(3)入内川東側地域の地質構造

入内川東側地域は地表を第四系の厚い八甲田第2期火砕流及び完新統に広く覆われ、それより下位の地層の分布及び地質構造は不明である。そこで既存ボーリング資料及び弾性波探査反射記録等により概略の構造を把握した。

A.入内川以東の新第三系及び第四系更新統

既存のボーリング位置及び弾性波探査反射記録の調査位置を図2−2−2に、地質断面図を図2−2−3−1図2−2−3−2図2−2−4−1図2−2−4−2図2−2−5図2−2−6に、弾性波探査反射記録を図2−2−7図2−2−8図2−2−9に示す。

ボーリング資料によれば本地域の火山山麓を構成する新期火山噴出物(八甲田第2期火砕流)の下位には、上位から順に第四系更新統の岡町層、鶴ヶ坂層(八甲田第1期火砕流堆積物)、大釈迦層、さらには新第三系鮮新統の遠部層、尾開山凝灰岩層ア8大落前川層)、中新統の和田川層、四ツ沢層等の分布が確認され、平野では完新統の下位に新期火山噴出物(八甲田第2期火砕流)、岡町層、鶴ヶ坂層(八甲田第1期火砕流堆積物)、大釈迦層等の分布が確認されている。これらの地層は、断面図(図2−2−3−1図2−2−3−2図2−2−4−1図2−2−4−2図2−2−5図2−2−6)に示したように、全体として北に緩やかに傾斜しており、下位の地層ほど傾斜がやや急になっている傾向が認められる。

新期火山噴出物(八甲田第2期火砕流堆積物)が平野下では3〜4層に分岐しており、何層かのフローユニットを示すものかもしれない。基底の標高は平野下で最大−450〜−520mにも達する。岡町層は上位の新期火山噴出物(八甲田第2期火砕流堆積物)と下位の鶴ヶ坂層(八甲田第1期火砕流堆積物)に挟まれた砂・礫からなる地層で、山麓から平野下へ追跡される。下流ほど厚くなり、基底の標高は2測線で約−600mに達する。本層は西側の丘陵でも細越西方に一部露頭が確認される。鶴ヶ坂層(八甲田第1期火砕流堆積物)は2測線で山麓から平野の中程まで分布が確認されている。その上限面は最大約−550mである。大釈迦層は鶴ヶ坂層(八甲田第1期火砕流堆積物)あるいは岡町層の下位に数100mの厚さで分布している。上限面の標高は南から北へ高度を下げ、2測線でほぼ 0〜−630m、1測線で−150〜−400mとなっている。

鮮新統の遠部層、大落前川層及び中新統の和田川層、四ツ沢層等は、火山山麓下において大釈迦層の下位に分布が確認されている。鮮新統・中新統の上限面の標高は2測線でほぼ 0〜−600m、1測線で−150〜−550mとなっている。

一方、既存の弾性波探査反射断面図によれば青森空港東方の入内川を横断するA、B、C測線(図2−2−7及び図2−2−8)において、いずれも入内川左岸直下で反射面の不連続が認められる。反射面は表層では東下がりの撓曲状構造が認められ、深部では不連続面となっている。不連続面は地形、地質から想定される入内断層の位置に一致していることから、入内断層を捕捉している可能性が高い。不連続面(入内断層)はその東側の反射面(地層面)が深部において、より西側にトレースされることから、西側へ高角度に傾斜しており、ボーリング資料を加味すると西上がり東落ちの逆断層であると判断される。

また、火山山麓を東南東方向に横断するF、D、E測線の反射断面(図2−2−8及び図2−2−9)では反射面(地層面)は西北方向に緩やかに傾斜しており、下位の反射面(地層面)ほどやや急傾斜となっている傾向が認められる。これら反射面のうち鶴ヶ坂層(八甲田第1期火砕流堆積物)に対比されている明瞭な反射面の深度は、A〜C測線の不連続面(入内断層)付近において−500〜−450mと解析されている。 B.平野下の完新統

平野下の完新統について、その地層構成及び深度(分布標高)を青森県地質調査地盤集(青森県、1980)及び青森県地下水調査報告書(青森県、1981)に収録されたボーリング柱状図を基に検討した。それらから引用したボーリング柱状図は、合計約140本であり、資料集に収録した。引用したボーリング柱状図のうち、青森市街の中心から西縁に向け、代表的なボーリング柱状図を抜粋して図2−2−10図2−2−11図2−2−12図2−2−13図2−2−14図2−2−15図2−2−16に示す。

これらボーリング柱状図の記載及び標準貫入試験値(N値)によれば、平野下の地層は地表から主に砂層、海成シルト層及び火山性砂・軽石層からなり、さらにその下位にはややしまったシルト層あるいは腐植土層が分布する。表層の砂層は最も厚い青森港付近で地表から10m程度まで分布し、N値15〜30程度の砂の卓越した地層で、平野内陸で自然堤防堆積物、海岸付近では浜堤堆積物に相当すると考えられる。海成シルト層は青森港付近で深度10〜20m程度まで比較的厚く分布しており、腐植物、貝殻等を混じえたN値5以下の軟弱なシルトからなり、最終氷期以降の海進時の海成層と判断される。火山性砂・軽石層はさらにその下位の深度20〜30m程度まで分布し、火山噴出物起源の火山灰、火山砂、軽石を主体とするN値30以上のややしまった地層であり、しばしば埋木を混じえるなど、上位のシルト層を堆積させた海進に先立つ低海水準期の陸成堆積物と推察される。ただし、この火山性砂・軽石層は1万年前以前の最終氷期の陸成堆積物の可能性もある。ボーリングの多くはこの火山性砂・軽石層を確認して終了しているが、さらに掘削されているボーリングではその下位の地層をも確認している。それらの地層はシルト層あるいは腐植土層からなり、N値も上位の海成シルト層よりしまっていることから、圧密を受けた古い時期の陸成層であり、更新世後期の堆積物と判断される。

以上のように、火山性砂・軽石層は1万年前以前の最終氷期の陸成堆積物(例えば約1.3万年前の十和田八戸軽石流堆積物)の可能性があるものの確証はなく、それより下位の地層は更新統と判断されることから、ここでは表層の砂層、海成シルト層から火山性砂・軽石層までを完新統として扱うことにする。

<完新統下部海成シルト層下限面の形状>

完新統下部海成シルト層は平野下に厚く、かつ普遍的に分布している。この海成シルト層の下限面の等高線図を図2−2−17に示す。ただし、地表標高は柱状図に記録されていないため地形図(縮尺1万分の1あるいは2万5千分の1)から読み取ったので、下限面標高は2m程度の誤差を含んでいる。

海成シルト層下限面は平野周辺で浅く、市街中心の青森駅付近に向け深くなり、全体として盆状を呈する。平野西縁では、海成シルト層下限面が相対的に急に深くなる遷急線がVm段丘の東側前面にほぼ南北方向に追跡される。

<完新統基底面の形状>

海成シルト層下位の火山性砂・軽石層は完新統の基底を構成して平野下に普遍的に分布している。この火山性砂・軽石層の下限面(完新統基底面)の等高線図を図2−2−18に示す。基底面標高は前期と同様の誤差を含んでいる。完新統基底面は前記シルト層より約5〜10m程度深い盆状を呈し、市街中心で約標高−30m前後となる。平野西縁では、Vm段丘の東側前面で急に深くなり、その遷急線がほぼ南北方向に追跡される。この遷急線は海退時の海食崖と考えられるが、入内断層の延長線上にあたり、しかも南北方向であることから、同断層がここまで延長し、断層の変位が関与している可能性もある。