8 断層活動性の検討 

鴨川低地断層帯南断層のうち、今回調査した、西部地区(岩井〜平久里下)について、検討を行った。

岩井地区では、リニアメント(山地部と平地部との境界)と基盤破砕部は、東側ではほぼ一致し山地北側に位置するが、調査地西側では、より北側に離れる傾向が認められる。また破砕部分からは、最近活動したような証拠は認められない。

一方、平地側のボーリングの結果等、既存の調査結果からは、低地部分には、保田層群が比較的浅い深度で分布していることが分かっている。また、リニアメントを横断するように分布する低地には、変位地形は認められず、さらに、リニアメント通過位置を横断するように行ったボーリング調査でも、浅層部分の未固結層には堆積相が乱れている様子は認められない。また、岩井地区西方の東京湾を調査した水路部の調査結果でも、鴨川地溝帯南断層の海上延長部には、変位地形は認められないとしている。

以上より、すくなくとも岩井地区では、リニアメント部分が、活断層であるという積極的な証拠は認められなかった。

また、低地部分は沈降等によって形成された変位地形であるというよりも、差別浸食等によって生じた組織地形である可能性が高い。

一方、14C年代測定の結果から、低地部分の未固結層は約2000年前という年代値が得られている。そのため、少なくとも2000年前以降は、活動していないと考えられる。

平久里下地区では、リニアメント通過位置は、ほぼ三浦層群と保田層群との境界に一致している。一方、切土及びボーリングで認められた破砕した泥岩層は、保田層群中に位置し、リニアメントの北側に、リニアメントに沿って東西に分布すると考えられる。

 リニアメントを挟んで同一の段丘面と考えられる段丘面(U面)については、現標高で約3m、離水面で約2.2m、基盤部分について3m程度の差が認められた。いずれの対比でも、リニアメントを挟んだ下流側である南側の段丘面が高く、通常の浸食によって生じる地形とは、逆転している。この原因としては、活断層の活動によって生じた可能性がある。

この高度差が断層によって生じたとすれば、両段丘面の年代は約7000年であることから、7000年で1.3〜3.0mの変位が生じていることになる。

V面の年代は、トレンチ調査による年代測定結果及びオーガーボーリングによる試料の年代測定を行った結果、約2000〜3000年であると推定される。しかし、既存の研究や、平成10年度調査によって、リニアメントに一致し、断層が直接変位させたと考えたV面の段差は、今年度のトレンチ調査によって、古い人工改変地形であることが分かった。また、リニアメント北側では、V面の分布域は狭く、対比が困難であり、さらにリニアメントを挟んで明瞭な標高差は認められないため、今回の結果からは、変位の証拠は認めるのは、困難であった。

W面の年代値は、平成10年度調査結果によって約1500年程度であり、W面はリニアメント通過推定位置を覆って変位していない。そのため、少なくとも1500年以降には、活動していない可能性が高い。

また、現在の地形では、リニアメントを挟んで南側の方が地形的に急峻で、谷幅も狭く、また、段丘面も多く発達する。逆にリニアメントよりも上流の北側が、埋積された幅の広い谷を形成している。この地形は、通常の河川の流下によって形成されるのは、困難である。しかし、実際には平久里川は、急峻な地形の南に向かって流下しており、通常とは逆転している。これは、必従谷であった平久里川が、地形的に険しい谷を形成し流下していたところに、南側が隆起するという現象によって生じたと考えられる。しかし、この隆起だけでは、リニアメントを挟んでU面の分布高度の違いは生じないため、U面の分布高度の違いは、断層の活動によって生じた可能性が考えられる。

今回の調査では、V面が変形していると考えた部分でトレンチ調査を行った。この部分は、寒川ら(1982)によって指摘されている変位地形と一致している。しかし、平成11年度調査の結果、変位地形ではないことが分かった。