(2)八郎潟北岸地区

八郎潟北岸地区の沖積段丘はA1、A2、およびA3面に区分され、A3面は能代地震による隆起域に相当する。また、最高位のA1面の中には2列の浜堤が認められる。浜堤直下に汀線が存在していたと想定すると、A1面は地域的にはさらに3面に区分され、これを仮にA1(高位)面、A1(中位)面、およびA1(低位)面とした。このうちA1(高位)面は最高位の沖積段丘面であり、縄文海進最大海進期の地形面と推定される。

合計5面の沖積段丘面がつくる汀線の高度を1/5,000国土基本図から読み取り、東西方向の断面に投影して比較した(図4−3−5)。

能代地震による隆起域に相当するA3面の汀線高度は、最も高い位置で標高約1.5mに位置している。1/5,000国土基本図に図示された標高点の大部分は水田の畦の交点にあり、さらに地形的な汀線高度と実際の離水高度に若干の差があることを考慮すると、汀線はこれより0.2〜0.5m程度低い標高1.0〜1.3mにあったと推定される。能代地震以降の海水準変動や、能代断層の運動以外の変動に伴う隆起、沈降を無視できるとすれば、この高度は能代地震による断層隆起側の単位隆起量を示している。これは粟田(1985)による隆起量の読み取り(1.0m)とほぼ一致する。

5面の沖積段丘面のうち、A1(中位)、A2、およびA3面の汀線は連続性が良く、大略の高度変化を把握できる。いずれの面も能代断層近傍で崖線が消失する位置から1.0〜1.5km東側で最大高度を示す。特にA1(中位)の汀線は、能代断層側では西へやや撓みこんで低下しているように見える。この撓み込んだ区間の幅を断層隆起側における撓曲構造の幅とみると、米代川南岸に分布するA1面の撓曲構造の幅と概ね調和的である。

一方、汀線高度は最大高度を示す位置から東側へ向かって次第に低下しており、能代断層隆起側の上昇形態が、東への傾動を伴うことを示唆する。最大高度を示す位置はほぼ大沢他(1985)の鵜川背斜に相当する。

八郎潟北岸地区の沖積面群には、能代断層による隆起で形成された地形面と最大海進以降の海水準変動等で形成された地形面とが混在すると予想される。最大海進以降に繰り返し地震が発生し、断層変位に累積性があるとすれば、傾動の勾配や撓曲構造の撓みにも累積性が生じることが予想される。汀線高度の勾配を各沖積面の汀線高度で比較すると、A3面→A2面→A1(中位)面の順に傾動が累積的に大きくなる傾向が認められる。

図4−3−3 沖積面の傾斜状況

図4−3−4 能代断層前縁部での沖積面汀線高度分布図

図4−3−5 八郎潟北岸の沖積面の汀線高度分布図