(3)花粉分析

花粉分析は、堆積物中に保存されている花粉化石を抽出し、顕微鏡下での同定及び計算結果に基づき、古環境及び地質層序の解析を行うものである。

花粉は植物が生産し大気中に放出するものであり、堆積物中に含まれる花粉化石の大部分は、堆積時の後背地(周辺地域)に分布する植物に由来する。このことから、堆積物中の花粉化石群集(組成)は、堆積時の後背地の植物の分布(植生)をほぼ反映する。植生の成立は気候要因の影響を強く受け、気温(温度)変化を要因とする変化(熱帯から極地への緯度に応じた変化、低地帯から高山地帯への標高に応じた変化)と、乾湿度(水分)変化を要因とする変化(乾燥地帯から湿潤地帯への変化)がある。この両者を縦横の座標軸として組み合わせ、植生の分布を支配する気候帯を推定する。現在の日本列島の気候は、南から亜熱帯・暖温帯・冷温帯・亜寒帯の気候帯に区分されることから、それぞれの気候帯に分布する現在の植生に基づき堆積時の気候帯を推定する。

現在の日本列島は、沖縄及び小笠原諸島などは亜熱帯の広葉樹林、九州〜関東の海岸線などは暖温帯の照葉樹林、山地などは暖温帯〜冷温帯の落葉広葉樹林及び針葉樹林、亜高山及び高緯度地域などでは亜寒帯(亜高山帯)の常緑針葉樹林などが分布し、これらの気候帯は以下に示す花粉化石を多産する特徴をもつ。

照葉樹林帯:シイノキ属、アカガシ亜属など

落葉広葉樹林帯:コナラ亜属、ブナ属、ニレ属−ケヤキ属、クマシデ属−アサダ属、クルミ属など

温帯針葉樹林帯:スギ属、イチイ科−イヌガヤ科−ヒノキ科、モミ属など

亜寒帯(亜高山帯)針葉樹林帯:マツ属単維管束亜属(ゴヨウマツ類)、トウヒ属、ツガ属、モミ属など

一般的に花粉分析は属及び科のレベルまでの同定となり、種のレベルの同定まで達しない場合が多い。このため、一つの気候帯に限定することが困難で広い範囲でしか限定できない花粉化石が多い。したがって、一つの化石で気候や植生を論じることは危険である。また堆積物中の花粉化石群集は、局地的な影響があり完全に一致することはないが、よく似た群集が時間的(堆積物の上下)及び空間的(面的)に広がって分布する。以上の理由から花粉化石を群集で考えて植生及び堆積環境を推定し、地層(同時間面)の対比の根拠の一つとしている。

花粉分析の方法は、以下の手順で行った。

(1) 試料を10g程度秤量する(泥炭は2〜5g)。

(2) 塩酸処理で炭酸塩鉱物などを溶解する。

(3) フッ化水素酸(HF)処理で珪酸質を溶解及び泥化する。

(4) 重液(ZnBr2、比重2.2)を用いて鉱物質と有機物を分離させ、有機物を濃集する。

(5) 有機物残渣をアセトリシス処理で植物遺物中のセルロースを加水分解する。

(6) 10%KOH液処理で腐植酸を溶解する。

(7) 十分に水洗する。

(8) 処理後の残渣をよく攪拌し、マイクロピペットを用い適量をプレパラート上にとり、グリセリンで封入する。

(9) プレパラートを検鏡する。検鏡ではプレパラートの2/3以上を走査し、その間に出現した全ての種類(Taxa)について同定・計測し、200個以上の木本花粉を確認することを原則とした。しかし、花粉化石の算出が少なく200個以上の木本花粉を確認できない試料についてはプレパラートの全域を走査・検鏡した。

なお、分析はパリノ・サーヴェイ(株)に依頼して行った。