(1)浅層反射法弾性波探査

(1) 目的

浅層反射法弾性波探査は、地表で人工的に弾性波(地震波)を発生させ、地下の地層境界で反射して地表に戻ってくる反射波をとらえることにより、地下の地質構造を調べる探査方法であり、地表からの探査で地下の地質構造の視覚的なイメージを得ることができるという特徴を有する。

本調査においては、空中写真判読ならびに地表地質踏査結果等にもとづき、活断層の可能性があるリニアメントの5カ所を対象とし、リニアメントと直交する探査測線を設けた。この測線下の深度数百m程度までの地質構造を調べ、断層あるいは撓曲の有無を明らかにし、地層の変位量を求めることを目的とした。

(2) 測定数量

測線は、上述のように5カ所に設定した。各測線の測定数量は表1−2−3に示すとおりである。

(3) 探査の概要

浅層反射法弾性波探査の測定においては、最小オフセット(起振点受振点間)距離を20m(T−1W、T−1E測線では50m)としたインライン・エンドオン・オフセット展開と呼ばれる展開法を基本とした。この展開法は、一定間隔に配置した受振器配列の一端から、配列の延長上に一定の距離だけオフセットをとった位置に震源を配置するものである。測定は、このような起振点受振点の位置関係を保ちながら、測線全長にわたって実施する。ただし、測線終端の約500m区間では受振器固定展開とした。すなわち、受振器の展開の終端が測線終端に達したならば、受振器を移動せず、起振点のみ移動して測定を行う。

表1−2−4に各測線の測定諸元の一覧表を示す。本探査においては、起振装置として重錘落下型震源装置を用いた。この震源は、400kgの重錘を油圧装置を用いて約1〜3mつり上げた後に、これを地面上に自由落下させることによって、地震波を発生させるものである。受振器としては固有周波数10Hz、12連の上下動ジオフォンストリングスを用いた。またデータ収録装置としてはOYO Geospace社製のデジタルデータ収録システム DAS−1 を用いた。DAS−1は、シグマデルタ方式と呼ばれるの A/D 変換器を搭載した地震探査装置で、24ビットという高い分解能を有する。本探査の測定に使用した機器の一覧を表1−2−5にまとめる。

(4) 測定方法

浅層反射法弾性波探査の測定に先立って測量を実施した。本調査では測線はすべて道路上に設定したので、道路沿いに測量を行い、5m間隔に杭の打設あるいはマーキングを行った。これらすべての杭位置を受振点とし、偶数番目の杭位置を起振点とした。報告書資料編に各測線の測量結果一覧表を添付する。

以下に、浅層反射法弾性波探査の具体的な測定手順について述べる。これは、1起振点についての作業手順であり、同様の作業を測線全長にわたって繰り返すことになる。なお、図1−2−3に反射法弾性波探査の測定方法模式図を示す。また報告書資料編に、現場作業状況の写真を添付する。

@ 受振器・ケーブルの設置

図1−2−3に示すように、測量で設定した5m間隔の各受振点に受振器(ジオフォンストリングス)を設置する。本調査では、各受振器の設置間隔を2m、アレイ長を22mとした。受振器間隔の決定にあたっては、各測線の本測定開始前に、受振器間隔の異なる3種類の受振器配置でテスト測定を行い、表面波ノイズがもっとも小さくなる間隔を選択した。次に受振器とデータ収録器を専用ケーブル(CDPケーブル)で接続する。また起振時刻を知らせるために、振源からトリガーケーブルをデータ収録器に接続する。

A 起振作業

重錘の落下点が測量で設定した起振点位置となるように起振車を移動し、重錘を高さ1〜3mまで引き上げる。落下点には、舗装面の保護のためウレタンマットを敷き、その横には重錘の落下時を感知するトリガーセンサーを設置する。準備完了後は待機し、以下に述べるように測定本部の合図を受け、重錘を落下させる。

B データ収録

測定本部では、起振点位置に応じて受振する96点の受振器を選択し、測定器の調整を行う。起振点の準備が完了した時点で、全受振点におけるノイズ状況をモニターする。そして、風や交通振動などによるノイズの小さい時を見計らって起振作業者に連絡し、重錘を落下させるよう指示する。重錘が落下すると、落下地点近傍に置いたトリガーセンサーで検出した信号がケーブルを介してデータ収録装置に電送され、データ収録が自動的に行われる。観測者は収録されたデータをディスプレイまたはプリントアウトで観察し、良好であると判断した場合、そのデータをハードディスクに保存する。なお、1回の起振で十分なエネルギーの反射波が観測されていないと判断した場合、同一地点で複数回の起振を繰り返し、観測信号を加算するスタッキング(垂直重合)測定を行う。スタッキングを行うと、ランダムに振動するノイズ成分が弱められ、反射波の信号が相対的に強調され、S/N比が向上する。

(5) 解析方法

現場測定によって取得した波形記録中には、車両の通行による振動ノイズや測線付近で稼働している各種機械より発する振動ノイズ、電気的なノイズなど、さまざまなノイズが含まれている。また、起振によって発生する各種の弾性波のうち、反射法探査で利用する反射波以外の波(屈折波、表面波、空中音波など)は、ノイズと同様、不要な信号である。反射法の解析においては、まず記録中から上記のような不要な信号を除去し、反射波だけを抽出する処理が必要である。これは一般に前処理と呼ばれるもので、前処理によって抽出した反射波記録を対象として各種解析や断面作成を行うことになる。

本調査のデータ処理・解析にあたっては、まず現場でハードディスクに収録した各起振点ごとのデジタル記録をワークステーション(SUN Ultra)に転送し、反射法探査データ処理ソフト ProMAX(LandMark社製)を用いて処理を行った。図1−2−4に処理・解析のフローチャートを示す。

以下に主な処理の概要を述べる。

@ ジオメトリ編集

現場で取得した観測波形データは、起振点ごとにひとつのファイルとして保存されている。そこでまず、各ファイルがどの起振点のデータであるか、また、ファイル中の各チャンネルのデータがどの受振点のものであるか、関連づけておく必要がある。このような処理をジオメトリ編集と呼ぶ。

A バンドパスフィルター(Band Pass Filter; 帯域通過フィルター)

周波数フィルターの一種である。観測された波形記録には、表面波のような反射波以外の波やバックグラウンドノイズ(振動などの雑音)が含まれている。これらのノイズと反射波の周波数帯域の違いに着目して、反射波の信号と異なる周波数を持つノイズを低減させる処理である。

B TAR(True Amplitude Recovery; 真振幅回復)

地表で発生した弾性波は、地下を伝播していくうちに、球面発散、透過損失、粘性減衰などの効果により振幅が減衰する。これらの現象により減衰した波形の振幅を、減衰を受る前の振幅に増幅する処理をTARと呼ぶ。ここでは球面発散に関する処理を適用した。この処理により、伝播経路長の長いものほど振幅が増幅されることになる。つまり、深部の反射面からの反射波がより増幅され、識別しやすくなる。

C AGC(Automatic Gain Control; 自動振幅調整)

観測された波形記録は、屈折波や表面波の振幅が大きく、反射波の振幅はこれらの波に比べて小さいのが一般的である。このような振幅の小さい反射波を初動付近の波の振幅と同程度の大きさになるように強制的に増幅する処理をAGCと呼ぶ。この処理を施すことによって、反射波信号の識別をさらに容易にすることができる。

D 静補正

測線上の地形が起伏に富んでいたり、弾性波速度が低い表層の層厚変化が大きい場合、仮に地下深部の反射面が水平であっても、反射波の到達時間にばらつきが生じてしまう。このような地表付近の不均質に起因する時間ずれを補正する処理が静補正である。静補正にはいくつかの方法があるが、ここでは、屈折波の初動走時を読み取り、屈折法解析により各起振点受振点における表層部の伝播時間(ディレイタイム)を求め、その値で補正を施す処理(Refraction Statics;屈折静補正)を適用した。

E デコンボリューションフィルター(Deconvolution Filter)

観測された反射波形は、地層の音響インピーダンス変化にともなう反射係数列と地下を伝わる波の基本波形のコンボリューションであると考えられる。したがって、基本波形の逆特性を持つフィルタを設計し、       これに観測波形を入力すると、地下の反射係数列を得ることができる。このような処理をデコンボリューションフィルタと呼ぶ。この処理により、多重反射波を低減することができ、反射波をよりパルスに近い(周波数が高く独立している)波形に変換することができる。

F CDPソーティング(CDP Sorting; 共通中心点記録群への編集))

現場測定では、1回の起振で96受振点の波形記録を取得し、1起振点毎の記録として収録している。以下の処理を行うためには、すべての記録がCDPギャザーごとに並んでいる方が扱い易いため、起振点毎の記録をCDPギャザーごとに並び変える作業を行う。この並び変えを、CDPソーティングと呼ぶ。

<CDPギャザー>

図1−2−5の(a)に示したような起振点受振点配置の観測データを並び替え(b)に示すように反射点が共通な記録、すなわち起振点と受振点の中点が同じ位置となる記録を集める。このような記録群をCDPギャザーと呼ぶ。最終的には微弱な反射波を強調させる目的でこの記録群内の記録を加算する。このような手法は、CDP重合法CDPスタック)と呼ばれ、反射法探査の標準的な解析法として用いられている。

図1−2−5 CDPギャザー説明図     

G 速度解析

速度解析は、CDPスタックを実行する際に必要な速度を知るために、CDPギャザー内の反射波位相の並びから、反射波の発生深度(実際には伝播時間で表現する)およびその深度までの平均的な速度を決定する作業である。

i番目の反射面からの反射走時Ti(X)は、オフセット距離X(起振点受振点間の距離)、2−Way Time(X=0での反射面までの往復時)T0i、CDPギャザー内での反射位相のみかけの平均速度Vstkによって次式のように表されるので、オフセット距離Xの異なるいくつかの波形記録から反射走時Ti(X)を読みとってグラフにプロットすれば、VstkとTを決定することができる。

          

Ti(X)={(T0i)2 +(X/Vstk,i)2 }1/2

ここに、  i  :i番目の反射面を表す添字

X  :オフセット距離

T   :垂直(X=0での)往復走時

Vstk :CDPギャザー内の反射位相のみかけの平均速度

H NMO補正、ミュート、CDPスタック

CDPスタックとは、CDPギャザー内の記録を加算(重合)し、CDP位置における地下情報を表す1個の波形記録を作成することである。 CDPスタックに先立ち、CDPギャザー内の各オフセット距離の波形記録をオフセットがゼロの場合の記録に変換する必要がある。この処理を NMO(Normal Move Out)補正と呼ぶ。次にNMO補正によって波形が大きく歪んだ部分や初動付近の屈折波等の不要な部分を消去する。この処理をミュートという。最後に、CDPスタックを実行して各オフセット距離の波形記録を重合する。CDPスタックを行うことによって、速度Vstkを持つ反射位相だけが重ね合わされ強調され、一方、多重反射波や表面波など、このVstkと異なるみかけ速度をもつ波の振幅は相対的に抑制される。重合後は、各CDP地点につき1本の波形記録となり、各々CDP点の記録として断面表示される(時間断面)。

I 残差静補正

静補正では補正しきれなかった起振点受振点近傍の地表条件の違いによる反射波の走時のばらつきを補正する処理である。ここで用いたパワー最大化自動静補正は、NMO補正後のCDPギャザーにおいて、あらかじめ指定したウインドウ内でのスタック結果のパワーが最も大きくなるような補正値を各受振点、起振点別に求め、これをすべてのCDPに対して行い、測線全体を通して最もスタック結果のパワーが大きくなる各受振点、起振点の補正量を自動反復計算によって求めるものである。

J マイグレーション

CDPスタックにより得られる時間断面は、反射面が傾斜していたり凹凸がある場合には、真の構造を示さない。このような時間断面上の見かけの構造を真の構造に近い断面に変換する処理をマイグレーションと呼ぶ。ここでは、周波数―空間領域で真の傾斜に変換するF−K マイグレーションを用いた。

K 深度変換

以上の処理・解析で求めた時間断面は、その縦軸が時間を表している。縦軸を深度で表す深度断面を得るためには、速度解析で求めた速度値あるいは、ボーリング調査結果などから推定された速度値を用いて、時間を深度に変換する必要がある。この処理を深度変換という。今回は、速度解析によって求めた速度分布モデルをスムージングし、深度変換の速度モデルとして使用した。

L 地質解釈

浅層反射法探査の解析結果は、地下の弾性波伝播特性の分布を示すもので、必ずしも地質分布を示すものではない。そこで、最終的なマイグレーション後の深度断面について、地質解釈を行う。すなわち、断面内に見られる主な反射面と地質境界を対応づけ、地質構造を明らかにする作業である。解釈にあたっては、地表地質踏査やボーリングなど、調査地で実施した各種調査結果を利用し、総合的な解釈を行う。