(4)段丘面の編年

段丘面は、前述したようにT1面〜T5面に区分される。

a.既往文献による編年

津軽山地西縁断層帯の調査結果(青森県,1996)によれば、T3面に対比されるVm面は段丘堆積物の最上部に洞爺テフラ(Toya;100〜120ka(町田・新井,1992))を載せていることから、このVm面の形成年代を10〜12万年前に、Uf面はToyaを載せ、それより下位に厚い火山灰を伴いVm面に切られていることから、Vm面形成期前の低海水準期に形成されたと考え、約140〜160kaに形成されたとしている。T4面に対比されるWf面は、さらにWfb面及びWfa面に区分したうえで、いずれも洞爺テフラ(Toya)をのせず、段丘面の延長が沖積面下に没することから、洞爺テフラ(Toya)降下以降の低海水準期に形成されたと考え、それぞれ約3〜5万年前及び約2万年前に形成されたとしている。なお、吾妻(1995)は、Wf面の形成年代を約2万年前と推定している。

b.段丘面とテフラ−火山灰分析結果−

地表踏査の結果、T1面、T2面、T3面、T4面及びT5面のうち、T2面、T3面には火山灰が載っていることが確認されたが、T4面及びT5面では確認されなかった。なお、T1面については青森空港建設工事関連の文献に比較的厚い風化火山灰層の存在が記載されているが、本調査では試料採取が可能な露頭が確認されなかった。

T2面及びT3面における火山灰露頭位置を図2−2−7に、それぞれの火山灰柱状図と構成テフラを図2−2−8に、火山灰分析結果を表2−2−2に示す。

<T2面>

T2面については丘陵の北縁で露頭の状態が良好であったため試料採取を行えた。しかし、断片的に分布している丘陵の東縁では良好な露頭がなく試料採取を行うことができなかった。

T2面上の風化火山灰層中の広域指標テフラとしては、表層から下位へ十和田八戸テフラ(To−Hp)、洞爺テフラ(Toya:約10〜12万年前)、甲地テフラ(Kac:17〜20万年前(宮内,1985))及び八甲田第2期テフラ(Hkd−2:約25万年前)が検出された。八甲田第2期テフラ(Hkd−2)は、八甲田第1期テフラ(Hkd−1:約60〜70万年前)を主体とするT2段丘堆積物を不整合に覆っていることから、T2面の形成年代は約25万年前以前と推定される。この年代は津軽山地西縁断層帯(青森県,1996)周辺におけるUf面の年代14〜16万年前より古く、むしろTm面の年代約21万年に近似する。したがって、入内断層地域の丘陵の北縁のT2面はTm面に相当する可能性が高い。

<T3面>

T3面については広く分布が認められる丘陵の北縁(三内丸山付近の遺跡あるいは住宅地)で試料採取可能な良好な露頭がなかったため、丘陵の東縁に断片的に分布している上記の1地点のみで試料採取を行った。

分析の結果、T3面上の風化火山灰中の広域指標テフラとしては、表層近くで十和田八戸テフラ(To−Hp)が検出されたが、期待された洞爺テフラ(Toya)など他の指標テフラは検出されなかった。

年代的な確証は得られなかったが、丘陵の北縁のT3面については、最も広い分布域をもち、面の保存も比較的よいことなどの分布形態から、津軽山地西縁断層帯のVm面(青森県,1996)に対比され、形成年代は約10〜13万年前と考えられる。なお、三内丸山付近では縄文遺跡の発掘により表層を火山灰が覆っているいることが明らかになっており、遺跡付近で保存状態の良い露頭が認められれば、洞爺テフラ(Toya)が検出される可能性が高い。

T3堆積物中の火山灰

浅田地区(南側)のボーリングH9B−3のT3面堆積物中(深度12.85m)に、層相が洞爺テフラ(Toya)と似た火山灰が挟まれていたため分析を行った。しかし分析の結果、ガラスの屈折率が洞爺テフラ(Toya)の範囲より高く、洞爺テフラ(Toya)ではないと鑑定された(表2−2−2)。屈折率等からみると、八甲田火山起源のものと推測され、八甲田第1期テフラ(Hkd−1:約60〜70万年前)あるいは八甲田第2期テフラ(Hkd−2:約25万年前)が再堆積したものと考えられる。