分布するT〜V層の3層と南側に分布するC〜F層の4層に区分して記載する。

本トレンチに露出する地層は,上位より順に以下の通りとなる。

1)耕作土・盛土層

@ A層(シルト層;耕作土)

A層は,灰黄褐色(10YR4/2)を呈し,非常に軟質である。本層は,径3cm程度の偏平礫〜亜角礫を若干混入する。通常,層厚は15〜30cm程度であるが,崖上(石積みの南側)では約40〜50cmとやや厚くなっている。

A B層(礫層;盛土)

B層は,W−3〜W−4.8のA層直下にレンズ状に分布し,層厚は最大40cm程度である。本層は,径3〜10cm(中礫〜大礫サイズ)の結晶片岩質(緑色・黒色)の亜角礫を主体とするが,中には25cm大を越える巨礫サイズも混入する。

また,本層中には,W(3.75/0.9)に水瓶片が含まれており,愛媛県教育委員会文化財保護課により江戸後期〜近世のものと鑑定された。

2)沖積層(断層北側のユニット)

@ T層(礫層)

T層は,灰黄褐色(10Y4/2)を呈した空隙が多いルーズな礫層から成る。本層は,北側で1.8m以上と厚いが,E−7,W−6.5付近では断層による変形を受け薄くなり,F1断層又はF2断層より南側では分布しない(低崖の北側のみ分布)。また,東側法面では南側に傾斜する断層運動の影響を受けて,緩い凸状の褶曲構造及び引きずり込み構造等の変形構造が認められる。

礫は,径20cm程度(大礫サイズ)及び径1〜3cm(中礫サイズ)の偏平礫を主体とし,礫種は結晶片岩礫(黒色・緑色ほぼ等分)である。基質は極粗粒砂〜粗粒砂を主体とし,細粒分は殆ど含まない。

また,F1断層付近の礫の面構造は,断層面に沿って南側傾斜を示している。

A U層(礫混じりシルト)

U層は,層厚40cm〜1m程度の明赤褐色(5YR5/6)を呈した礫混じりシルトからなる。

F1またはF2断層より北側にのみ分布する。東側法面での層厚は,20〜40cmの一様な厚さで分布するが,北端

ではやや厚くなり60cm以上となる。西側法面では東側法面に比べ概ね20〜30cmとやや薄くなる。シルトは少量の細粒砂を混入しており,やや粘性を示す。本層中には径10〜20cm(大礫サイズ)の結晶片岩(黒色,緑色)の偏平状礫〜亜円礫を混じえる。

本層もT層と同様な変形構造(凸状褶曲構造,引きずり込み構造)が見られ,特に東側法面には顕著な変形が現れている。

また,本層からは,E−7.9/2.5で,鬼界−アカホヤ(K−Ah)火山灰が検出された。

B V層(礫層)

V層は,層厚0.5m以上の,オリーブ黒色(5Y3/2)を呈した礫からなり,当トレンチでは最下部の地層である。本層は,径2cm〜4cm(中礫サイズ)及び径40cm(巨礫サイズ)の結晶片岩(黒色片岩主体で,緑色片岩・珪質片岩・超塩基質片岩を若干混じえる)の偏平礫〜亜角礫を主体とし,礫の淘汰は悪い。粒子間には空隙が多く,ルーズである。

また所々に中粒砂〜粗粒砂を混入する。

T〜V層は,層相から扇状地性堆積物と推定される。

3)沖積層(断層南側のユニット)

@ C層(砂質シルト層)

C層は,40cm〜70cmの層厚で灰黄褐色(10YR4/2)を呈した砂質シルトからなる。本層は,断層運動によって形成された浅い地溝(深さ60〜80cmの凹地)に堆積したもので,E−6〜E−9,W−5〜W−7.5(低崖の北側)にかけて分布する。

砂は,中粒砂〜細粒砂主体で,淘汰は比較的良い。また礫は径0.5cm〜1cm(中礫サイズ)の亜角礫又は偏平礫を若干混じえる。礫種は,結晶片岩質(黒色片岩・緑色片岩・珪質片岩)が殆どである。

本層から炭及び褐色シルトを採取し,E−7.45/2.0で1,840±50y.B.P(Beta137501),E−6.5/2.0で2,350±40(Beta137494),W−6.5/1.7で2,060±60(Bata137495),E−6.7/1.85で2,510±60(Beta137496),W−6.2/1.8で2,100±60(Beta137505)の14C年代値が得られた。

A D層(砂層)

D層は,オリーブ灰色(5Y4/1)を呈した淘汰の悪い粗粒砂〜細粒砂からなる。本層もC層と同じく断層運動によって形成された地溝に堆積したもので,E−7〜E−9,W−6〜W−7.8にかけて分布し,層厚は最大50cm程度である。特に,E−7.7〜E−9,W−7〜W−7.8間にはF1断層に沿って薄く(2cm〜数cm)分布しており,耕作土直下まで分布する。また,径5cm程度の亜円礫が極少量混入しており,それらの礫は砂でサポートされている。

C,D層は層相から,小さな河川による堆積物と推定される。

B E層(礫混り砂質シルト層)

E層は,にぶい黄褐色(10YR4/3)を呈した砂質シルト層からなる。本層は,北側をF1断層又はF2断層に限られ,E−1〜E−7,W−1〜6.5にかけて,概ね80〜180cmの厚さで分布する。断層付近では,引きずり込み構造が見られ,全体的に北側に緩く撓んでいる。 

シルトは,中粒砂〜細粒砂を均一に混入し,粘性は弱い。礫は,径0.5cm〜1cm(中礫サイズ)の結晶片岩を主体とした偏平礫を少量混入するが,希に径20cm程度(大礫サイズ)の亜角礫を含み,断層付近では直立したものも見られる。

本層から炭を採取し,2,170±80y.B.P(Beta137493)〜2,550±40y.B.P(Beta137497)の14C年代値が得られた。また,E−4.8/2.2で,鬼界−アカホヤ(K−Ah)火山灰が検出された。

本層は,層相から面白川の後背湿地堆積物と推定される。

C F層(礫層)

F層は,オリーブ灰(5Y3/2)〜明赤褐色(5YR5/6)を呈した礫層からなり,上部には礫混じりシルトが分布する。本層は北側をF2断層に限られ,E−1.2〜E−6,W−1〜W−6.2にかけて,概ね50cm〜100cm以上の厚さで分布する。特に,断層付近では引きずり込み構造が見られ,北側に緩く撓んでいる。

本層は,径2cm〜4cm(中礫サイズ)及び径20〜40cm(中〜巨礫サイズ)の結晶片岩(黒色片岩主体で,緑色片岩・珪質片岩・超塩基質片岩を若干混じえる)の偏平礫〜亜角礫を主体とし,礫の淘汰は悪い。また,所々に極粗粒砂〜粗粒砂を混入する。

本層は層相から,扇状地性堆積物と推定される。