(2)郡中断層

Saito (1962)は,和泉層群が郡中層に衝上した走向N60°E,南へ20°傾斜の境界面を記載し,郡中断層と命名した。岡田(1972)は,郡中断層の平均走向はN50°Eで, 北へ80°傾斜するものの, 断層線に沿って水平或は垂直変位を示唆する変位地形は見られないとしている。また,鹿島・高橋(1980)は, 露頭観察および地層分布から, 郡中断層はN36°Eの走向で,79°南へ傾斜しているとしている。さらに, 不整合面や和泉層群の地すべりブロックのすべり面の可能性も指摘されている(松井・他,1985;水野,1987)。

空中写真を使った地形判読によると,郡中断層とされた地質境界付近に,山地斜面内の鞍部,両側の山地高度の不連続からなる不明瞭なDランクリニアメントが判読されるが,変位地形は認められない。また,リニアメントは,地質境界とは一致しない部分もある。

海岸部のGn−1では, 南東側の和泉層群砂岩泥岩互層と北西側の郡中層のシルトとの境界面が露出している(図4−4−16−1図4−4−16−2図4−4−17) 。

境界面Aは凹凸が著しく,全体に彎曲している。すなわち,上部ではN70°〜80°Eで,50°〜60°南へ傾斜しているが,下部へ行くほど緩傾斜になり,波打ち際ではほぼ水平となっている(図4−4−16−1図4−4−16−2)。境界面Aの上盤側の和泉層群は, 幅約4mにわたって角礫状に破砕されているが,卓越する剪断面は認められない。また,この上部の和泉層群は, 開口割れ目が発達した,緩みの著しい岩盤であるが,砂岩と泥岩の成層構造は保たれている。波打ち際では,境界面に沿って,幅10〜30pの角礫混じり粘土層が形成されている。この粘土層は,黒色粘土の基質中に中礫サイズの砂岩角礫が点在しており, 基質および境界面には剪断面は認められない。

境界面Aの30m南西側には,和泉層群と郡中層を境する,境界面Bおよび境界面Cが観察される(図4−4−17)。境界面Bは, 境界面Cを切って,N80°Wの走向で, 北へ32°傾斜している。境界面はうねっており, その上盤側は40〜50pにわたって角礫混じり粘土層が形成されている。この粘土層は,黒色粘土の基質中に中礫サイズの砂岩角礫〜亜角礫が混在しており,基質および境界面には剪断面は認められない。

一方,境界面Cは,N80°Eの走向で,南へ40°傾斜している。剪断帯の上面には, 幅約2pの細礫混じりの黒色粘土層が形成されている。そして,境界面Cの下盤の郡中層シルト層には,幅5〜15pの剪断帯が形成されている。ここでは, リ−デルシア−が形成されており, これによると, 和泉層群が郡中層に衝上したと推定される。これは, 境界面に形成された傾斜スリップを示す条線と調和している。境界面の上盤側の和泉層群は, ここでも開口割れ目の発達した岩盤であるが, 成層構造は保存されている。すなわち, 上盤および下盤ともに衝上断層に伴う副断層は形成されていない。

以上を総合すると, 境界面AおよびBは,和泉層群の根無し岩塊と郡中層との境界面で,境界面Cも同じ成因である可能性が高い。境界面A,Bでは,剪断破砕がなく,剪断面のないマイクロブレッチャ−と泥質マトリックスが,境界面に平行に厚さ数10p存在することから,高間隙水圧面(層)に沿って滑動したものと推定される。上山南方の(Gn−2)では,鹿島・高橋(1980)が指摘するように,和泉層群と郡中層の境界が観察される(図4−4−18)。Gn−2では,密着した境界面を挟んで和泉層群の泥岩勝ち互層と郡中層の礫層が接している。境界面Aは,下部ではN24°Eの走向で, 南に80°傾斜しているが, 上部では, N21°Eの走向で25°南へ傾斜している。境界面に沿って幅1〜3pのシルトを伴うが鏡肌は認められない。この境界面は,もともと砂岩泥岩互層の層理面であった可能性が高い。一方,境界面Bは,極めて不規則に凹凸した面で,断層面ではなく,和泉層群の侵食された面である。

Gn−3では, 和泉層群の砂岩泥岩と郡中層の礫層とが, 彎曲した境界面で接している。境界面は,下部ではほぼN20°Eの走向で,70〜90°北へ傾斜しているが,上部では大きくうねってオ−バ−ハングしている。また,境界面に沿って, 剪断面は形成されていない。したがって,境界面は断層面ではなく,和泉層群の侵食された面である。

鹿島・高橋(1980)は,Gn−2とGn−3を結んで郡中断層のトレ−スとしているが,それぞれの境界面を延長するとつながらない。また,これらの境界面は,著しく凹凸しており,しかも破砕を伴わないことから,郡中層に滑動した和泉層群の地すべりブロックの先端と考えられる。

Gn−4では, 和泉層群の砂岩と郡中層の礫層とが, N50°Wの走向で,高角度で北へ傾斜する境界面で接している。この境界面は,密着しており, それに沿う破砕は認められない。また,和泉層群には,卓越する剪断面は認められないが,砂岩が角礫状に分解している。

さらに, Gn−5においても, 和泉層群の砂岩と郡中層の礫層とが, 緩く彎曲するNSの走向で,東へ70°傾斜する境界面で接している。この境界面は,密着しており, それに沿う破砕は認められない。上盤側の和泉層群は, 角礫状になっており, 一見崖錐堆積物に類似している。

このように,郡中断層と呼ばれた和泉層群と郡中層の境界は,大局的にはほぼリニアメントに沿ってNE−SW方向に追跡される。しかし,実際の境界面は,ひと続きの断層ではなく,先端部(高標高部)では高角度かつ明瞭な断層面および破砕帯を伴わないのに対して,低標高部では,低角度の断層もしくは根無しのすべり面から構成される。