(2)平均変位速度

地層及び地形面の鉛直変位量と平均変位速度を表2−2−5に、地層及び地形面の鉛直変位量と年代の関係図を図2−2−28に示す。これらのうち比較的精度の高いものを以下に示す。調査地における変位基準としては、@鶴ヶ坂凝灰岩部層、A岡町層、BT4a層(T4a面)、CT4b層(T4b面)がある。

@鶴ヶ坂凝灰岩部層(60〜70万年前)

鶴ヶ坂凝灰岩部層は八甲田第1期火砕流堆積物に含まれ、その年代は60〜70万年前とされている(青森県,1996)。小館付近の既存資料調査(青森県,1990)では、沖積平野で鶴ヶ坂凝灰岩部層が標高−550m付近に分布することが確認されており、この分布標高(沈降)を撓曲(断層)の変位とみると、平均変位速度は0.79〜0.92m/千年となる。

A岡町層(約25万年前以前)

岡町層は主に砂礫からなり、細越付近では八甲田第2期火砕流堆積物の基底をなす地層であると考えられる。八甲田第2期火砕流堆積物の年代は約25万年前とされている(青森県,1996)ことから、約25万年前以前に堆積した地層と考えられる。岡町層は極浅層反射法弾性波探査を実施した細越付近の丘陵部で分布が確認されており、反射断面図から撓曲が明瞭に認められる約400mの範囲で150m変位している。岡町層の年代を25万年前と仮定すると、平均変位速度は0.6m/千年となる。

BT4a層(T4a面)

T4a層及びT4a面は撓曲(断層)を跨いで分布しない。そのため、T4a層の上限面とT4a面が対比されると仮定し、変位量を見積もった。 T4a層の上限面は、撓曲の影響を受けていないと考えられるボーリングH9B−1孔及びH9B−8孔の標高約3mを採用する。細越浅田(南側)の調査地周辺では、T4a面が標高約26〜34mに分布する。両者の標高差(約32m)を、T4a層(T4a面)の変位量とする。T4a層の年代はボーリング調査及び14C法年代測定から約50,000〜60,000年前と推定されており、T4a層(T4a面)の平均変位量はO.56〜O.62m/千年となる。

CT4b層(T4b面)

T4b層(T4b面)もT4a層(T4a面)と同様の方法で変位量を見積もった。T4a層の上限面は、沖積堆積物に浸食されていると考えられ、撓曲の影響を受けておらず、浸食量が少ないと考えられるボーリングH9B−8孔の標高約9mを採用した。細越浅田(南側)の調査地周辺では、T4b面が標高約20〜26mに分布する。両者の標高差(約17m)を、T4b層(T4b面)の変位量とする。T4b層の年代はボーリング調査及び14C法年代測定から約30,000〜50,000年前と推定されており、T4b層(T4b面)の平均変位量はO.34〜O.57m/千年となる

しかし、@〜Cでで求めた平均変位速度には、以下に示す問題がある。

@鶴ヶ坂凝灰岩部層

・既存資料から推定したため、年代測定を行っておらず確実な値ではない。

・沈降側だけで見積もっているため変位量が大きくなる可能性がある。

A岡町層

・撓曲の幅がさらに西側に広がっていることが考えられるため、撓曲全体の変位量が大きくなることが考えられる。

・年代が25万年よりも古くなることが考えられ、平均変位速度が小さくなる可能性がある。

BT4a層(T4b面)及びCT4b層(T4b面)

・地層と地形面を対比しているため、あくまでも参考値である。

・撓曲の幅の全域に分布していないこと、撓曲の幅がさらに西側に広がっている可能性があることから、変位量が大きくなることが考えられる。

@〜Cのそれぞれの値に問題点はあるが、A〜Cは部分的な変位を見ている可能性が強く、現在得られているデータでは@が撓曲全体の変位を考慮していると考えられる。

以上の点から入内断層の平均変位速度は、おおよそ0.8〜0.9m/千年であると考えられる。

また、この他にボーリング調査結果で得られた各地層の傾斜と撓曲の幅から変位量を見積もることを試みた。しかし、撓曲の幅が西側に広がる可能性があること、幅を400mと仮定した場合、傾斜が1゚変化すると変位量が約7mも変化してしまい誤差が大きいと考えられることから、正確な値として採用できないと判断した。