(2)トレンチ調査結果

松山市高井西地点では,重信断層(川上断層西部)のリニアメント西端の沖積面を対象にトレンチ調査を実施した。当地点の東方約80mを南北に走る松山東部環状線で実施した反射法地震探査結果(松山測線)から重信断層を境に,和泉層群の出現深度に約270mの高度差(南側低下)があることが推定されている。事前に当地点の西方約60mの地点で実施した試掘調査では撓曲構造の兆候はあったものの断定できるものではなかった。当地点の西方約10mで実施した孔間20mの2本のボーリング調査により,地表直下の腐植質シルト層に約1mの高度差が認められたため,本地点でトレンチ調査を実施した。トレンチ調査の結果,ほぼ鉛直な断層によって堆積物が変位・変形していることが確認された。

図3−1−11にトレンチ地点の平面図を,図3−1−12図3−1−13にスケッチ図を示す。

(1) 地質構成

本トレンチに露出する地層は上位より以下の通りである。

@ 耕作土(シルト)

耕作土は,灰色(10Y5/1)を呈する黒褐色シルト層で,20〜30pの厚さで地表に分布 する。

A A層(礫まじりシルト層)

A層は,層厚20〜40cmの灰オリーブ色(7.5Y5/2)を呈する礫まじりシルト層である。西側法面と南側法面に分布する。礫は一般に径5cm程度の砂岩礫(亜角礫)である。シルト層には,黄褐色(10YR5/6)の褐鉄鉱が斑状に認められる。現世の瓦や陶器片が出土することから盛土の可能性がある。

B B1層(礫まじりシルト層)

B1層は層厚20cm前後の緑灰色(7.5GY6/1)を呈する礫まじりシルト層である。西側 法面で局所的に断層を覆うように分布する。礫は一般に径1〜5cm程度の新鮮な砂岩礫 (亜円礫)である。側方への連続性が悪く,人為的な堆積物である可能性がある。

C B2層(礫層)

B2層は層厚10〜20cmの鈍い黄色(2.5Y6/4)を呈する礫層である。東側法面で局所 的に分布する。礫は一般に径5〜10cm程度の新鮮な砂岩礫(亜角〜亜円礫)である。

側方への連続性が悪く,B1層同様,人為的な堆積物である可能性がある。

D C1層(砂質シルト層)

C1層は層厚30〜50cmのオリーブ灰色(5Y6/2)を呈する砂質シルト層である。西側法面では,A層との境界面が不規則に波打ち,堆積構造も不明瞭である。

E C2層(腐植質な粘土質シルト層)

C2層は層厚10〜20cmの暗緑灰色(10G3/1)を呈する腐植質な粘土質シルト層である。この層もC1層とC3層との境界面が不規則に波打っている。特に,南側法面では,C2層がC1層を貫いている。

F C3層(砂質シルト層)

C3層は層厚10〜70cmの明緑灰色(5G7/1)を呈する砂質シルト層である。断層を挟んで南側で厚くなる傾向がある。また,西側法面では,断層に沿って凸状に盛り上がっている。また,C2層とC4との境界面は波打っている。

G C4層(粘土質シルト層)

C4層は層厚30〜90cmの緑黒色(10G2/1)を呈する粘土質シルト層である。東側法面では,測標E5〜E6にかけて下方に落ち込むように厚く堆積している。C4層もC1〜C3と同様に上下層との境界面は波打っている。

H D層(砂礫層)

D層は層厚10〜20cmの緑灰色(5G5/1)を呈する細礫層である。礫は一般に径1cm前後の新鮮な砂岩礫(亜角〜亜円礫)である。一方,基質は緑灰色(5G5/1)を呈する細砂〜シルトが主体である。東側法面では,D層は断層に沿って凸状に盛り上がっており,この部分では礫よりも細砂が主体となっている。

I E層(砂層)

E層は層厚10〜50cmの青灰色(5BG6/1)を呈する砂層である。西側法面では断層の南側に分布する砂層は断層に沿って落ち込むように分布している。

J F層(礫層)

F層は層厚1.5mの灰オリーブ色(5Y5/2)〜褐色(7.5YR4/6)を呈する礫層である。

礫は一般に径5〜20cmの新鮮な砂岩礫(亜円礫)であるが,断層付近では褐色を帯びている。基質は細礫〜細砂からなる。東側法面では,横ずれ運動を示唆する礫の再配列が認められる。また,砂層をレンズ状に介在している。

D〜E層は,礫を主体とする堆積物で,重信川の旧河床堆積物であると考えられる。

(2) 地質構造

本トレンチでは, ほぼ鉛直でF層からC1を切断し,北側隆起の変位を示す断層を確認することができた。

断層は東西両面(東面:測標E6付近,西面:測標W8付近)で確認できる。断層の走向はN84°Eで,リニアメントの走向とほぼ一致する。傾斜は西面ではほぼ垂直,東面では北へ70°前後で傾斜している。断層は東面では耕作土直下のC1層まで切断しており,西面ではC1層を切断し,B1層に覆われていることが確認できる。また,東側法面ではD層が測標E5付近で南側へ撓曲しており,C4〜C1層が低下側を埋めるように測標E5〜E6にかけて厚く堆積している。

C4層の鉛直変位量(鉛直方向のズレ量)は約1.1m,C1層の鉛直変位量は約0.5mであることから,1回当たりの断層変位量は鉛直方向で約0.5mと推定される。

(3)断層活動

1)イベントT(最新活動時期)

東側法面ではC1層は明らかに断層による変位を被っているが,A層は全く変位を受けておらず水平に堆積している。また,B1層およびB2層は変形したC層を削りこんで分布し,人為的な堆積物である可能性もあるが,地震後の堆積物と判断できる。

したがって,最新活動時期と考えられるイベントTはC1堆積後,B1,B2層堆積前と推定される。

2)イベントU

C4〜C1層の層厚は断層を境に断層活動による低下側を埋めるように南側で厚く分布している。したがって,イベントUはD層堆積後C4層堆積前と推定される。

なお,C4〜C1層堆積中にも層厚の変化からイベントが存在する可能性は否定できない。