5−1−4 (D)データ処理

データ処理の目的は、記録された波形を処理して、地下構造を表わす断面を作ることである。データ処理手順(板叩き)を図4−3−5に示し、その概略を以下に説明する。

なお、本処理には反射法探査データ処理ソフトProMAX を使用している。

図5−1−4 データ処理の流れ

(1)前 処 理

(a) データの転送と編集

8mm磁気テープから処理装置(ワークステーション)にデータを転送し、不必要なトレースを取り除く。

(b)共通反射点編集

発震点・受振点の組み合わせと、測量によって得られた各座標を用いて、各トレースの共通反射点(CDP)の位置を計算し、ショット記録を共通反射点記録に編集する。

(2)重合前フィルタ

重合前には、できるだけ反射波を強振幅かつインパルスに近い波形に変換し、反射波の周波数帯域以外のノイズを弱めたり除去したりするために、デコンボリューション・フィルタや帯域通過フィルタが適用される。

(a)デコンボリューション・フィルタ

 このフィルタは震源波形、地層特性など反射記録に、コンボリューションの関係で含まれている基本波形をインパルスに短縮するフィルタの一種である。デコンボリューション・フィルタの具体的な効果は以下のとおりである。

・様々な周波数成分をもつ間延びした反射波を,インパルスに近い(高周波かつ分解能の高い)波に変換する。

・主として浅部の影響による重複反射波を除去または弱め、独立した反射波に変換する。

(b) 帯域通過フィルタ

信号である反射波とノイズである他の波との周波数帯域が異なっている場合には、反射波の帯域のみを通す帯域通過フィルタをかけることにより、S/N比の向上が期待できる。具体的には、周波数領域でフィルタを設計し、それをフーリエ変換して時間領域のフィルタ・オペレータを求め、反射記録にコンボリューションする。

何種類かの帯域のフィルタ・テストを実施して、最適なものを適用する。

(3)静 補 正

発震点および受振点の標高差、表層付近での弾性波の速度差による反射波の遅速、表層の厚さの変化による反射波の遅速などを補正する(前一者は標高(地形)補正、後二者は表層(風化層)補正と呼ばれる。)。これを実施しない場合には構造解釈に誤りをおかしたり、水平重合法において反射波そのものを破壊することがある。

具体的には、各発震点・受振点の標高の移動平均したものを仮想の基準面とし、あたかもその仮想基準面上で測定が行われたかのように各発震点、各受振点の記録を上下する。本処理では、基準面を標高20mとした。

表層(風化層)補正は、ショット記録の初動から屈折法的解析を行って求められる。

本処理では、板叩き震源での全データを用いた屈折トモグラフィーによる表層解析を行った。屈折トモグラフィー解析により得られた表層付近の速度分布を図4−3−6に示す。

(4)速度解析

CDP重合に用いる重合速度分布を求める処理である。具体的には、様々な重合速度でNMO補正、水平重合を施し、そのうち反射波の振幅強度が最大となったときの速度が最適な重合速度として採用し、そしてこのような最適な重合速度を時間の関数として選んでいくものである。速度解析は、測線に沿ったある間隔で行われ、その間の速度は内挿により求められる。ここで求める速度は重合速度と呼ばれ、水平多層構造を仮定した場合は RMS速度に近似的に一致する。速度解析の方法としては、定速度走査法と定速度重合法があり、本処理では両者を用いた。

速度解析を行った位置および速度情報は時間断面図の上欄に記載している。

(5)NMO補正およびCDP重合

CDPアンサンブル(各CDP(発震点−受振点の中点)ごとに対応するトレースを集めたもの)に対して発震点・受振点間距離の違いによる反射波の到達時間(走時)の遅れを補正し、発震点と受振点が同一位置にある場合(ゼロオフセット)の走時に合わせる操作が NMO補正である。NMO補正を行うにはあらかじめ地下の速度分布を設定する必要があり、通常は速度解析により得られた速度分布を用いる。このNMO補正後のCDPアンサンブルを足し合わせて、反射波を強調する操作が水平重合(CDP重合)である。図4−3−7は、6重合の場合のNMO補正と、CDP重合(水平重合)処理の概念図である。共通反射点Pでは、A−P−a,B−P−b,C−P−c,D−P−d,E−P−e およびF−P−f の各々異なった経路をもつ反射記録(T) が得られる。P点からの反射波の走時は、水平距離Xの増加とともに遅くなっている。次に速度解析で得られた速度を用いてp−P−p 経路の仮想の記録に合わせる(NMO補正)と、P点からの反射波はいずれの経路のものもほぼ同じ走時の記録(U) が得られる。さらにこれらを足し合わせる(水平重合)と、ランダムなノイズや反射波以外の波は打ち消しあって相対的に弱くなり、逆にP点からの反射波は加算されて反射波が強調された記録(V) が得られる。

(6)残差静補正

高度補正や表層補正を施した後でも,初動屈折波と反射波の経路の違いによる時間の不規則性や、表層補正で行う2層構造仮定を採用したことによる局地的な速度の異常に起因するものは完全には補正されず、CDPアンサンブル内での同一反射の到達時間は一定ではないのが普通である。水平重合反射法弾性波探査においては、最適なCDPアンサンブル群が得られるように統計的処理を施してこの時間差を補正し、各発震点および受振点における2次補正値を求める。

(7)重合後フィルタ

重合後のフィルタとしては、重合断面をより地下構造を反映した断面にすることを目的に用いられ、通常、帯域通過フィルタ、F−Kフィルタ、デコンボリューション・フィルタなどが使用される。

(8)マイグレーション

傾斜した地層から反射した波は各トレースの直下に表示されるため、重合記録上の反射面の傾斜や位置は地下の実際の反射面とは異なってくる。記録上での見かけの傾斜や位置を移動させて、真の傾斜および位置に復元することをマイグレーション処理という(図5−1−3)。マイグレーションの方法としては、現在波動方程式マイグレーションが最も一般的で、計算手法により差分法、F−K法などがある。

本処理では、地下の速度分布が不明確な場合やノイズの多い時に有効な差分法を採用した。

(9)深度変換

ここまでに得られた断面図の縦軸は時間である。地下の速度分布を仮定し、これを用いて縦軸を深度に変換する。地下構造を解釈するためには時間軸を深度軸に変換する必要がある。通常深度変換に使用する速度は、速度解析により得られた速度分布を使用する。

(10)断面図作成

以上の処理を施したマイグレーション前の時間断面図、マイグレーション後の時間断面図、深度断面図およびカラー表示深度断面図を作成した。なお、板叩き震源のマイグレーション深度断面図に対して、浅部の分解能を上げるため若干低域遮断フィルタを施した断面の作成も行った。

なお、時間断面図は標高20mを0秒としている。また、データ取得・処理は測定記録長の2000msまで行っているが、断面図作成に際しては、時間断面図は0〜700ms、深度断面図は板叩き震源では標高20〜−40m、ミニバイブ震源では標高20〜−60mを表示している。

本データ処理に用いられたパラメータをまとめて表5−1−3に示す。

表5−1−3 浅層反射法探査データ処理仕様