(2)【南断層】平久里地区

選定理由

寒川ほか(1982)の文献で注目されている段丘面変位が認められること。リニアメントを横断する新しい堆積物が認められること。

概略

平久里地区は、地形的には南側の急峻な山地部と、北側の平坦部及び丘陵部の2つに区分される。主な河川としては、中央部を平久里川が南流し、さらに調査地南側において東西から2河川が合流している。

平坦地には4段程度の段丘面が認められ、もっとも新しい段丘は平久里川に沿って広く分布している。

北側の丘陵部は、浸食の進んだなだらかな地形を示しており、崩壊地及び地すべり地が発達する。南側の山地部では、全体的に急峻な地形を示し、地すべり及び崩壊地ともに北側部分よりも少ない。

リニアメントは南側の山地と北側の丘陵との間に発達する鞍部及び沢地形に認められる。山地と平坦地の地形境界をほぼ東西に横断する。

・山地

低地部との比高差は70m程度にも及ぶ。また調査地南側に広く分布する。地質は、シルト岩・泥岩を主体とし、細粒砂及び凝灰岩を挟む。

・丘陵地

リニアメント北側に位置し、浸食の進んだ比較的なだらかな地形を示している。また、地すべり及び崩壊地が多く発達し、特に平久里下中組地区、長藤川沿いでは著しい。地質は泥岩及び砂岩を主体とする。また、部分的に凝灰岩層を挟在し、一部では玄武岩溶岩等も認められる。

・低地部

主に平久里川、長藤川等の河川に沿って段丘が発達する。段丘面は寒川ほか(1982)に従ってT〜W面及びこれらの間に位置するV'、W'の合計6面に区分できる。このうち最低位のW面はリニアメントを境に全く変位は認められない。これより上位の面については、リニアメントを挟んで北側と南側でそれぞれの比高差を測定した。南北の段丘面対比については、このようなリニアメント沿いの面が細かいため、対比の誤りを避けるため、リニアメントから50m程度離れかつ、200m程度までのそれほど離れない位置での測定とした。その結果、相対的には北側の比高差よりも南側の比高差のほうが大きく、最大で5mの差を生じることがわかった(W面からT面までの比高の差)。

リニアメント沿いの低地については、東側では、リニアメントに沿った沢地形によって形成された低地部で、細かく面が分割され、複雑な分布をなす。西側の分離丘陵に沿った箇所においても同様である。

以下、低位より順に段丘面について説明する。

(W面)

標高約44m〜49m程度に主として分布し、沼V面に対比される。平久里川に沿って広く分布する。リニアメントを挟んで、段丘面上に変位は認められない。

(W'面)

標高約45m程度。リニアメントよりも南側の大塚地区と北側の一部の、狭い地域にわずかに分布する。リニアメントとの直接の関係は不明である。

(V面)

主としてリニアメントの南側の大塚地区に広く分布し、標高47m程度を主体とする。広域には沼U面に対比される。大塚北方、分離丘陵縁辺部のV面は(現在は畑として利用されている)リニアメントを横断しており、その部分では、高さ30cm程度の緩いたわみが認められる。地元の方の話によれば、以前はこの部分は水田であったということであり、昔から段差が存在していたことは明らかである。そのため、現在認められる段差は、変位を示している可能性が大きい。

(V'面)

主にリニアメント南側の大塚地区に分布する。また、調査地区東部で、リニアメント北側の大沢地区にも多少、分布する。

(U面)

主にリニアメント北側の郷倉地区の標高50m〜55m付近に分布する。広域には沼T面に対比される。リニアメントを横断する部分では、約2m程度の差が認められる。しかし、リニアメント付近でこの面の発達は弱く、詳細な対比は困難である。

(T面)

リニアメント南側では、大塚北方の分離丘陵の縁に分布する。リニアメント北側では、調査地東側のリニアメント沿いの河川沿いに分布するほか、釜戸原橋西方や分離丘陵北側にも位置する。リニアメントとの直接の関係は不明である。

・リニアメント

西側分離丘陵の北側縁辺には、段丘面縁辺とV面に形成される直線的なたわみが整合的に連続することによって、リニアメントを確認できる。この事実は、リニアメントが後述する地滑り起因ではなく、強く変位地形を反映しているものと判断される。判断理由として、地滑り崩積土の縁辺として判断した場合、直線上にこれが形成されることは不自然であるからである。

以下、西側より順にリニアメントの性状を示す。調査地西側では、大塚見川をわたった部分にある凝灰岩の露頭に亀裂が多く発達している状況が認められる。亀裂の方向性は東西が卓越しており、断層の活動に伴う可能性が指摘される。この露頭の東側部分では、リニアメントは北側の地すべり地と南側山地部との境界付近を通過する。

分離丘陵北側の鞍部では、地形の変換線として、東側にのびる形で確認される。

分離丘陵前面部に発達する段丘面上では、リニアメントはU面、V面の段丘面に変位を与えている。しかし、最低位のW面には変位地形は認められず、リニアメント通過位置に異常地形は認められない。また、リニアメント南側の山地部より崖錐性の堆積物が供給され、段丘面を被覆するようである。特にリニアメントに近いU面のすぐ背面では、崩積土がある。平久里川を挟んだ左岸では、リニアメントは小河川と山地部との境界に位置する。しかし、同一面上で変位を受けたような地形は認められない。