3−3−3 <総合評価>

秩父系の基盤岩が確認されている防災科学技術研究所(防災科研)「江東地殻活動観測井」と三波川系の基盤岩が確認されている防災科研「下総地殻活動観測井」の速度検層および密度検層結果を用いた反射波形のシミュレーション(地震合成記録)結果を図3−27に示す。両坑井の検層データの特徴は以下である(各坑井の層序深度は、鈴木(1996)による)。

          江東観測井                下総観測井

三浦層群 上面深度:1670m、層厚:900m          上面深度:1266m、層厚:225m

         速度 : 2700 〜 3500 m/s           速度 : 2500 〜 3000 m/s

         密度 : 2.1 〜 2.3 g/cc             密度 : 2.1 〜 2.3 g/cc

先新第三紀 上面深度 : 2572 m            上面深度 : 1491 m

基盤岩   速度 : 平均 4500〜5000 m/s          速度 : 平均 5000〜5200 m/s

密度 :      平均 2.5 g/cc                 密度 : 平均 2.7 g/cc

三浦層群については、江東観測井で層厚が厚い事、速度が下総観測井に比べてやや早い事がわかる。また基盤岩については、三波川系の下総観測井では秩父系の江東観測井に比べ、速度・密度ともにやや大きいことがわかる。特に密度の違いが顕著であり、両坑井の基盤岩の岩質の違いが反映されていることが確認できる。

これらの事から、三波川系の基盤岩からの反射波の振幅が、秩父系の基盤岩の反射波に比べ約2倍程度大きくなっていることがわかり、この振幅変化の程度は、千葉97−2測線で確認できる反射波の振幅変化の程度とほぼ一致していることが確認できる。

以上の検討結果、および2つの測線を対比させて解釈した総合解釈図(図3−28)をもとに、総合的な評価として、以下が言える。

(1) 伏在断層として想定されている「東京湾北縁断層」に直交する2測線(各測線長約5km)の反射地震探査の結果、これらの断面図上では、基盤岩(先新第三紀層)から新第三紀、第四紀堆積層にいたる段差構造など(活断層)は確認できなかった。

(2) しかしながら、2測線ともに基盤岩からの反射波の若干の不連続、反射面の傾斜の急変や振幅分布の変化が認められた。但し、これらの変化は、少なくとも深度約400mの下総層群中の水平な強い反射面(東京湾不整合)より上位の堆積層には影響を与えていない。

(3) 基盤岩からの反射波の振幅や周波数が、両測線ともに測線の中央付近を境に変化する。南側では振幅がやや弱く周波数が高く、北側では振幅がやや強く周波数が低い。この傾向は、千葉97−2測線で顕著である。また、両者の境界部分に反射波の若干の不連続が認められる。この変化は、関東平野の基盤岩の岩質の相違(三波川系と秩父系)を表している可能性がある。

(4) 両測線ともに測線の北側3分の1の部分は基盤反射波がやや弱くなっているが、この部分の不均一な発震点の配置、地表地質の影響などにより、S/N比が若干悪くなっていると考えられる。

(5) 都市部の高ノイズ環境下の調査ではあったが、今回の調査により、地表から深度2500mを超える基盤岩までの地質構造形態が明らかとなり、併せて地震波の速度構造を得ることが出来た。これらは今後、強震動予測などを行っていく上での重要なデータとなる。