(1)主要テフラの層序

調査地域には、主に段丘面を覆って火山灰層が広く分布しており、主に道路法面、土取り場などの露頭において観察される。火山灰層中には特徴のある軽石、スコリアあるいは火山ガラスなどを主体とする数層のテフラが識別される。

文献によれば、調査地域に分布するテフラは、下位より地蔵平テフラ(Jzd)、八甲田第2期テフラ(Hkd−2)、甲地テフラ(Kac)、ヌカミソパミス(NP)、洞爺テフラ(Toya)、十和田レッドテフラ(To−Rd)、十和田大不動テフラ(To−BP1・To−Of)、阿蘇4テフラ(Aso−4)、姶良Tnテフラ(AT)、十和田八戸テフラ(To−HP・To−H)、十和田南部テフラ(To−Nb)、十和田中掫テフラ(To−Cu)等が記載されている。

火山灰調査及び火山灰分析の結果、調査地域のテフラとしては、下位より田代平溶結凝灰岩(八甲田第2期テフラ:Hkd−2)、甲地テフラ(Kac)、ヌカミソパミス(NP)、洞爺テフラ(Toya)、十和田レッドテフラ(To−Rd)、十和田大不動テフラ(To−BP1・To−Of)、十和田八戸テフラ(To−HP・To−H)が識別された。

図3−2−4に主な火山灰調査地点を、図3−2−5に火山灰柱状図を表3−2−3に火山灰分析結果を示す。

地蔵平テフラ(Jzd)は黒雲母を多量に含む結晶質火山灰からなるが(岩崎,1983a)、その給源は不明である。

八甲田第2期テフラ(Hkd−2)は、八甲田山を給源とする火砕流堆積物で(村岡・高倉,1988)、青森西部地域〜上北地域では田代平溶結凝灰岩と呼ばれている(青森県,1983,1984,1991)。Hkd−2の噴出年代は村岡・高倉(1988)がK−Ar法年代測定で0.40Ma、高島ほか(1990)が熱ルミネッセンス法年代測定で0.19〜0.29Maを報告している。八甲田第2期テフラ(Hkd−2)は、岩崎(1983a)のTE1に相当する。

甲地テフラ(Kac)は降下軽石からなり、給源は八甲田火山と考えられているが、絶対年代は報告されていない(町田・新井、1992)。宮内(1985)のTo−HP、To−Of及びAso−4の年代をそれぞれ1.2万年前、2.7万年前及び8.6万年として推定すると 19〜25万年前と求められ、これらのテフラが層位学的にHkd−2の上位に当たることから、およそ19〜21万年前と推定した。

ヌカミソパミス(NP)は、甲地テフラ(Kac)の約1m上位にあって、淘汰の良い軽石層からなる。

洞爺テフラ(Toya)は、洞爺カルデラを給源とし、北海道から東北地方一帯を覆う広域テフラである。このテフラの噴出年代はジルコンのフィッショントラック法年代測定より130±30ka(奥村・寒川,1984)、熱ルミネッセンス法年代測定で 103〜134ka(高島ほか,1992)と求められ、層位学的には御岳第1(On−Pm1;8万〜9万5千年前(町田・新井,1992))の下位にあることからToyaの噴出年代は10〜12万年前と考えられている(町田・新井,1992)。このテフラは鯵ヶ沢地域(宮内,1988a)、岩木山麓(黒木,1995)や津軽半島地域(吾妻,1995)で確認されている。大池・中川(1979)の白タフ(WT)に相当する。

阿蘇4テフラ(Aso−4)は、阿蘇カルデラより噴出し、ほぼ日本全土を覆う広域テフラである。本地域では細かく破砕された泡型火山ガラスに富む、層厚1〜2cmほどの火山灰層として認められる(宮内,1985)。その噴出年代は各種の年代測定法により、7〜9万年前とされていた(町田・新井,1992)が、深海底堆積物の酸素同位体比層序から、Aso−4の噴出年代は8.5〜9万年前と推定されている(大場,1991)。

十和田レッドテフラ(To−Rd)は十和田カルデラを給源とする降下軽石からなる。給源より北東方向に分布の軸を持ち、青森県東部を広く覆っている(町田・新井,1992)。絶対年代の測定値は報告されていないが、既往文献の年代から判断して約8万年前と推定した。

十和田大不動テフラ(To−BP1・To−Of)は、十和田カルデラを給源とする降下軽石からなる。黄色の軽石を主体とし、十和田レッドテフラ(To−Rd)と十和田八戸テフラ(To−HP,To−H)の間に挟在する。噴出年代は2.7万年前とされている。

十和田八戸軽石テフラ(To−HP)は十和田カルデラを給源とし、青森県東部を広く覆う。互層状に成層した細粒火山灰と白色軽石からなる(青森県,1982)。このテフラは岩木山麓(黒木,1995)や津軽平野東縁地域で確認されている(吾妻,1995)。太田ほか(1979)など数多くの14C年代測定よって噴出年代は1.2〜1.3万年前と推定されている。今回、本テフラ直下に挟まれている木片の14C年代を測定した結果、12,070±70y.B.P.と,ほぼ同様の結果を得た。

十和田八戸テフラ(To−H)は、To−HPと同一の噴火によってもたらされたテフラで、軽石凝灰岩からなり、石質岩片や天然木炭を伴う(青森県,1982)。十和田湖を中心に半径約50kmの範囲に分布し、噴出年代はTo−HPと同じく1.2〜1.3万年前と推定されている(町田・新井,1992)。