(2)断 層

各リニアメントの現地踏査結果から,調査地域に分布する川上断層,岡村断層および石鎚断層の概要について述べる。

(1) 川上断層

川上断層は,リニアメントの特徴,断層面の走向・傾斜,第四紀の活動度から,@川内町原〜丹原町相ノ谷,A丹原町相ノ谷〜丹原町臼坂,B丹原町臼坂〜西条市宮の下の3つの区間に区分される。各区間の特徴は以下のとおりである。

@ 川内町原〜丹原町相ノ谷(川上断層(西部))

河谷の横ずれ変位,明瞭な低断層崖などから,A〜Cランクのリニアメントが判読される。(図2−3−1−1図2−3−1−2図2−3−1−3)。

断層面の走向は,N70〜85゜Eで,60〜80゜と高角度で北へ傾斜している。

和泉層群と三波川変成岩類との境界断層に貫入しているデイサイトが破砕を受けている露頭と破砕を受けていない露頭が存在する(図2−3−4−1図2−3−4−2図2−3−4−3)が,中新世中期以降の活動は確実である。

A 丹原町相ノ谷〜丹原町臼坂(中央構造線桜樹屈曲部)

この区間は,山地のため,変位地形を判定する基準地形面が乏しいものの,連続性の悪いD(一部C)ランクのリニアメントが判読できる(図2−3−1−3)。リニアメントは,鞍部地形を中心とし,横ずれや隆起を示す地形が認められないため,侵食地形の可能性が高い。

和泉層群と三波川変成岩類との間に分布する流紋岩質貫入岩(石鎚層群)には貫入後の断層変位,断層破砕は露頭では認められない(図2−3−4−3)ため,貫入後すなわち中新世中期以降,大規模な断層運動はなかったものと推察される。また,断層の低下側(東側)に第四紀堆積物がほとんど分布しないことから,第四紀における断層活動は極めて低いと推定される。

B 丹原町臼坂〜西条市宮の下(川上断層(東部),小松断層)

沖積面上に認められる比高1〜2mの低崖に対応する変位地形の可能性の高いA〜Bランクのリニアメントが,N60°Eの走向で判読される(図2−3−1−3図2−3−1−4図2−3−1−5図2−3−1−6図2−3−1−7図2−3−1−8)。

断層面の走向はN70〜80゜Eとほぼリニアメントの走向と一致し,高角度で北へ傾斜している。

丹原町湯谷口の中山川左岸において,沖積礫層が断層変位を受けている露頭が確認された(岡田,1977)(図2−3−4−4)こと,西条市氷見トレンチで小松断層の最新活動時期が1,900〜1,200年前であること(堤ほか,1998)から完新世の活動が判明している。

(2) 岡村断層

岡村断層は,リニアメントの特徴,断層面の走向・傾斜,第四紀の活動度から,@小松町大谷池南方〜西条市洲ノ内,A 西条市洲ノ内〜新居浜市岸ノ下,B 新居浜市岸ノ

下〜新居浜市北内町,C 新居浜市北内町〜土居町北野の4つの区間に区分される。各区間の特徴は以下のとおりである。

@ 小松町大谷池南方〜西条市洲ノ内

当区間では,山地と段丘との境界に延長距離の短いDランクのリニアメントが判読されるが,地質境界断層としての岡村断層の北側に分布している(図2−3−2−1図2−3−2−2。これに対して,和泉層群と岡村層との地質境界断層にはリニアメントは判読されない。

現在では,高速道路の建設や護岸工,植生工などにより確認はできないが,かつては,岡村層相当と考えられる礫層と和泉層群とが接する断層露頭が報告されている(図2−3−5−1)。断層面の走向はEW〜N70゜Eで高角度で北もしくは南に傾斜している。当区間における岡村断層は,第四紀前半には活動的であったが,第四紀後期 の活動は停止している可能性が高い。

A 西条市洲ノ内〜新居浜市中萩町

当区間では,主に,山地と段丘または沖積面との地形境界にA〜Bランクのリニアメントが判読される(図2−3−2−3図2−3−2−4図2−3−2−5図2−3−2−6)。東方に向かうにしたがい,リニアメントは低位段丘および沖積面上に分布し,中萩低断層崖に代表される直線状の明瞭なリニアメントとして連続する。

西条市飯岡では,トレンチ調査が実施され,断層を確認するとともに,完新世における複数回の活動が確認されている。

B 新居浜市中萩町〜新居浜市北内町

当区間では,沖積面に逆向き低断層崖が認められる(図2−3−2−6)。断層露頭は認められないが,変位地形の可能性のあるリニアメントであるため,第四紀後期の活動が推定される。また,この区間は,右横ずれ断層の隆起方向から岡村断層の東部に相当する。

C 新居浜市北内町〜土居町北野

国領川から東方の段丘面および関川丘陵中央部では,リニアメントは判読できないため,明瞭な変位地形は表れていない。ただし,関川丘陵東部の土居町北野では,Cランクのリニアメントが判読されるため,断層としては,新居浜市北内町から土居町北野まで連続する可能性は否定できない。

(3) 石鎚断層

石鎚断層はリニアメントのランク・分布形態,断層面の走向・傾斜,活動度から@ 西条市香屋〜新居浜市山根(国領川西岸),A 新居浜市角野新田町(国領川東岸)〜土居町畑野(浦山川),B 土居町畑野(浦山川)〜土居町西森,C 土居町西森以東の 4つの区間に区分できる。各区間の特徴は以下のとおりである。

@ 西条市香屋〜新居浜市山根(国領川西岸)

山麓地と段丘面との境界にリニアメントが判読されるが,C〜Dとランクは低く,崖錐や沖積扇状地に覆われるなど連続性が悪い(図2−3−3−2図2−3−3−3図2−3−3−4)。特に,山地となる西条市香屋〜新居浜市出口にかけては,鞍部に,延長距離が短く変位地形の可能性の低いリニアメントが部分的に認められるのみで,概してリニアメントはほとんど判読できない。リニアメントは,和泉層群と三波川変成岩類との地質境界断層に対応する。

断層面の傾斜は約30゜前後と低角度で右横ずれ運動が卓越する中央構造線としては緩い(図2−3−6−2図2−3−6−3図2−3−6−4)。

また,和泉層群と三波川変成岩類の地質境界断層に認められる貫入岩は破砕を受けていない(図2−3−6−1図2−3−6−2)ことから,貫入後すなわち中新世中期以降,大規模な断層運動はなかったものと推察される。

変位地形の不明瞭さおよび断層露頭から,第四紀後期の活動を完全には否定できないが,リニアメントは基本的には侵食地形を反映したものと推察される。

A 新居浜市角野新田町(国領川東岸)〜土居町畑野(西谷川)

山麓地と段丘面との境界に,河谷の横ずれ変位,明瞭な低断層崖などからA〜Bランクの明瞭なリニアメントが判読される(図2−3−3−5図2−3−6−6図2−3−6−7,図23−3−6−8)。崖錐や沖積扇状地に覆われ,不明瞭な箇所が認められるものの概して連続性はよい。関川を横切る部分や国領川と種子川に挟まれた区間では,低断層崖はLU,LV段丘面や沖積錐を切断している。

断層面の傾斜は60〜70゜と高角度である。

岡田(1973)によれば,新居浜市船木の新居浜カントリーゴルフ場では,1,860±90yBPと測定された土石流扇状地の堆積物が断層変位を受けているらしい(図2−3−6−6)ので,完新世の断層活動が推定される。

B 土居町畑野(浦山川)〜土居町西森

リニアメントはほとんど判読できず,山麓地と段丘面との境界に変位地形の可能性の低いDランクのリニアメントが断片的に判読できる(図2−3−3−8図2−3−3−9)。

高速道路直下となるため,現地では断層露頭はほとんど確認できなかったが,浦山川の左岸側に認められる断層露頭では,石鎚層群の貫入岩は,全く破砕を受けていない(図2−3−6−8)。しかしながら,土居町入野では,高速道路建設前に新鮮な岩相を呈するル−ズな礫層と高位段丘礫層とが高角度で接する露頭が報告されている(岡田・堤,1990)(図2−3−6−8)。また,高橋(1992)は,浦山川において礫層を変位させる断層露頭を報告している。したがって,変位地形が不明瞭であるものの,第四紀後期の活動はあるものと判断される。

C 土居町西森以東

土居町西森以東では,和泉層群と三波川変成岩類との地質境界断層である石鎚断層に沿って,リニアメントは判読できない。そして,その北側の畑野断層,寒川断層に沿って,変位地形の可能性の高いリニアメントが判読される。当区間の石鎚断層については,第四紀後期の活動を示す地形・地質学的証拠は認められない。

(4) 畑野断層

畑野断層に沿っては,土居町上野から土居町にかけてA,Bランクのリニアメントが判読される(図2−3−3−7図2−3−3−8図2−3−3−9)。また,土居町上野では,河谷や尾根に系統的な右横ずれ屈曲が認められ,当断層は右横ずれ成分が卓越するものと推定される。

畑野断層の断層面の走向はN70〜80゜Eで,南へ70゜前後で傾斜している。

畑野の東予開閉所近傍で実施されたトレンチ調査により,第四紀後期の活動を示す断層が確認されている(Grapes and Takahashi,1987)。

(5) 寒川断層

寒川断層に沿っては,伊予三島市岡銅から伊予三島市寒川町にかけて,高位段丘面,中位段丘面,低位段丘面と沖積面とを境とするA,Bランクのリニアメントと対応する低崖が認められる(図2−3−3−10))。

H段丘面とA段丘面の高度差が約35m,MT段丘面とA段丘面との高度差が約30m,MU段丘面とA段丘面との高度差が約17m,L段丘面とA段丘面との高度差が約15mであることから,累積変位が想定される。

平野部を通る断層であるため,断層露頭の確認はできていないが,段丘面と沖積面との高度差から第四紀後期から完新世の活動性が推定される。