(2)同時間面の検討

(1) 完新統の同時間面の検討

ボーリングコアで観察された層相、放射性炭素年代測定で測定された年代値及び花粉分析から推定された花粉分帯を総合的に解析し完新統の同時間面の検討を行った。腐植等から得られた年代値は大きく逆転するなど値が定まらないことから、貝の年代値を重視し腐植物等の年代値は参考値及び削除して検討を行った。以下に貝から測定した放射性炭素年代値についてリザーバ

ー効果を考慮した場合と考慮しない場合にわけて検討結果を示す。

・リザーバー効果を考慮しない場合

図2−3−8に各ボーリングでの地質の分布標高(花粉分帯)と年代値の関係を示す。

B−1孔で花粉分帯CとDの境界は、放射性炭素年代測定値から2,820〜2,930yBPの幅で考えれる。またH1層はシルト層であり堆積速度の大きな変化が考えづらことから、堆積速度を一定とすると、花粉分帯BとCの境界が3,450〜3,550yBP程度、AとBの境界が4,600〜4,750yBP程度、@とAの境界が6,950〜7,100yBP程度と考えられる。

B−2孔ではCとDの境界は2,990〜3,090yBPと考えられるが、BとCの境界は層相が変化し年代値が少ないことから推定できない。

B−3孔及びB−4孔は年代測定を密に実施していないため推定できない。以上から花粉分帯の境界の年代はおおよそ次のように推定される。

CD境界:2,950yBP程度

BC境界:3,500yBP程度

AB境界:4,700yBP程度

@A境界:7,000yBP程度

推定された花粉分帯の境界の年代、放射性炭素年代測定値及び層相から推定される相対的な堆積速度から、矛盾の少ない年代の遷移曲線を推定し、図2−3−9に示した。このうち、B−1孔とB−2孔で年代の遷移曲線を比較し、同時間の標高差から標高差と年代の関係を求め図2−3−10に示す。

・リザーバー効果を考慮した場合

図2−3−11に各ボーリングでの地質の分布標高(花粉分帯)と、リザーバー効果を考慮し、貝から得られた年代値を400年若い値とした年代値の関係を示す。

B−1孔で花粉分帯CとDの境界は、放射性炭素年代測定値から2,420〜2,530yBPの幅で考えれる。またH1層はシルト層であり堆積速度の大きな変化が考えづらことから、堆積速度を一定とすると、花粉分帯BとCの境界が3,250〜3,400yBP程度、AとBの境界が4,500〜4,650yBP程度、@とAの境界が6,650〜6,800yBP程度と考えられる。

B−2孔ではCとDの境界は2,590〜2,690yBPと考えられるが、BとCの境界は層相が変化し年代値が少ないことから推定できない。

B−3孔及びB−4孔は年代測定を密に実施していないため推定できない。

以上から花粉分帯の境界の年代はおおよそ次のように推定される。

CD境界:2,550yBP程度

BC境界:3,300yBP程度

AB境界:4,600yBP程度

@A境界:6,700yBP程度

推定された花粉分帯の境界の年代、放射性炭素年代測定値及び層相から推定される相対的な堆積速度から、矛盾の少ない年代の遷移曲線を推定し、図2−3−12に示した。

このうち、B−1孔(落下側)とB−2孔(上昇側)で年代の遷移曲線を比較し、同時間の標高差から標高差と年代の関係を求め図2−3−13に示す。

・リザーバー効果について

リザーバー効果を考慮しない場合と考慮した場合の検討を行った結果、大きく異なるところは、H2層及びH3層の年代である。考慮しない場合は、H2層が約3,000〜2,800年前、H3層が約2,800〜2,400年前となるのに対して、考慮しない場合はH2層が約2,600〜2,400年前、H3層が約2,400〜2,000年前となる。H2層は淘汰の悪い砂を主体とし、堆積速度が早いことから、約3,000年前以降の海退時の堆積物であると考えられ、リザーバー効果を考慮しない方が矛盾が少ないように考えられる。しかし、砂の供給される時期は陸域からの距離の違いなどで異なり、海退の時期と必ずしも一致はしない。このため、リザーバー効果を考慮した場合の可能性も残されている。

また、シルトからなるH1層の堆積速度は、リザーバー効果を考慮しない場合は、約8,000〜4,000年前で約8cm/100年程度、約4,000〜3,000年前で約50cm/100年程度となり、考慮しない場合は、約8,000〜4,000年前で約10cm/100年程度、約4,000〜2,500年前で約33cm/100年程度となる。H1層は層相がほぼ一様であり堆積速度の変化が少ないと考えると、リザーバー効果を考慮した方が矛盾が少ないように考えられる。しかし、約4,000〜3,000年前は入内断層の最新活動が予想される時期であり、堆積速度が速くなる可能性はあり、この結果からもリザーバー効果について検討することは難しい。図2−3−14にリザーバー効果を考慮した場合、図2−3−15にリザーバー効果を考慮しない場合の推定同時間面を地質断面に投影する。

放射性炭素年代測定値を花粉分析等の他の方法でクロスチェックできなかったため、リザーバー効果の影響について追求することはできない。図面などにはリザーバー効果を考慮していない値を示している。

・最新活動の検討

リザーバー効果を考慮しない場合及び考慮した場合において、Bの後期以降に堆積速度が速くなり、同時間の標高差が小さくなる傾向がある。リザーバー効果を考慮しない場合が約3,800年前、考慮した場合が約3,500年前となる。この時期は海水準の停滞から海退に変化する時期に当たり、海退のため

堆積物の供給量が多くなったことが大きな原因であると推定される。これ以降には標高差の大きな変化は無いことから断層変位は推定できない。また、これ以前の標高差はB−2孔の標高が推定のため詳細については明かでないが、堆積速度の上昇が見られる直前の約4mの標高差には複数回の断層活動の変位が含まれていると推定される。

昨年度に推定した入内断層の最新活動時期を考慮するとこの変化点付近に最新活動があったと推定されるが、海退期の堆積物の増加の可能性が高いこと、B−1孔が一様なシルト層からなるのに対してB−2孔では砂からシルトへの層相変化があり、厳密な対比は難しいこと、仮定となっている花粉の分帯に

検討の余地が残っていることなどから、この変化が最新活動であると限定はできない。

また、層相の対比からはH3層では変位の可能性が低いと推定される。H3層の年代値はリザーバー効果を考慮しないで約2,950年前以降、考慮して約2,550年前以降となる。

(2) 更新統の同時間面の検討

更新統は下位から砂層、腐植物層T、十和田大不動火砕流堆積物、腐植物層U、十和田八戸火砕流堆積物からなる。このうち、浸食などの影響が少ないと考えられ、変位基準面として考えられる層準を以下に示す。

・腐植物層Tと十和田大不動火砕流堆積物の境界

この境界は、ほぼ同じ環境(湿地帯)に十和田大不動火砕流堆積物が堆積しており、この環境(湿地)下で大きな標高差は無いと考えられ、十和田大不動火砕流堆積物の堆積した標高もはぼ同標高であったと推定される。この境界は、B−1孔とB−2孔で約10mの標高差を持つ。

・十和田八戸火砕流堆積物上限面

十和田八戸火砕流堆積物は比較的厚く分布し、北西の青森湾西断層の調査では段丘上に確認され、比較的広範囲に分布する。これらのことから、十和田八戸火砕流堆積物は、約2万年前の海退時に形成された浸食による地形の凹凸をある程度埋め、平坦な面を形成した可能性がある。しかし、ボーリング調査では落下側(B−1孔,B−4孔)が十和田八戸火砕流堆積以降に浸食で削剥されている。そのため、既存ボーリング資料から落下側の上限面を推定した(図2−3−16に横断方向断面図を示す)。この結果、十和田八戸火砕流堆積物

の上限面は上昇側(B−2孔)と落下側(図2−3−16から推定)で5〜6m程度の標高差を持つと推定した。

・腐植物層Uの約2万年前の時間面

腐植物層Uの年代測定結果から、上昇側(B−2孔)は約19,260±130の年代値が得られており、腐植物層Uの下限面が約2万年前と想定できる。同様に落下側(B−1孔)は下限面付近で29,680±240、上限面付近で15,600±130の年代値が得られ、堆積速度が一定と仮定すると、標高−24.3m付近が約2万年前と推定できる。両者の標高差を取ると約7mとなる。