(2)トレンチ調査結果

松山市高井東地点では,重信断層(川上断層西部)のリニアメント上を対象にトレンチ調査を実施した。当地点では,地表踏査の一貫として実施した試掘調査で断層の存在が確認されている。トレンチ調査の結果,北へ傾斜する2条の断層(南からF1断層,F2断層)によって,堆積物が変位・変形していることが確認された。

図3−1−16にトレンチ地点の平面図を,図3−1−17図3−1−18にスケッチ図を示す。

(1) 地質構成

本トレンチに露出する地層は上位より以下の通りである。

@ 耕作土(シルト)

耕作土は,灰色(5Y6/1)を呈するシルト層で,0〜30pの厚さで分布する。耕作土からは,近代〜現代にかけて製造された陶器片が産出する。

A A層(砂質シルト層)

A層は,層厚10〜50cmの灰白色(5Y7/2)を呈する砂質シルト層である。径1cm程度の砂岩礫(亜角〜亜角礫)を混じえる。

B B層(シルト混じり砂礫〜礫まじりシルト質砂層)

B層は層厚10〜40cmの灰白(2.5Y7/1)〜鈍い黄(2.5Y6/3)を呈するシルト混じり砂礫層〜礫まじりシルト質砂層である。礫は一般に径1〜5cmの砂岩・頁岩礫(亜角〜亜円礫)である。なお,B層からは6〜12世紀にかけて製造された須恵器片が産出する。

C C層(シルト質砂層)

C層は層厚20〜100cmの明褐色(2.5Y6/6)を呈するシルト質砂層である。東側法面ではシルトがF2断層に沿って,上方へV字型に広がっている。D層とは指交関係にある。

D D層(砂礫層)

D層は層厚70〜200cmの灰白(2.5Y7/1)〜緑灰色(7.5GY6/1)を呈する細礫層である。礫は一般に径1〜10cmの砂岩・頁岩礫(亜角〜亜円礫)である。基質は細砂〜中砂からなり,灰色(7.5Y5/1)を呈している。D層は,南側法面と東側法面の測標E0〜E5,西側法面の測標W0〜W6にかけて分布する。

A〜D層は,層相から重信川が現在よりも北側へ流路をシフトしていた時期の旧河床堆積物であると推察される。

E E層(シルトもしくは腐植土層)

E層は層厚数cmの黒色(2.5Y2/1)を呈するシルトもしくは腐植土層である。

F F層(シルト質砂層)

F層は層厚20cm前後の明黄褐色(2.5Y6/6)〜淡黄色(2.5Y7/3)を呈するシルト質砂層である。

G G層(腐植物混じりシルト層)

G層は層厚20〜30cm前後の黒褐色(2.5Y3/2)を呈する腐植物混じりシルト層である。

H H層(シルト混じり砂層)

H層は層厚20〜30cm前後の黄褐色(2.5Y5/6)を呈するシルト混じり砂層である。

I I層(中砂層)

I層は層厚数cm前後の灰黄色(2.5Y7/2)を呈する中砂層である。東側法面では,断層に沿って凸状に盛り上がっている。

J J層(シルト〜腐植物混じりシルト層)

J層は層厚100cm前後の淡黄色(2.5Y7/3)を呈するシルト〜腐植物混じりシルト層である。

E〜J層は,重信川の後背湿地の堆積物と推察される。

K K層(砂礫層)

K層は層厚50cm以上の黒褐色(2.5Y3/2)〜淡黄色(2.5Y7/3)を呈する砂礫層である。礫は一般に径1〜10cmの砂岩・頁岩礫(亜角〜亜円礫)であるが,花崗岩類,安山岩類結晶片岩類の礫も混じえる。基質は細砂〜中砂からなり,黒褐色(2.5Y3/2)〜淡黄色 (2.5Y7/3)を呈している。K層は,層相から重信川の旧河床堆積物であると推察される。

(2) 地質構造

1)撓曲構造

全体的には,南傾斜の撓曲構造をなしており,E〜J層の高度差は約1.4mとなっている。

2)断 層

本トレンチでは,北傾斜で耕作土直下の沖積堆積物を切断し,北側隆起の変位を示す2条の断層(南からF1断層,F2断層)を確認することができた。

F1断層は西側法面で確認され,B層まで切断,変位させている。断層はN74゜Wの走向で,北へ68゜傾斜し,断層に沿ってB層が落ち込んでいる。F層(シルト層)では,鉛直方向で約20cm南側低下の変位が認められる。F1断層は東側法面では不明瞭で確認できない。

F2断層は東側法面ではB層まで切断,変位させ,E層,G層に鉛直方向で約20cm南側低下の変位を与えている。また,F2断層は西側法面では,E層まで変位を与えている。

3)堆積構造の乱れ

東面の測標E4〜E6のC層とD層は入り乱れており,かつD層の礫の堆積構造も乱れている。

(3) 断層活動

1)イベントT(最新活動時期)

F1断層はB層まで変形させ,A層および耕作土に覆われている。したがって,B層堆積後,A層および耕作土堆積前に断層活動があったものと推定される。

2)イベントU

F2断層はE層まで変形させ,C層に覆われている。また,撓曲によるJ〜E層の上下変位量は約1.4mに達するが,C,D層は,E層までの撓曲構造を平坦化するように堆積していることから,E層堆積後かつC,D層堆積前に1つ前の断層運動があったものと推定される。

なお,E〜J層まではほぼ同じ量で撓曲しており,層厚も変わらないことから,この間にはイベントはないものと判断される。