(4)八倉層および相当層

伊予断層沿いに分布する郡中層と同時代層を含む先段丘堆積物を八倉層と総称する。八倉層およびその相当層は地域ごとにその層相が大きく異なる。

[伊予市八倉付近]

伊予市八倉付近約2q四方に分布する。

礫層が優勢であり,まれにシルト,砂をはさむ。固結度は非常に良い。層相から扇状地堆積物と推定される。走向は,E−W からNE−SW で, 傾斜は,北に約10°である。

時代については,固結度が郡中層より弱いことから,大部分は郡中層より新しく,更新世前期〜中期と推定される。

[伊予市市場〜宮ノ下]

伊予断層の北側において,右屈曲を受けた尾根,あるいは丘陵を構成している。また,本層は,平野側では段丘堆積物の基盤となっている。

本層は,主として礫層からなり,まれにシルト,砂をはさむ。礫は,大部分亜角〜亜円礫で,マトリックスサポートの土石流堆積物(図4−4−9)および亜円〜円礫を主体とし,クラストサポートの扇状地堆積物からなる。

なお,伊予市市場から稲荷にかけての本層中には,黒雲母流紋岩および片岩の円礫を含む礫層が分布する。本層は,岩質から旧森川の扇状地堆積物と推定されるが,現在の森川の堆積域より東へ最大 1.5q東側に分布している。この堆積物は,伊予断層のすぐ北側に分布することから, 伊予断層の右横ずれ断層運動によって堆積後東方へ移動した可能性がある。

本層は, 緩みの著しい和泉層群と入り乱れて分布し, ともに丘陵を構成している。伊予断層の北側に分布し,孤立した丘陵を構成する和泉層群は, 岩盤すべりによって北側へ滑動した移動岩塊の可能性が高い。

[伊予市端〜伊予市銭尾峠付近]

八倉層相当層は,銭尾峠から端にかけて, 伊予断層の北南東側の丘陵の頂部に, また,伊予断層の北西側の丘陵斜面に一部分布している。本層は,和泉層群をほぼ水平に, 不整合で覆う礫層で, まれにシルト, 砂を挟む。礫は, 亜円礫〜亜角礫の和泉層群の砂岩および石鎚層群の黒雲母安山岩(〜流紋岩)を主体とし,片岩礫を含まない。基質は,砂からなる。層相および分布から,伊予

断層沿いの凹地堆積した河成,土石流および崖錐堆積物と推定される。本層は,上部が削剥されており,10m以上の厚さである。 JR予讃線の三秋信号所近くの切取り斜面(Loc.8)では,基底から 4.7m上位の所で,淡黄灰色(2.5Y7/4)をした火山灰(三秋火山灰)が挟まれる。この火山灰は,褐色bw型火山ガラスを含むことから,阿蘇4火山灰との対比されている(鹿島・高橋,1980;鹿島・他,1982)。しかしながら,基底から約3mの所にあるほぼ同一の火山灰中から分離したジルコンのフィッショントラック年代は,0.96±0.23Maと報告されている(長谷川,1993)。

本層は,鹿島・高橋(1980)では,高位段丘堆積物と扱われているが,堆積面が完全に開析されているので,段丘堆積物とは区別される。また, 三秋層は10°以下の傾斜で, ほぼ水平であるので, 郡中層とも区別される。

本層は郡中層より新しく,およそ1Ma以降の更新世前期〜中期の堆積物であろう。

[双海町高野川〜小網]双海町高野川付近に分布する。

礫層が優勢でありまれにシルト, 砂を挟む。礫層は,やや分級の悪い亜円礫からなり,礫径は数pである。本層の上部を,姶良Tn火山灰を含む礫層が覆う。

本層は,層相から河成堆積物と推定される。

従来本層は,高橋和・永井造三(1972)によって,武蔵野段丘相当層に含められていたが,固結が良いこと,現在の水系に分布しない片岩礫を含むことから,段丘堆積物とは区別され,八倉層〜郡中層相当層と推定される。そして,本層は,高橋和・永井造三(1972)の「高野川層」の最下部に相当しAT火山灰を含む礫層,LI面段丘堆積物の基盤となっている。