7−3−2 平久里下地区(西部地区、平成11,12年度現地調査実施)

平久里下地区は、寒川ほか(1982)により、唯一、段丘面に変位が認められるとされた地区であり、平成10年度の調査においても、同一段丘面上に変位地形が認められ、また、リニアメントを挟んで南側と北側で、同一段丘面の高度分布に不連続(落差)が認められた。そのため、平成11年度には、リニアメントの通過する段丘面(平久里下地区V面)において、トレンチ調査(右岸)および試験的に高密度電気探査を行った。その結果、段丘面の変位が認められた箇所で実施したトレンチ調査では、基盤・第四紀層ともに、変位していなかった。電気探査結果からは、全体に低比抵抗でコントラストがなく、特に段丘面の変位位置が低比抵抗部であるという傾向は認められなかった。

さらに、リニアメントの南北両側に広く分布し、対比が可能なU面でボーリング調査を実施した。ボーリング結果では、リニアメントを挟んだ南側の段丘面について、1)標高、2)推定離水面、3)基盤深度、のいずれについても、北側の段丘面と対比して2〜3m程度高いという結果が得られた。したがって、活断層の通過位置は不明だがU面が変位している可能性があると考えた。また、リニアメント西方延長上に位置する切土露頭の観察の結果、直接活断層は確認できなかったものの、岩質の違う三浦層群と保田層群が認められ、活断層があるとすれば、その境界に存在すると考えた。しかし、段丘の分布する平久里川沿いではリニアメント下流側には硬質な砂岩が認められるが、上流側には連続する露岩がなく、且つ段丘面については堆積面が一様で、活断層の位置については確認できなかった。

したがって、平成12年度調査は、三浦層群と保田層群との間に断層を推定し、基盤にその境界が推定できるU面上で追加ボーリング調査を実施した。

その結果、断層を想定した三浦層群と保田層群境界に、基盤上面の有意な段差は認められなかった。さらにボーリングコアからは、基盤の両層を被う広域テフラ(アカホヤ)層(約7300年前)が認められた。アカホヤテフラ層は、両層をほぼ水平に被っており、境界付近での変形は認められなかった。

以上より、三浦層群・保田層群境界に想定した活断層は、存在しないという結果が得られた。また、ボーリングコアの対比や周囲の地表踏査の結果、リニアメントは、三浦層群と保田層群の岩質の硬軟の違いによって生じた差別浸食地形であると考えられる。以上より、平久里下地区には活断層は存在しないと判断される。

平久里下地区で実施した各ボーリング、年代測定等の結果より、この地区の地形形成史について考察を行うと以下のようにまとめられる。

@ 7000年前以前

リニアメント南側を中心に、左岸U面が堆積した(U'と表現する)(11000〜7000年前、リニアメント南側)。このときは、左岸No.B付近では、ピートが形成される湿地的な環境であったと推定される。一方、右岸のHG−3は、ピートが認められないために、No.Bと同時に堆積したとすれば、環境が異なっていたものと推定される。また、左岸U'面のボーリング結果からピートが認められるため、下流側でせき止められて上流側がダムアップしていた可能性も考えられる。T面は、U面形成よりも先に形成されている。

A7000〜3000年前

やや遅れて、現在のU面が形成された。このとき古いU'面は、左岸側を残して削剥されてしまったと考えられる。U面の形成は、テフラ層や14C年代測定の結果から、7000年〜3000年前にわたって継続したと考えられ、特に右岸側には細粒な堆積物が卓越している。この段丘面は、現在リニアメント上及び北側に広く分布しており、しかもボーリングコア(No.A,C、HG−4,5)が、非常に細粒な堆積物で構成され且つ、ラミナも認められないことから、沼地もしくは後背湿地的な環境で形成されたと考えられる。この事実は、下流側に何らかのダムアップされるような環境が、生じていた結果を反映しているものと推定される。

B 3000〜2000年前

何らかの原因によって、ダム箇所が決壊し、現在のV面が形成された。このステージは比較的短時間に形成されたのでは無いかと考えられる。これまでの調査によって、U面とV面の間の比高差は大きく、年代もU面が7000〜3000年前に形成されたのに対し、V面が2000年程度と両面の形成には、かなり大きな時間差がある。一方、V面とW面の比高差は、あまり認められず、また、14Cによる年代もW面が1500年程度と、V面に非常に近い結果となっている。これは、V面とW面が近い時代に生成されたことを示しており、今回の推定と矛盾しない。

C 2000年前以降

W面が現在の河川に沿って形成され、現在の段丘面区分となる。

以上より、ダムアップされていた期間が7000年前〜3000年前と、かなり長期にわたり、またダムが現在のリニアメント付近に存在していたために、下流側の段丘面の分布に時代的及び、環境的な差が生じたと考えられる。その結果、リニアメントを挟んで、段丘面に見かけ上高度不連続が生じたのではないかと考えられる。昨年度までの調査で、リニアメントを挟んで、左岸側と右岸側で同じU面にあたると考えられた段丘面は、年代測定の結果から、それぞれ形成年代は近いものの、違う段丘面であった可能性が高いと結論した。